ブック質問状:「想像ラジオ」 いとうせいこう16年ぶり長編は想像を絶する難産

「想像ラジオ」(河出書房新社)のカバー
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「想像ラジオ」(河出書房新社)のカバー

 話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、いとうせいこうさんの16年ぶりの長編小説「想像ラジオ」(河出書房新社)です。河出書房新社の坂上陽子さんに作品の魅力を聞きました。

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 −−この書籍の魅力は?

 木の上に引っかかっている男が「想像」という電波を使ってラジオを始めるというお話です……と、これだけ書いても何が何やらわかりませんよね(笑い)。まずは最初の数ページでもいいから読んでみてください。架空の物語なのに、気がつけば現実に自分の体験したことや、これまで出会ったり、離れ離れになったりした人たちのことを重ねあわせずにはいられない、本を飛び越えて自分の心に直接チューンインしてくるような、不思議な小説です。

 −−作品が生まれたきっかけは?

 もともとは東日本大震災直後に、いとうさんがツイッターを使って始めた「文字DJ」(アカウントは@seikoitoDJ)が発想の種となっていると思います。そしてこのDJを続ける一方、哲学者で作家の佐々木中さんとお二人で交互に新作小説を書いて義援金を募るという“チャリティー即興小説”の執筆をウェブ上で開始します(後に「Back2 Back」というタイトルで12年2月に弊社より書籍化)。長らく小説を書いていなかったいとうさんが、このとき、再び作品を書き始めたのはまさに「事件」でした。そして、この後に「想像ラジオ」が誕生します。

 −−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。

 いとうさんの小説の一人のファンとして「ついに新作が読める!」という喜びはとても大きかったです。ただ、執筆中のやりとりを続ける中で、創作の過程でかなり苦しまれている様がうかがえました。一時期は「あきらめました」というメールをいただいています。今考えただけでも、その苦しさはこの作品のテーマからすると想像を絶するものがあります。何もできず、じっと待つしかない自分がただ歯がゆかったです。

 完成稿が来た時に、読み終えた後、滂沱(ぼうだ)の涙を流しました。同時にこんな大切な作品をあずかった身として「絶対にこれは多くの人に広く、そして長きにわたって届け続けなくては」と使命感のようなものが生まれ、ずっとプレッシャーを感じていました。

 −−最後に読者へ一言お願いします。

 無力感、絶望感に打ちひしがれ、未来を想像する力さえ失われたように感じてしまう……そんな経験は誰でも、生きている限りいや応がなくおとずれてしまうことがあります。この小説は、そんな深い悲しみと共に生きていく方法を教えてくれます。繰り返しになりますが、まずは読んでみてください。そしてぜひ、作品について周りの人と語り合ってみてください。

 河出書房新社 編集第一部 坂上陽子

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