作家の乙武洋匡さんが小学校教師の体験を基に書いた自伝的小説を映画化し、今年3月に公開された「だいじょうぶ3組」のブルーレイディスク(BD)とDVDがリリースされた。“手も足もない”教師・赤尾慎之介(乙武さん)とその補助教員・白石優作(TOKIOの国分太一さん)のコンビと2人が受け持つ5年3組の28人の子供たちとの1年間を描いた今作。今回の映画化を機に、改めて原作の乙武さんに作品や自身の出演について、込められた思いなどを聞いた。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)
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「撮影中に国分さんと雑談をしていたときに背筋が伸びるような気持ちになった瞬間がありました」と話し出した乙武さん。「映画にかかわらせていただくのは初めてでしたが、国分さんは『しゃべれどもしゃべれども』で主演をなさったことがある経験から『映画になるというのは後世に形として残る』と言われたときに、ああ……と思いました」とBD・DVD化されると聞いたときの印象を感慨深げに語る。
原作となった小説の執筆の経緯は「2007年の4月から3年間、教員を務めさせていただき、さまざまなことを学ばせていただいたので、貴重な経験を僕だけのものにとどめておくのはもったいないし、広く経験を伝えたいなどの気持ちがありました。大半のエピソードは実際にあったことを基にしていますが、結末はハッピーエンドではなかったり、ときには残酷な形を迎えてしまうものもありました。ノンフィクションとして提示することも考えましたが、僕自身のキャラクターや、『五体不満足』から続く作風を考えると、明るい物語の中でメッセージを伝えられたほうがいいのかなと思い、小説という形にさせていただきました」と説明する。
映画化の話を聞いたときは、「実は書く段階から映像化されたらいいと思いながら書いていたので、実際にお話をいただいたときは本当にうれしかった。ですが『赤尾役は乙武さんで』というのはまったく想定しておらず、そこは想定外でした」と笑う。続けて「最近コンピューターグラフィックス(CG)とかすごいから、プロの役者さんが演じてくださって、(画像処理などで)手足を消せるのかなと思っていましたが、そうもいかなかったようです」とユーモアたっぷりに自身の出演が決まったときの心境を明かした。
初挑戦にして主役という大役をこなした乙武さんだが、クランクイン直前まで不安が尽きなかったという。「演技経験がないのだから、演じるよりはもう一度新しい学校に赴任して新しいクラスを担任するという気持ちで臨んだほうがいいのかなと、ある意味開き直りました」と振り返る。その結果、「教室の中で子どもたちに話しかけたり授業のシーンについては、思っていた以上に自然にできた気がします」と成果が上げられたことに胸を張った。
実際の出来事をモチーフにしたエピソードが数多く登場するが、中でも乙武さんは生徒役を演じる子どもたちとの出会いのシーンが印象に残っていると話す。「最初の出会いで出席簿を見ずに出席を取るシーンは、監督がそこまで会わせないことにこだわっていたので、万が一NGを出して撮り直しになるとすべてが水の泡。にもかかわらず、会ったこともない子どもたちの顔を見て28人分のフルネームを言わなければならない。僕の初シーンでもありプレッシャーは相当なものがありました。だからこそ、あのシーンに対する思い入れはすごく強いものがあります」と当時の心境を振り返る。見事NGを出さなかった乙武さんだが、「国分さんは僕の後ろでチョークで字を書くという演技だったのですが、『乙武さんは初演技で経験のある俺が間違えたらどうしよう』と、僕以上のプレッシャーを感じていたみたいです」と実は国分さんのほうが緊張していたという裏話を明かした。
映画では乙武さんがサッカーをしたり、バリカンで頭を刈られたりという驚きのシーンも飛び出す。サッカーについては撮影が冬だった上に、雪深い地域で毎日スタッフが総出で雪かきしていたという。乙武さんは「おしりが凍ってしまうのではというほどのしんどさ」と語るほどの苦労の中、「(廣木隆一監督が)相当のSで『ゴールがきれいに決まるまで止めないから』と」と今だからこそ笑って話せるエピソードを披露。そして「何回か撮りました。ボールが転がりたまたまゴールしたものも許してくれず、バシッと決まらないとダメといわれました。ゴールを決めた後に子どもたちと抱き合うシーンがありますが、演技ではなく、やっと終われるみたいな」と冗談めかしながらも気持ちが入ったシーンだったことを明かす。
バリカンのシーンは乙武さんが実際に教員をしていたときの話を再現したそうで、乙武さんは「演じる側としてお引き受けしたことなので、ある程度坊主になることは覚悟していました」と心構えができていたと話す。それよりも「原作では水に顔をつけられない子どもを勇気づけるために赤尾自身がプールに飛び込むシーンがあるのですが、そちらでなくてよかった(笑い)。真冬に裸でプールに飛び込むよりは、まだこっちのほうがいいと思いました」と笑顔を見せた。
映像ならではの良さを「子どもたちの一年を通じての変化の様子は、小説で読むよりも映像のほうがより伝わるんだろうなというのは強く感じました」と分析する乙武さん。撮影の思い出を聞くと「国分さんとの出会いが大きい。映画の肝は赤尾と白石がどれだけの信頼関係で補い合いながら子どもたちに向き合っていけるのかということだと思う。赤尾と白石は長年の友情があり、信頼関係があるところからのスタート。どうスタートの時点からその状態に持っていくのかが課題でした」と振り返る。続けて「クランクインする前に直筆の手紙で、『そういう事情もあるのであえてなれなれしく図々しくいかせていただきます』と宣言をしたところ、国分さんも受け入れてくださり、すごくいい形でスタートできました」と撮影前のやりとりを明かす。ほぼ初対面だったそうだが、撮影中控室が別々にもかかわらず、「いつも同じ部屋でお弁当を食べたり野球の話とかしていたぐらい仲良くなりました」と語った。
乙武さんは今作に込めた思いを「『五体不満足』から一貫して伝えている“みんな違ってみんないい”というメッセージを、その思いで教員を務めてきましたし、映画を通じても一番伝えたかった思いでもあります。しっかりと伝わる作品になっていると思います」と表現する。BD・DVD化については「映像作品のリリースというのは劇場公開時に見に行けなかった方だけでなく、僕にとっても待望のという形です。子どもと関わる立場にいる方、これから子どもと関わることになるような方には特に見ていただきたいです」とうれしさをにじませた。
ちなみに次に俳優業に挑戦するならどのような役をやりたいかという質問に、乙武さんは「悪い役をやりたい」と意外な返答。その理由を「障害者は悪いことをしない、障害者はいい人だという固定概念があるとは思うのですが、僕が『五体不満足』を出した一番の理由は、障害者に対する固定概念を打ち破りたいという思いが強く、楽しく生きている人もいるということを自分をモチーフに伝えたかったというのがあった。そういう意味では『だいじょうぶ3組』は伝えたいことをしっかり伝えられたのですが、赤尾慎之介は善人なので、障害がある悪いやつも世の中にはいるはず。それを伝えられるような作品に挑戦してみたいです」と笑顔で乙武節を披露していた。
*……ブルーレイディスク(BD&DVD2枚組み)5985円▽DVD(2枚組み)4935円、発売:講談社/電通・販売:東宝
<プロフィル>
1976年4月6日生まれ、東京都出身。早稲田大学在学中、自身の経験をユーモアを交えてつづった「五体不満足」(講談社)が多くの人々の共感を呼ぶ。1999年3月から1年間、TBS系「ニュースの森」でサブキャスターを務め、いじめ問題やバリアフリーについて取材、リポートを行う。大学卒業後は「Number」(文藝春秋)の連載を皮切りに執筆活動を開始。スポーツライターとして、シドニー五輪やアテネ五輪、サッカー日韓共催W杯などの大会を現地で取材した。子どものころのエピソードを基に書いた絵本「プレゼント」(中央法規出版)なども手がける。2005年4月からは、東京都新宿区教育委員会の非常勤職員「子どもの生き方パートナー」として教育活動をスタートさせ、2007年2月に小学校教諭二種免許状を取得。同年4月から2010年3月まで東京都杉並区立杉並第四小学校教諭として勤務し、3、4年生を担任した。その経験を基に同作の原作「だいじょうぶ3組」、その続編「ありがとう3組」を出版。その他、著書多数。現在は、メディアを通して教育現場で得た経験を発信していく活動を柱にしている。
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