ムロツヨシ:テストなし本番「せりふをかんでもそのまま」 福田雄一監督の演出にたじたじ

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 ドラマ「勇者ヨシヒコ」やミュージカル「フル・モンティ」など、数多くのコメディー作品を生み出してきた、監督・脚本家の福田雄一さんと、福田作品を支えてきた俳優のムロツヨシさんがタッグを組んだ深夜ドラマ「新解釈・日本史」が27日からMBSで放送がスタートする(TBSでは29日深夜1時11分に放送)。今作が連続ドラマ初主演となるムロツヨシさんに話を聞いた。

ウナギノボリ

 −−連ドラ初主演ということですが、感想を。

 最初に聞いたときは、びっくりしました。福田さんの「フル・モンティ」という舞台に出演していたときに、(福田さんが)楽屋に来て、「いま、主演ドラマ決めてきたから」って言われて。それが、「昨日、何食ったの?」みたいな雑談トーンだったので、冗談かと思っていたんですけどね(笑い)。福田さんとは、舞台終わりで、よくご飯を食べに行くんです。この間は中華風鍋を食べに行ったんですけど、そういうときに脚本のアイデアなどの話も聞きますが、たいていはたわいのない話ばかりで。そのときと同じ雰囲気だったから、最初はまったく信じられませんでした(笑い)。でも主演は初めてなので、そこにはやりがいと責任を感じています。この連ドラが終わって、次に主演じゃない役をやったとき、今回の経験値がどんなふうに生かされていくのか、自分でも楽しみにしています。

 −−「新解釈・日本史」という歴史ドラマなんですが、歴史にはお詳しいんですか?

 高校の必修科目でやったくらいです。理数系専攻で大学も理系だったし、大学を途中でやめてからは、芝居とアルバイトの毎日で、興味を持つ機会すらありませんでした。初めて出演した時代ものは、2010年の「大奥」だったんですが、それはマンガ原作だったし。おととしの大河ドラマ「平清盛」のときは、一応その時代の歴史を勉強して、僕が演じた平忠度のお墓参りにも行きました。ただ、(今作の)福田さんの台本を読んだら、そんなに歴史を知らなくても大丈夫だなって(笑い)。

 −−第1話が織田信長、第2話が坂本龍馬ということで。どんな“新解釈”になっているんでしょうか。

 実は「muro式」という舞台の演目で、坂本龍馬を題材にした「同盟」という話があって。坂本龍馬の人物像やイメージはいろいろあるけど、本当は「まあまあまあ」って感じで物事を進めて、それがうまくいったら自分の手柄みたいな顔をしている、調子のいいヤツだったかもしれないという解釈をした話なんですが、その舞台が評判よくて、福田さんも「ドラマでやれたら面白いよね」って話していて。それが原形になっているんですけど、まあ歴史好きの人が見たら、怒るかもしれないくらいの新解釈ですよ。

 −−福田監督の演出は非常に独特だと聞きますが、今回はどういう演出でしたか?

 普通の撮影は段取りがあって、テストを2~3回やってから本番なんですが、今回は段取りをやったらテストなしで即本番なんです。役者って、テストしながら芝居を固めていくわけですが、その時間がまったくないんですよ。もちろん、そういう状況で行われることを、そのままテレビで流してしまおうというのが福田さんの狙いなんですが、こっちは聞いてなかったのでびっくりでした。そういう、他のドラマの制作ではあり得ない撮り方をしたものに携わっているうれしさがある半面、お茶の間の反応にドキドキしている部分もありますね。あと、わざとカットをかけず、泳がせたりするんですよ。こっちは芝居を続けないといけないので必死なんですけどね。今回は福田さんのほかにお二人、監督が参加しているんですが、お二人も(福田監督に)感化されてしまっているので、役者陣は本当に大変です。

 −−撮影中の様子はどんな感じでしょうか。

 待ち時間にみんな少しでもせりふを覚えたくて必死なんですけど、大きな赤ちゃん(福田監督)がやって来て、雑談し始めるんです。監督だし、脚本も書いている方だし、そりゃあみんな話を聞きますよね。でも、みんな心では「せりふを覚えたいんだけどな」って思っているんです。そのくせ自分は、話し終えたらすっきりして、すぐ本番ですから。これは、暗に(福田監督への)クレームなんですけど(笑い)。

 −−アドリブもけっこうあるんでしょうか。

 ありますよ。面白いと福田さんはゲラゲラ笑ってくれるんですけど、お気に召さないと急にマジな顔になるんで、監督が笑ってくれているうちはみんな安心みたいなところがありますね。ただ新しい台本を見たら、空白があって、「ここでムロが何か言う」って書いてあって。とうとうやりやがったなって、思いましたよ(笑い)。それでも、何か言いますけどね。できないなんて、口が裂けてもいいたくないんで。そのうち、大半がそれでペラッペラの台本が送られてくるんじゃないかって心配ですけど。

 −−でも、そういうことが福田作品の魅力につながっているんでしょうね。

 そうですね。福田さんの演出というのは、ようは目の前にお客さんがいないだけで、舞台でやっているようなもので。途中で変に撮影をストップさせるより、その場の勢いを重視するタイプです。どうしてもせりふが出てこないときもあるんですが、それでも周りが芝居を続けていれば、何とかつないで思い出すしかないし。せりふをかんだらかんだで、誰かがリアクションを取ってとか、役者同士で対応しないといけない。相当の覚悟を持って臨まないといけないので、けっこう大変です。だってもしかんだら、かんだのがそのままテレビで流れるわけですから、そうしたらこっちは「かんだ役者」としてSNSに書かれちゃう(笑い)。

 役者もカメラの前に立つのは怖いけど、その怖さを超えて役者自身が楽しんで遊び始めるようになって、それがテレビで流れるわけですから、面白くないわけがないです。役者がフルスイングで面白いことを目指すと、こういうものが生まれるんだ、というのを見ていただければうれしいです。そんなドラマですから、歴史に詳しくなくたって楽しめます。批判はすべて受け止めますので、ぜひご覧になっていただけたらうれしいです。

 <プロフィル>

 1976年1月23日生まれ、神奈川県出身。大学在学中に俳優を志し、99年から作・演出・出演を一人で行う舞台で俳優活動を開始。以降、ドラマ、映画、舞台、ラジオとジャンルを問わず幅広く活躍。代表作は映画「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)、「踊る大捜査線」シリーズ、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13年度後期)など。自身が作・演出・出演した舞台「muro式」を定期的に上演している。福田雄一監督作では、ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ、ミュージカル「フル・モンティ」などに出演。毎週金曜午後10時からAMラジオの文化放送「スパカン!」でパーソナリティーを務めている。「新解釈・日本史」は毎日放送(MBS)で27日から毎週日曜深夜0時50分に放送。TBSでは29日から毎週火曜深夜1時11分に放送予定。

 (インタビュー・文・撮影:榑林史章)

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