14年春アニメ:お祭り作品不在も良作目立つ 週100本のオタレントが分析

1 / 9

 4月にスタートした「春アニメ」のうち1クールの作品が一通り終了した。週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、アニメを使った町おこしのアドバイザーなども務める“オタレント”の小新井涼さんが春アニメを分析する。

ウナギノボリ

 ◇

 昨年の春クールは「進撃の巨人」が目立ちましたが、今年の春はそういった爆発的な人気作品はみられませんでした。しかし、だからと言って面白い作品がなかったのかというと決してそういうわけではありません。

 むしろ今期は全体的に良作が多かったため、ファンの支持が各作品へ拡散したことにより、“お祭り作品”が不在という状態だったと考えています。各ジャンルでクオリティーの高い作品が多数あったため、視聴本数という点においては逆に増えたという方も多かったのではないでしょうか。

 例を挙げますと、SFアクションでは「シドニアの騎士」が、放送前から懸念されていたキャラクターデザインへの不安を覆す高い3DCG技術で話題を呼びました。継衛と寄居子との戦闘シーンにおいてはその映像特性をフルに生かし、原作をも上回る迫力だったといえるでしょう。

 恋愛ものとして男女ともに人気だったのが「一週間フレンズ。」です。1週間で友達の記憶がリセットされてしまうという設定の中で、少しずつ近づいてゆく長谷君と藤宮さんの距離を、それこそ視聴者も2人と共に1週間ずつ積み上げながら見守り続けていたのではないでしょうか。

 普段アニメを見ない人たちの中でも話題に挙がっていたのが、原作・実写映画でも人気を集めた「ピンポン THE ANIMATION」でした。原作マンガを完全再現するために、アニメーション技術としては高いことをしているにもかかわらず「アニメっぽくない」という絵柄。脚本がなく絵コンテの段階で書き込んでいたために生きているかのように感じられるせりふ。それらの要素のおかげで、まるで実写ドラマを見ているかのような錯覚も覚えましたし、その部分が普段アニメを見ない層でも接しやすかったのでしょう。

 「良作が多いクールだった」という根拠のもう一つに、放送前にはあまり話題に挙がっていなかった作品が、放送開始とともに徐々に注目されていったということがあります。

 中でも特に、予想以上の面白さであったのが「棺姫のチャイカ」です。幌馬車での旅のような懐かしさを感じる「ヴィークル」での旅の様子、目的は違えど共闘し時に対立する複数のチャイカの存在、そんなチャイカたちが背負う非情な使命は見ていて胸を熱くさせます。物語が進む度に明らかになっていく謎や深くなるキャラクターへの愛着も含め、見れば見るほど面白くなってゆくいわゆる“スルメ作品”だったといえるでしょう。独特の「チャイカ語」と言われる口調をまねしているのもSNSなどでよく見かけました。というか私もしてました。

 多数あっただけに良作と言える作品がまだまだたくさんあるのですが、全部を挙げてゆくとキリがないので、ここで突然ですが「小新井の独断と偏見で選ばせていただいた春アニメベスト3+おまけ」で残りの作品を紹介させていただきたいと思います。

<%newpage%>

 第3位「監督不行届」

 アニメ監督である庵野秀明さんとマンガ家の安野モヨコさんとの夫婦生活を描いたエッセーマンガを原作としたフラッシュアニメです。数々のヒット作を生み出した有名夫婦の私生活というだけでも興味をそそるのに、自分は非オタクだと自負していた安野さんが“日本オタク四天王”と呼ばれる庵野監督に徐々にオタクとして鍛え上げられていく姿は思わず見守ってしまいます。超有名監督である庵野さんの意外とおちゃめな一面も新鮮で、健康診断の検便を採取するために洋式トイレを探して近所を奔走するエピソードなどは声を出して笑ってしまいました。

 第2位「それでも世界は美しい」

 雨を降らせる能力を持つ「雨の公国」第4公女のニケとその嫁ぎ先「晴れの大国」のリビこと太陽王リヴィウス1世が反発しながらも徐々に絆を深めてゆく……という今時では珍しいくらいの純愛ロマンスです! 困難を乗り切るほどに深まる2人の絆や、魅力的な登場人物に美しい景色などもさることながら、何といっても注目なのは物語でも重要な意味を持つ「歌」の描写でした。マンガ原作というのもあって「アメフラシの歌」としてアニメオリジナルの曲が作中実際に歌われたシーンは、原作ファンにとってもうれしい瞬間だったと思います!

 第1位「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」

 親に勘当されて人工学園島に引っ越してきた主人公・重護は下宿先に住み着く地縛霊・七々々を成仏させるために島に隠された七々々コレクションという秘宝を巡る争いに巻き込まれてゆく……という冒険活劇です。作品自体の綿密な設定も魅力的なのですが、一番ひかれたのは数々の濃くて変態的なキャラクターたちの描写でした。メイド服姿の男の娘・ダルクや冒険部部長を盲信する副部長の茨などなど、アクの強いキャラのフェチシズムを惜しげもなく描いているのがとてもよかったです。とてもよかったです! 他にも秘宝を手に入れるための遺跡攻略シーンなどなど、冒険活劇的にも熱いシーンが多く、話数が少ないのがもったいないほどでした。続編に期待です。

 おまけ「超爆裂メンコバトルギガントシューターつかさ」

 「ギガントバトル」といういわゆるメンコ勝負に情熱を燃やす小学生つかさを主人公にした学園ギャグアニメ。なぜこの作品を入れたかというとそのとんでもない意外性をぜひ知ってほしいからです。シュールなギャグはもちろん、何より驚くのがこの番組をEテレさんがやっているところ。ブラックギャグや普通のキッズアニメならスルーする設定へ突っ込む大人げなさ、そして極めつけのみているこっちがハラハラしてしまう際どいパロディーは必見です。特に5話と8話はぜひ見ていただきたい!

 さてさて、以上を含めても紹介しきれなかったおすすめ作品がまだあるほど、各ジャンルで面白い作品が多いクールでした。最初に書いたように爆発的な人気作品がなかった代わりに、その陰に隠れて視聴されない作品というのが少なかったこと、視聴者の好みを基準とした視聴作品の取捨選択が行われたことが人気拡散の根拠と考えられそうです。

 多様化した娯楽の中のいちコンテンツであるアニメの中で、さらに視聴者の好みにより人気が分散し、分散した先でその需要に応えるだけのクオリティーの作品が多かった今期は、作品という最小単位でアニメの楽しみ方の多様性がうかがえるクールでもありました。

 今後もその高いクオリティーを維持した上で、多様化が強まっていくとしたら、今まで触れたことのないジャンルの作品を見ようと思うきっかけになる一方で、お気に入りのジャンルの作品に触れただけで満足してしまうという閉塞(へいそく)状態につながる可能性も否定できないでしょう。

 “お祭り作品”による1強状態とは正反対だった今クール。アニメを見る側や、作る側がこれをどう考えたかは一人一人違うはずです。今度はどんな傾向のクールになるか胸をおどらせながら、来期もアニメを見続けたいと思います。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。

写真を見る全 9 枚

アニメ 最新記事