新劇場版 頭文字D:声優・宮野真守、中村悠一、小野大輔に聞く「車を知らなくても楽しめる」

撮影:金井尭子
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撮影:金井尭子

 しげの秀一さんの人気マンガ「頭文字D」を基に劇場版アニメ化した「新劇場版 頭文字D Legend1−覚醒−」(日高政光監督)が23日に公開された。これまでもテレビアニメの放送や劇場版アニメの公開、実写映画化もされてきた「頭文字D」が、映像や音響などをすべて一新し、新3部作として幕を開ける。新たに主人公の藤原拓海役を演じる宮野真守さん、拓海のライバルで高橋兄弟の弟・啓介役の中村悠一さん、兄・涼介役の小野大輔さんの声優陣に、今作に懸ける思いや「頭文字D」の魅力などについて聞いた。

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 ◇映像だけでなく音響にもこだわり

 新たに生まれ変わった今作を見て、宮野さんは「音にもすごくこだわっていて、サーキットで実車の音を録(と)ったものが映像に当てられると、カッコよさが一気に倍増し、とにかく感動しっぱなし」と感嘆する。中村さんも「アフレコの時に想像していた内容をはるかに超えるクオリティー」と驚き、「主題歌がかかる瞬間に挿入される一瞬の“間”など、演出がカッコよくて引き込まれる。キャストとして関わっている自分が(作品を見て)冷静でいられないというのは、素直にいいなと感じました」と目を輝かせる。2人と同じくレースシーンの素晴らしさを感じつつも、「ドラマのシーンもすてき」と小野さん。「思春期真っただ中で、車が大好きな少年たちの存在が巧みに描かれている点は、原作を読んだ時以上に強く感じた要素かもしれません」とドラマ部分に引かれたという。ここで中村さんが「ヒロインの茂木(なつき、声・内田真礼さん)がエロくて、水着のシーンとかはもうツヤツヤ……」と発言し、3人とも笑った。

 主人公の拓海に決まり、「正直、大きなプレッシャーもあった」と打ち明ける宮野さんは、「拓海は大人っぽいキャラクターですが、オーディションの時から『高校生であることは忘れずに意識してほしい』と言われました」と明かす。アフレコでは「自分が過去に持っていた若さを思い出しつつ、“大人びた高校生”の実は思春期全開の若さを意識しながら言葉をつむぎました」と役作りについて語り、「僕はあまり車の知識がある方ではないのですが、自分なりに勉強をしながら自分ができる最高の演技ができるよう誠心誠意、収録に臨みました」と力を込める。

 ◇初の兄弟役での共演に感激

 一方、兄弟役を演じた中村さんと小野さん。中村さんは「小野さんと共演させていただくほとんどの場合、同じコミュニティーの中にいるとか、正義側と敵側で分かれていたりという状況が多かったので、そういう点では(兄弟は)新鮮な気持ち」と感慨深げ。小野さんは「(中村さんと自分の声は)結構、音域が近いのでは。役者としてのアプローチは違いますが、やっぱりどこかで似ている部分があるんでしょうね」と分析する。発言を聞いた中村さんは「そういった部分があるからこそ、今回は兄弟という立場で配役されたのだと思います。この関係は大切にしたい」と力を込め、小野さんは「ジュニア時代に番組レギュラーでよく共演していたので、こんな大きな作品で兄弟役をやれることが率直にうれしい」と笑顔を見せた。

 それぞれの役については、アフレコ中に「仕上げないでくれ」と指示があったという。中村さんは「啓介は拓海と勝負したあともどんどん成長していくキャラクター。今回は拓海と勝負する前から始まるので、まだ未熟な部分が多くある」と人物像を説明。そして、「小野さんが演じられた理論派な涼介との対比を、初めて見たお客さんが理解できるように強く意識しています」と明かし、「声優として培った技術が“青さ”を消していたようで、音響監督さんからいろいろと指導をいただきました。拓海とレース後に話すシーンは次の予定に遅れそうになるくらい(長時間)録っていました」というほどのこだわりぶりだった。小野さんは涼介を「クールな分析担当」と話し、「淡々と物事を説明していく役割が多く、感情よりも理論を口に出す方がメイン。いかに自分らしく、涼介らしく語るのかという部分を考えた」と説明する。さらに、「冷静な心の中にふつふつと煮えたぎる情熱が見えるように気を配った」と振り返る。

 ◇「頭文字D」の魅力は圧倒的な熱量

 声優になる前から原作ファンとして楽しんでいたと話す中村さん。作品の魅力について、「題材は車の峠バトルですが、ストーリーはしっかりと少年マンガの王道です。車のことが分からなくても楽しめるのが『頭文字D』のよさ」と持論を展開。続けて、「初めて原作を読んだ時には車に興味がなかった自分もストーリーに引き込まれた。例えば題材が自転車に変わったとしても『頭文字D』は成功しているのでは」と考えた。原作を読んだ影響で「GTRは悪いやつが乗る車なのか?とか『頭文字D』的な偏った知識も付きましたが、それも楽しみ方の一つ」と笑う。宮野さんは「男なら熱くなる要素が詰まっている作品」と表現し、「キャラクターがそれぞれ自分だけの男らしさを持っていて、レースはそれがぶつかり合う瞬間。熱い展開は男なら燃え上がりたくなるじゃないですか」と熱を帯びた口調で語る。

 「涼介を演じた視点から見ると」と切り出した小野さんは、「作中に出てきた分からない言葉を自分で調べて知識が増えていくのも楽しい」と続け、「車の奥深い世界を垣間見ることの快感という部分に、やっぱり男の子はしびれます」と共感する。小野さんの発言を聞いた宮野さんは「そういう意味で僕は拓海と同じ“車の何が面白いのだろう?”というところから一緒に感じていけたのはよかったのかな」と感じ入っていた。

 ◇誰でも共感でき楽しめる作品

 今作から初めて「頭文字D」を見るという人に向けて、おすすめしたいポイントを聞くと、中村さんは「原作でのハチロクは『あんな古いマシンでどうするんだ!?』という登場でしたが、原作からすでに十数年たった現代では、ライバルの最新車すらもすでに旧車。でも今作で登場する車はまるで古くささを感じない」と驚き、「重要なのはストーリーで、そのピース(一片)として車という要素がはまっているので、車や時代の古さなどは気にならない」と強調する。続けて、「敷居が高いように見えて実は間口の広い作品なのではと感じています。まずは1回見てくれたらうれしい」とメッセージを送った。中村さんと兄弟役の小野さんは、「もちろん『頭文字D』なので車が好きだからこそ楽しめる部分は多い」と前置きしつつ、「ただ知らないからこそ楽しいという部分もあると思うし、むしろ今、新たに『頭文字D』を知ることは、とても幸運なことなのかもしれません」と独特の表現でアピールする。

 主役の拓海役を演じる宮野さんは「作品全体のリアル感や、さまざまな演出を加えたことで生まれるエンタメ感は、誰にでも楽しめる要素だと思う。深い人間ドラマの部分も同様です」と分析し、「リアルな“等身大の高校生”を描いた作品ですから共感できる部分が多いと思います。数多く散らばった自分へのメッセージを探して受け取ってみてください」と力を込めた。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <宮野真守さんプロフィル>

 1983年6月8日生まれ、埼玉県出身。小学生時代から劇団に所属し、主に舞台などで活動。声優としての活動に加えて、歌手活動も行う。代表的な役は「DEATH NOTE」の夜神月、「機動戦士ガンダム00」の刹那・F・セイエイ、「ウルトラシリーズ」のウルトラマンゼロの声、「ポケットモンスター ベストウイッシュ」のデントなど。

 <中村悠一さんプロフィル>

 1980年2月20日生まれ、香川県出身。2001年にテレビアニメ「電脳冒険記ウェブダイバー」のグリフィオン、ライガオン役で声優デビュー。08年にはラジオ番組「ノン子とのび太のアニメスクランブル」で第18回最優秀男性声優賞を受賞した。代表的な役は「おおきく振りかぶって」の阿部隆也、「CLANNAD」の岡崎朋也、「マクロスF」の早乙女アルトなど。

 <小野大輔さんプロフィル>

 1978年5月4日生まれ、高知県出身。今年4月から放送中のテレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」で空条承太郎の声を担当。高知県観光特使にも任命されている。代表的な役は、テレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」の古代進、「進撃の巨人」のエルビン・スミスなど。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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