福福荘の福ちゃん:大島美幸×荒川良々「かめばかむほど味が出る映画になった」

映画「福福荘の福ちゃん」で共演した大島美幸さん(左)と荒川良々さん
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映画「福福荘の福ちゃん」で共演した大島美幸さん(左)と荒川良々さん

 お笑いトリオ「森三中」の大島美幸さんがオッサン役で主演したことでも話題の映画「福福荘の福ちゃん」(藤田容介監督)が8日に公開された。同作は、沖縄国際映画祭をはじめ世界12カ国の映画祭に正式招待され、日本国内のみならず英国、ドイツ、イタリア、台湾などでも劇場公開が決まっており、大島さんがモントリオール・ファンタジア国際映画祭で最優秀主演女優賞に輝いた。主人公の福ちゃんを演じた大島さんと、親友のシマッチを演じた荒川良々さんに話を聞いた。

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 ◇やせた大島の体形を戻すため撮影は延期

 −−大島さんは、これが映画初主演ですが、それが男性のオッサンの役というのは正直どう思いましたか?

 大島美幸さん:とにかく、びっくりでした。主演というのでも驚いたのに、まさかのおじさん役というので、いろいろびっくりしてしまって。話を聞いたときは、大丈夫かなという不安がありました。でも、監督のこれまでの作品を見させていただいたら、どれもステキな作品ばかりだったし、事前にいろいろ話をさせていただいたので気が楽になって、撮影が楽しみになっていました。荒川さんと共演させていただくのも初めてだったので、それもすごく楽しみでした。役作りという部分では、自分の父親とか親戚のおじさんがこうだったなと、頭で思い浮かべながら演じていましたね。

 荒川良々さん:僕は藤田監督から、企画の段階で話を聞かせていただいていました。主演は大島さんで、こういう内容で、と。もともと藤田監督の作品はどれも好きなので、「いつから撮るんだろう?」と楽しみにしていたんです。そうしたら、大島さんがお仕事でやせてしまった体形を戻すのに撮影スケジュールがちょっと延びたと聞いて、「なんだよ~」って(笑い)。そう思ったくらい、本当に楽しみにしていたんです。

 ◇役柄には違和感なくスッと入れた

 −−それぞれの役柄についておうかがいします。大島さんは、福ちゃん(福田辰男)像をどのように考えましたか?

 大島さん:純粋だけど、心に傷を持っていて、繊細なところもあって、面倒見がいい。見た目はのほほんとしているんですけど、いろいろなものを抱えて生きている人だなって。そういう見た目だけじゃないところを、すごく考えましたね。

 荒川さん:大島さんが演じたからこそという部分が、すごくあると思います。大島さんの人柄も含めて、福ちゃんの魅力になっています。

 −−荒川さんが演じられたシマッチ(島木拓郎)も、すごくいいヤツですね。

 荒川さん:福ちゃんにいろいろおせっかいを焼いて、女の子を紹介してあげたりとかするんですけど……。いいヤツなのか、うっとうしいヤツなのか(笑い)。

 大島さん:いいヤツですよ。

 荒川さん:演じているときは、本当に楽しくて。終わっちゃうときは「ああー」って寂しくなりました。藤田監督は、ちゃんとお芝居を見てくれる方なので、そういう安心感もあったし、大島さんや杉浦千穂役の水川(あさみ)さんとのやりとりも、違和感とかやりにくさがまったくなくて、スッと入ることができて心地よかった。もっと撮影していたいなという気持ちがありながら、でも完成したものを早く見たいという気持ちもあって。

 ◇監督がどんどんやつれていった

 −−作品に流れている温かい雰囲気や牧歌的な空気は、出演者同士のコミュニケーションや、藤田組のチームワークによるものでしょうね。

 荒川さん:監督が、そういう空気感を作っていたと思います。スタッフさんもすごく熱意を持って携わってくださって。福ちゃんの部屋の美術がいい例ですけど、部屋に置いてあるもの一つ一つに、すごくこだわっていて。しかも、すごく居心地がいい部屋なんです。そういう細かいところから、この空気感を作っていたと思います。

 −−山とか自然の中でのシーンが多くありましたが、ご苦労はありましたか?

 荒川さん:苦労というか、やっぱり天気ですね。

 大島さん:ちょうど季節はずれの台風が来ちゃって、スケジュールがずれてしまったんです。

 荒川さん:そのお陰で監督がどんどんやつれていったのも、苦労といえば苦労なのかな(笑い)。撮らなきゃいけないシーンがどんどん山積みになって、監督はお弁当ものどを通らなかったようで。

 大島さん:私たちは、おいしくたいらげていましたけどね(笑い)。

 荒川さん:「これ体にいいんで、飲んでください」って、アミノ酸みたいなのをこっそり差し入れしました(笑い)。

 −−大蛇が出てくるシーンもありましたが。

 大島さん:もちろんホンモノですよ! 「首を絞められたときは、どうしたらいいですか?」ってトレーナーの人に聞いたんです。そうしたら「大丈夫です」って言うだけで、対処方法を何も教えてくれなかったのが怖かったです。

 荒川さん:すごくいい演技していましたよ、蛇が(笑い)。

 ◇カレーは本当は「うまかった」

 −−劇中では、千穂(水川さん)が撮った福ちゃんの写真もたくさん出て来ますね。

 大島さん:あれは監督の知り合いのカメラマンの方で。

 荒川さん:もともと監督が自主映画を作っていた時代に、カメラマンをやっていた方です。あれは、別撮りでスチール撮影したんですか?

 大島さん:いえ、動画で撮ったんですよ。

 荒川さん:あ、動画なんだ!

 大島さん:撮影の合間に、何日かに分けて撮影したんです。カメラマンさんと散歩に行って、犬を触ったりいろいろやっているのを、それをずっと撮っていて。動画で撮っているから、どういうふうになるのかまったく想像がつかなかったんですけど、実際に写真になったものを見たら、めっちゃステキな写真ばかりでびっくりしました!

 荒川さん:大島さんのいい表情がいっぱい出てくるので、たくさんの人に見てほしいですね。

 −−ちなみにロケは、どのあたりで?

 荒川さん:ピクニックのシーンは、埼玉のキャンプ場です。東京都内のロケは、神田の居酒屋さんとかですね。

 大島さん:福福荘の外観は、東小金井に実際にあった建物で、もう取り壊しをするということで、壊す前に使わせてもらったらしいです。ああいうちょっと懐かしい風景を、作品の中に残すことができたのは、すごくよかったんじゃないかと思いますね。

 −−福ちゃんと千穂が行くカレー屋さんも実際にあるんですか?

 大島さん:あるんです。作品の中ではからくて食べられないっていう設定でしたけど、本当は甘口でめっちゃおいしかったんですよ。だからせりふは「からっ!」でしたけど、心の中では「うまっ!」って叫んでました(笑い)。

 ◇「次を作ってくれますか?」に監督は…

 −−純朴な主人公がいて毎回マドンナが登場してという、寅さんのような、シリーズになっても面白いんじゃないかと思いました。

 大島さん:私も監督に「次を作ってくれますか?」って聞いたら、「福ちゃんはこれで完結です」って言っていました。「全部出し切ったから」って。それくらいみんな気持ちを込めて作った作品ということです。かめばかむほど味が出る映画になったので、一度と言わず、二度三度と何度でも見てほしいです!

 <プロフィル>

 大島美幸(おおしま・みゆき) 1980年生まれ、栃木県出身。吉本総合芸能学院(NSC)時代に村上知子さん、黒沢かずこさんと「森三中」を結成してデビュー。お笑いタレントとしてバラエティー番組に出演するほか、「グーグーだって猫である」「ハンサム☆スーツ」「漫才ギャング」など多数の映画に出演して女優としても評価を得ている。今作でモントリオール・ファンタジア国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞。今年、妊活による芸能活動の休業を発表した。

 荒川良々(あらかわ・よしよし) 1974年生まれ、佐賀県出身。98年に「大人計画」に参加。2000年に「アナザヘブン」で映画デビュー。独特な風貌と個性あふれる演技で、13年のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」をはじめ、映画、舞台、CMと幅広く活躍。藤田容介監督による映画「全然大丈夫」(08年)で映画初主演を果たし、映画「サビ男サビ女」、テレビドラマ「サバ」など多くの藤田作品に出演している。2015年には出演した映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」「予告犯」の公開が控える。

 (インタビュー・文・撮影:榑林史章)

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