100歳の老人が破天荒な冒険を繰り広げるスウェーデン発のヒューマンコメディー映画「100歳の華麗なる冒険」が8日から全国で公開されている。人口約950万人のスウェーデンで100万部を売り上げたベストセラー小説「窓から逃げた100歳老人」(ヨナス・ヨナソンさん作)を映画化。2013年に本国で公開された際には、劇場版アニメ「アナと雪の女王」を超える興行成績を記録したという。脚本を書き、メガホンをとったのは、自身も俳優として活躍するフェリックス・ハーングレン監督。ハーングレン監督はまた、7人の子を持つ父親でもある。ハーグレン監督に話を聞いた。
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「100歳の華麗なる冒険」は、主人公のアランが100歳の誕生日を迎えた日、窓から施設を抜け出し当てのない旅に出るところから始まる。道中、スーツケース入りのギャングの闇資金5000万クローネ(約8億4100万円)を預かったり、そのせいで警察とギャングに追われる身になったりととんでもないトラブルに巻き込まれながら、ひょうひょうとそれを乗り越えていく。映画は、そんなアランの冒険と、彼が若かりし頃、原子爆弾の開発者ロバート・オッペンハイマーやスペインの独裁者フランコ将軍、アインシュタイン博士の“弟”などと交流を持った過去を、ブラックユーモアを交えながら描いていく。
−−原作のどんなところが気に入ったのでしょう。
不条理というか、クレイジーだけどユーモアとのバランスがとれているところです。
−−原作小説はベストセラーです。製作費はスウェーデンのコメディー映画としては破格の10億円、アランを演じるのは、本国では「最も愉快な男」といわれるベテラン俳優のロバート・グスタフソンさん。監督は「これでコケたら俺の映画人生は完全に終わる」と眠れない夜を過ごしたそうですが、それは本当ですか。
本当です(笑い)。ただ、そこまでの状態になったのは国内プレミアの寸前で、編集も終わり後戻りできない状況で、この映画についていろんな取材を受け始めたときです。ただ僕としては、持てるものを100パーセント出し切る覚悟で撮りました。それで失敗したら仕方がない、あとは当たって砕けろだという気持ちでした。
−−原作ファンもたくさんいます。
確かに、観客を100%満足させることは難しい。ですから、少しでも多くの人に気に入ってもらえるよう心掛けました。それに、僕には一つ長けているところがあって、それは、才能のある人が集まってくれるということ。才能がある人と仕事をすれば、いい結果は得られるものです。
−−本国はもとより近隣諸国でヒットしたのは、人々がアランの破天荒な生き方に共感したからでしょうか。
共感とはちょっと違うかな。65歳を過ぎると、僕も含め、どういうふうに年を重ねていったらいいんだろうかと不安になる人は多いと思う。実際スウェーデンでは、65歳を境に仕事を辞め、そこから“死に始める”(笑い)という考え方をする人が多い。そんな中、100歳になったからといって生きることをやめないアランを見て、なるほど、こういう生き方もあるのかと、ある種の解放感を持ったのではないでしょうか。自分もそうできるかもしれないと思えるところが、スカンジナビア諸国でウケたんだと思います。それに、サプライズの連続で先が読めない楽しい映画ですし。
−−子供の頃から何でも爆破したがるアランが、橋を爆破させる場面がありましたが、あれは本当に爆破したのですか。
いやいや、ご心配なく(笑い)。VFX(ビジュアルエフェクツ)を使っています。場合によっては5分の1サイズのミニチュアを作ったりもしました。火や爆発を全部コンピューターグラフィックス(CG)でやろうとすると、リアルに見せるのはなかなか難しいんです。爆発だけ実際に撮影し、それを合成するという形をとりました。
−−あまりにリアルなので、国はよく許したなと思いました(笑い)。
橋はクロアチアで撮影しました。政治的に怒らせたくない国だから、さすがに爆破はしませんでした(笑い)。
−−橋以外にも、アランはとんでもないものを爆破します。ブラックユーモアにも長けています。
米国などに比べると、スウェーデン人のユーモアはちょっとダークなところがあるかもしれません。
−−ギャングの一味のヘアスタイルがみな丸刈りだったのが気になりました。あれは監督の意図ですか?
いいえ、意図していません。スウェーデンでは、(頭髪が)薄くなってきた男性は、潔く刈ってしまう人が多いんですが、そのせいだと思います。日本の男性はどうですか?
−−残った髪を大切にする人が多いようです。
生えている髪を伸ばして、薄くなってきたところをカバーするようにしている人がいますが、そういう髪形をスウェーデンでは、裕福なところから貧しいところに渡すという意味で「ロビン・フッド」と呼んでいるんですよ。
−−ところで、監督には、上は23歳から下は7カ月まで7人のお子さんがいるそうですが、育児にはどのように関わっていますか。
スウェーデンでは、生まれてから12カ月間は、両親、あるいは育てる人が仕事を休めるよう、政府から助成金が出るんです。母親が半年、父親が半年それぞれ休んで赤ちゃんの面倒を見るのがよくあるケースです。僕の場合は忙しくてそれを利用できませんでしたが、妻との関係は平等なので、仕事がオフのときは炊事、洗濯、掃除、幼稚園の送迎などに大いに参加しています。そうはいっても、つい妻に頼ってしまっているところはあります。でも時間があるときは僕も頑張っています。
−−育児や家事の経験が、監督という仕事に役立ったと思いますか。
この作品に限らず、子供たちからはいろいろインスピレーションを受けています。世界について何かを語るとき、子供というのはフィルターがないから真実をズバっと言い当ててしまう。撮影中は、子供たちは現場に来て、いろんな形でインスピレーションを与えてくれました。僕はとにかく子供が好きで、妻からは、もう子供はいいわねと言われていますが、もし気持ちを変えてくれるなら、あと数人は欲しいと思っています。
−−今後の抱負を聞かせてください。
長生きしたいですね。100歳にもなりたいし、100歳になった時に好奇心を持ち続けたい。ただ一つ心配なのは、健康が伴うかということ。祖母が認知症で、症状が進むのを僕は見ていたから、正直ちょっと怖いんです。だから、それに対する治療法が生まれればいいなと思っています。
<プロフィル>
1967年、スウェーデン、ストックホルム生まれ。90年から監督、脚本家、プロデューサー、俳優として活躍。100本以上のコマーシャルも手がけている。96年にスタートしたトークショーでブレーク。2010年開始のテレビシリーズ「Solsidan」では原案、脚本、監督を務め、出演もした。監督デビュー作は、自身の主演映画「Vuxna manniskor」(99年)。
(インタビュー・文・撮影:りんたいこ)
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