日本の浪曲と韓国のパンソリ。同じ語り芸で、かつ現代に伝わるエンターテインメントを2人の女性が競演する公演が15日午後2時、東京・亀戸のカメリアホールで開かれる。タイトルは「浪曲からパンソリへ パンソリから浪曲へ 半島と列島を結ぶ芸能の道、路上の声」。浪曲は玉川奈々福さん。パンソリは安聖民(あん・そんみん)さんが出演する。公演のきっかけを作った「道案内人」の作家、姜(きょう)信子さんに聞いた。
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浪曲は古い芸に思われがちだが、始まったのは明治時代。戦前から戦後にかけて庶民に人気の娯楽として親しまれた。その後、人気は衰えたが、最近は奈々福さん、春野恵子さんら若手が増えつつある。
一方のパンソリは、太鼓に合わせて歌とせりふを語っていく芸で、19世紀に朝鮮半島南部を中心に広がった。1993年の映画「風の丘を越えて/西便制(ソピョンジェ)」のヒットで日本でも知られるようになった。ユネスコの無形文化遺産にも選定されている。
姜さんは世界各地を歩いて、そこで出会ったものを文字にしてきた。
「自分が知ってる世界とは違う地図とか道があるはずだとなんとなく思っていて、そういう道を歩きたい、人に出会いたい。そういうところで奈々福や安聖民と出会った」
たまたま姜さんが、奈々福さんと安聖民さんの存在を知り、2012年、新潟市で3人が初めて集まり、共演の会を開いた。会場が「かもめシアター」だったので、3人は自分たちを「かもめ組」と名づけた。
「そこで語りの芸が一本につながったんです。初めて会って、お互いそっくりだと。語りのありようも、一方は太鼓、一方は三味線ですが、、楽器と声が即興で音を作っていく組み立て方も同じ。浪曲もパンソリも、かつて時流におもねったり利用されたのも同じなんです」
翌13年に東京で初公演。好評で今回の公演開催となった。安聖民さんは大阪市生まれ。在日韓国人でパンソリを演じるのは安さんだけだという。パンソリは韓国語(ハングル)だが、姜さんはこう話す。
「例えば、洋楽だったら英語の歌詞が分からなくてもみんな聴きますよね。でも、洋楽ならなんでもいいわけじゃなくて、いいものを聴くわけです、私は他の言語でも同じだと思うんです。パンソリだって、へたくそな人がやれば字幕をつけてもたぶん続かないでしょう。浪曲だって日本語が分かっててもへたなら嫌だし。だから、パンソリと浪曲をただ並べればいいというものではなくて、それぞれに、声に力がある、説得力がある人が並んでいる。それがたまたま同世代の2人とも女性だった、という面白さがあると思うんです」
そして「日本人にも十分通じる芸」だという。「韓国語が分からない人に感想を聞いたら、字幕を見なくても、目をつぶっても、心がもっていかれた、そのくらいの声の力があると。私は2人の声の力を信じてます。安聖民の魅力は全身声の塊なんです。少しパンソリを知ってる方は、暗いイメージを持たれるんですが、彼女は芯がものすごく明るくて、声が深くていろんなものが溶け込んでいるような声なんです。一度聴いていただければビックリすると思います」と話す。
そして、奈々福さんは、この数年、めざましい成長を遂げたといわれる。「いろいろなことを一緒にやっていくうちに、どんどん伸びていっているのが分かります。2人は魂の双子だと思ってるんです」。アジアの語り芸の奥深さと面白さを実感できる会になりそうだ。浪曲の曲師は沢村豊子さん。パンソリのコス(太鼓)は李昌燮(リ・チャンソプ)さん。問い合わせはカメリアホール(03・5626・2121)。(油井雅和/毎日新聞)