IT業界を舞台に、2人のカリスマCEOと産業スパイとなった若手社員の戦いを描くサスペンス映画「パワー・ゲーム」が15日に公開された。今作は、ジョゼフ・フィンダーさんのベストセラー小説「侵入社員」を基に映画化し、「ハンガー・ゲーム」シリーズなどのリアム・ヘムズワースさんが主演。さらにハリソン・フォードさんとゲイリー・オールドマンさんが「エアフォース・ワン」以来、17年ぶりに共演していることでも注目を集めている。今作のメガホンをとり、10月に開催された第27回東京国際映画祭のコンペティション部門の審査員として来日したロバート・ルケティック監督に、2大スターが居合わせた撮影現場の様子や今作に込めたメッセージなどを聞いた。
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ルケティック監督は映画を製作する上で重要なことを「映画なので見ていて娯楽性があることも大切だと思うが、同時に自分の作品作りにおいてリアルであるということも大切」と力説し、隠しカメラやインターネットを用いた“監視社会”を視覚的に伝えるため、「『GoPro』というすごく小さいカメラからスパイが使うようなカメラまで、いろんなカメラの映像を使うことで表現している」と明かす。ちなみに、監督の話に登場したスパイが使うようなカメラとは、「爪のサイズぐらいのカメラで、どこにでも設置できる」もので、「バッテリーも自動でためられて、しかも人などの動作を感知して初めて電源がオンになったりする」という高性能な機能を備えているのだと明かした。
ネット社会の怖さをさまざまな側面から描いている今作だが、「世界中の都市をワンブロックを歩く間に20以上の角度から我々は撮影されているという」と具体例を挙げ、さらに「政府の諜報機関に勤める方々から聞いた話だが……」と前置きし、「携帯電話を遠隔操作で勝手にオンにできて録音もできる」と打ち明ける。「現在、可能なテクノロジーというものを意識して今回は見せている」とこだわりを明かし、「リアルであることはとても重要で、現実的にあり得るか、可能性があるかを一つの目安にしている」とリアリティーを追求したことを強調した。
物語の中心人物となる2大カリスマを演じたのは、ハリソン・フォードさんとゲイリー・オールドマンさんの2人。「おそらく『エアフォース・ワン』で共演した時に2人は敵対関係にあって、すごくテンションが高かった現場だったと思うが、その時のエネルギーを思い出し、利用して演技していたような感じがあって面白かった」と現場での様子を明かした。「ハリソンさんはもともと子供の頃から『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』などを見ていて大好きな方なので、『インディ・ジョーンズと仕事している!』という感動があった」と満面の笑みを見せる。
しかし、撮影がスタートする前にフォードさんから「クランクイン一週間前に突然、ハリソンから写真付きでメールが入った」といい、「何も言わずに、なんと髪の毛を全部そってしまって……ちょっとショックを受けた」と当時の衝撃具合を表すような表情で語るルケティック監督。外見の変化に驚くも、「結果的にはよかった」と作品の雰囲気にマッチしたことを喜び、「いい役者というのは、(台本に)書かれている以上の役作りをするもの」とフォードさんの役者魂に敬意を表した。
フォードさんとオールドマンさんが演じているのはカリスマながら、どこかダークな部分を持つ人物。フォードさんがダークな役を演じるのはめずらしいが、フォードさん自身も「このキャラクターほど悪いやつというか、敵のような役を僕は演じたことがない。だからこそ、すごく楽しみなんだ」と語っていたことを明かし、一方のオールドマンさんが演じた役については、「ハリソンのキャラクターのように、何か隠されたアジェンダ(行動計画)を持っているわけではないから、見たまま。少なくとも正直な、自分をそのまま見せる悪いやつだったね(笑い)」と冗談めかして語る。
2人のビッグネームにはさまれ、主人公・アダム役を演じたヘムズワースさん。ルケティック監督はアダムというキャラクターに「何か現代的なものやフレッシュさ」を求め、「あまり観客のイメージがついていないような人がいいと思っていた」と語る。ヘムズワースさん起用の理由は「僕自身、彼をアダムというキャラクターであると信じられたということ」が決め手で、対面した際には「とても思慮深くて知的」という印象を持ったという。さらに「アダム役に僕が求めている資質を持っていた」と手放しで褒め、「1時間ぐらいのミーティングがあったが、すっかり『(アダムは)彼だ!』と確信できた」と納得のキャスティングだったと明かす。
ヘムズワースさんにとってはスター2人との共演は大変だったのではと聞くと、ルケティック監督は「ハリソンやゲーリーの間に若いリアムが入っていかなければいけないけど、僕だってナーバスだったんだ」と言って笑う。ルケティック監督は「リアムもスポンジのように彼らからいろいろ吸収できたのでは」というが、監督自身も「彼らの仕事に向かう姿勢」に感銘を受けたという。「キャリアがあり、事を成し遂げたような人は、満足してしまったり、『そういうことはしない』という型にはまった人もいると思うが、そういうところが2人には一切ない」と仕事へのスタンスを絶賛し、「本当に心が広く、チームワークという意味を改めて感じさせてくれる2人で、僕をはじめみんながすごく影響を受けたと思う」と力を込める。そして、「ハリソンはみんなをディナーに連れて行ってくれたりする“おじいちゃんクマ”みたいなところがある」と親しみを込めた呼び方で紹介した。
今作はサスペンスの一面を持ちつつ、現代を生きる世代の声も内包している。「昔の世代は学校で努力をして大学を卒業すれば自分のやりたいことや仕事ができて“夢がかなう”生活ができていたのに、今は卒業しても就職先も見つからないという若い人たちがとても多い」と語り、「『他人がしてくれる約束に頼らないで生きろ』ということを一つお伝えしたい。またそれが映画を見て感じてもらいたいメッセージの一つかもしれない」とルケティック監督。「特に今の若者たちは自分たちの状況に満足してしまっているように感じる」と切り出し、「他人が約束してくれるものは中身がない約束、あるいは果たされない約束ということが多いから、自分自身が自分の運命を決め、導かなければいけないとすごく思う」と持論を展開する。
ルケティック監督自身、「映画学校を借金して卒業しハリウッドが夢だったが、どうやって行ったらいいのかなんて分からなかった。もちろん、誰かに手を差しのべられたわけじゃなく自分で道を見つけた」と体験談を語り、「自分で自分の人生の道を見つけることを、もっと若い世代には知ってほしい」と力を込める。そして、「携帯を置いてネクタイを締めて頑張れ(笑い)」とユーモアを交じえつつ、作品に込めた熱いメッセージを若い世代に向けて送った。映画は新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1973年生まれ、豪州出身。短編映画「Titsiana Booberini」が好評を博したことでハリウッドに招かれ、リース・ウィザースプーンさんと組んで、2001年の「キューティ・ブロンド」で長編映画監督としてデビューを飾る。その後、08年にはベン・メズリックさんのベストセラーノンフィクションを映画化した「ラスベガスをぶっつぶせ」を製作。ほかにもロマンチックコメディー「男と女の不都合な真実」、アクションコメディー「キス&キル」など多数の作品を手がけている。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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