昨年度のモントリオール世界映画祭でグランプリと観客賞とエキュメニカル審査員賞のトリプル受賞を果たすなど、世界の映画祭で話題のポーランド映画「幸せのありか」(マチェイ・ピェプシツァ監督)が13日から公開される。知的障害がないのにあると勘違いされて長年過ごしてきた脳性まひの青年を主人公に、成長と初恋と別れのドラマをみずみずしく描き出している。実話を基に作られた珠玉の作品だ。
ウナギノボリ
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民主化に揺れ動く1980年代のポーランドが舞台。医師から“植物状態”といわれたマテウシュ(カミル・トカチさん)は学校には行っていなかったが、優しい母親(ドロタ・コラクさん)ら家族の愛情を受けながら健やかな子ども時代を過ごしていた。しかし、星空を見上げることを教えてくれた父親(アルカディウシュ・ヤクビクさん)が突然この世を去ってしまう。成長したマテウシュ(ダビド・オグロドニクさん)はある日、姉の結婚をきっかけに施設に入ることになった。知的障害がないのに精神障害者の施設に入れられたマテウシュは、さまざまな抵抗を試みるが、周囲に全く伝わらない。やがて、マテウシュの前に美しい女性マグダ(カタジナ・ザバツカさん)が現れて……という展開。
とにかく、主人公が魅力的だ。主演するオグロドニクさんの迫真の演技に目を奪われる。脳性まひだが知的障害だと誤診されたマテウシュは、男らしくてロマンチック、そしてユーモラス。「分かってくれ!」という怒りが噴出するのだが、これがなかなかパンキッシュだ。彼の視点で切り取った映像で、彼が感じている時間を成長とともに体感し、見ている方はいつしかマテウシュの心の中に入り込む。だからなおさら彼の「理解されない」ジレンマを、歯がゆい思いで見つめてしまう。初恋、そして青年になってからの恋。温かい母親の愛情もあるが、1対1の関係を築いた父親の存在が利いている。父親は「男は拳でテーブルをたたいて怒りや異議を表すんだ」と教え、星空を愛するロマンチックな心も育んだ。劇中で亡くなった後も、父親が存在し続けているのを感じてジーンとしてくる。絶望と希望、優しさと強さが入り交じった今作を前に、言葉にならない深い思いがあふれ出てくる。岩波ホール(東京都千代田区)ほかで13日から順次公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。12月の公開作で一番泣けたのは、シンガポール映画「イロイロ ぬくもりの記憶」(アンソニー・チェン監督、13日から全国順次公開)でした。
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