イミテーション・ゲーム:脚本家グレアム・ムーアさんに聞く 主人公に「特有の“パワー”を感じる」

credit:Richard Harbaugh/(C)A.M.P.A.S.
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credit:Richard Harbaugh/(C)A.M.P.A.S.

 今年度の「第87回アカデミー賞」で脚本を執筆したグレアム・ムーアさんが脚色賞に輝いた映画「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」(モルテン・ティルドゥム監督)が全国で公開中だ。第二次世界大戦時、ドイツ軍が誇る世界最強の暗号「エニグマ」の解読に挑みながら、その功績は国家機密として闇に葬られてきた実在の数学者アラン・チューリング(1912~54年)。映画では、暗号解読に至るまでの経緯をつづるとともに、チューリングの秘められた生い立ちがサスペンスフルに展開していく。チューリングを、英テレビシリーズ「SHERLOCK(シャーロック)」(2010~14年)などで知られるベネディクト・カンバーバッチさんが、彼と心を通わす女性を「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ(03、06、07年)でおなじみのキーラ・ナイトレイさんが演じている。アカデミー賞の授賞式では感動的なスピーチを披露したムーアさんが、受賞の喜びと映画について電話で語った。

ウナギノボリ

 −−アカデミー賞の授賞式から3週間ほどがたちますが、オスカー像の重みを、今どう受け止めていますか。

 受賞したことはとても光栄で重みを感じています。オスカー像には僕の名前しか刻まれていませんが、この作品に関わった仲間全員が祝福されたことが何よりうれしかった。監督やベネディクト(・カンバーバッチさん)、キーラ(・ナイトレイさん)とも祝杯をあげることができました。

 −−あなたがアラン・チューリングという人物を知ったのはいつのことですか。

 僕が10代の頃で、実はコンピューターオタクだったんです。テクノロジー系オタクのティーンエージャーとなると、人付き合いはどうしてもぎこちなくなりがちで、そんなときに“出会った”のがアラン・チューリングでした。彼はアウトサイダーの中のアウトサイダーであるにもかかわらず、あれだけのことをやってのけた。彼は今でも僕にとって、大きなインスピレーションを与えてくれる人物なのです。

 −−チューリングを演じたカンバーバッチさんの演技はいかがでしたか。カンバーバッチさんの起用には、あなたがアーサー・コナン・ドイルの生涯を描いたミステリー小説「The Sherlockian」を執筆なさったことと関係がありますか?

 僕がシャーロックについての物語を書いていたことはまったくの偶然で、ベネディクトの名前を最初に口にしたのは監督のモルテン(・ティルドゥムさん)なんです。彼は監督に決まってすぐに「チューリング役にはベネディクト・カンバーバッチ以外ありえない」と言っていました。一方のベネディクトも、監督が決まる前から脚本を読んでくれていて、この役をやりたいと彼の方からアプローチがあったんです。ベネディクトは、「本当に美しい物語だし、(チューリングは)素晴らしい人物だ。撮影するときにはぜひ声をかけてほしい」と言ってくれました。

 −−「誰も想像しない人が想像できない偉業をやってのける」というせりふが印象的ですが、あなた自身が執筆しながら「会心のせりふだ」と思ったものを教えてください。

 僕にとって、まさにそのせりふを言うジョーン(ナイトレイさん)の最後のモノローグを書けたことが会心でした。僕はこのモノローグを、我々がチューリングに対して贈る言葉というつもりで書きました。チューリングが生きていたときに、もし誰かが彼にこういう言葉を掛けていたら……そういう思いを込めたので、僕にとっては意味深い言葉なのです。

 −−印象に残る場面を教えてください。

 中盤にある、アランが尋問する刑事に「イミテーション・ゲーム」について説明するところです。書いていて楽しかったところでもありますが、なんといってもこの63秒のシークエンスでは、僕が今まで見た中で最高のベネディクトの演技が見られるし、見るたびに息をのむ素晴らしいシーンになったと思います。もともとこの映画で僕が目指したものは、チューリングの論理的かつ数学的、それとパーソナルな要素を一つにまとめあげることでした。それがうまく表現されたシーンになったと思います。

 −−チューリングは、コンピューター発明に貢献した人物としても知られていますが、今のデジタル社会を彼が見たらなんというと思いますか。

 きっとすごくエキサイトするんじゃないかな。僕自身、チューリングの好きな部分は、彼がテクノロジーというものに対してすごく楽観主義者であったということ。つまり、テクノロジーというものが我々の人生をより良いものにし、あるいは、人々を一つにする役割を果たせると彼は信じていました。きっとそれが果たされたと喜ぶんじゃないかな。

 −−この作品から何を感じてほしいですか。

 一つだけ挙げるのは難しいけれど、僕はアラン・チューリングという人物に対して、他者とは違うものの考え方をする人特有の“パワー”を感じるのです。彼があれだけのことをやってのけられたのは、ほかの人と違う視点を持っていたから。その部分が観客の皆さんの心にも響いてほしいと思っています。

 <プロフィル>

 1981年生まれ、米シカゴ出身。2003年、コロンビア大学で宗教史を専攻し、文学士号を取得。10年、小説「The Sherlockian」を発表。映画「イミテーション・ゲーム」(14年)の脚本を担当し、第87回アカデミー賞で脚色賞を受賞。現在2作目の小説を執筆中で、「うまくいけば今年の終わりには出版できそう」とのこと。また映像の方では、マーク・フォスター監督とマイケル・マン監督のそれぞれのテレビパイロット版の企画が進行中という。小説「The Devil in The White City」を原作にしたレオナルド・ディカプリオさん主演予定の映画については、脚本はすでに仕上げ、目下スタジオ側が資金調達と監督探しに動いている模様だ。

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