イミテーション・ゲーム:カンバーバッチに聞く アカデミー賞授賞式は「妻と両親が楽しんでくれた」

「イミテーション・ゲーム」について語ったベネディクト・カンバーバッチさん(右)。左は妻のソフィー・ハンターさん (C)A.M.P.A.S.
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「イミテーション・ゲーム」について語ったベネディクト・カンバーバッチさん(右)。左は妻のソフィー・ハンターさん (C)A.M.P.A.S.

 英俳優ベネディクト・カンバーバッチさんが主演を務め、第87回アカデミー賞脚色賞に輝いた映画「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」(モルテン・ティルドム監督)が公開中だ。映画は、第二次世界大戦時、ドイツ軍が誇る世界最強の暗号「エニグマ」の解読に挑んだ実在の数学者アラン・チューリング(1912−54年)の半生を描いており、カンバーバッチさんはチューリング役でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。このほどカンバーバッチさんが電話インタビューに応じ、アカデミー賞にノミネートされた感想や、このチューリング役が自身にもたらしたもの、さらに、今後の抱負や出演が決まっているマーベル・スタジオの新作「Docter Strange(原題)」について語った。

ウナギノボリ

 ◇授賞式1週間前に結婚した妻も出席

 −−今回のアラン・チューリング役でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。

 ノミネートされた時は、とにかくうれしかった。それ以前からうわさはいろいろ流れていたけれど、実際にノミネートされたときは本当に感動した。(ノミネートは)友達が教えてくれたんだけど、そのときは真っ先に両親に電話したよ。授賞式には両親も来てくれた。それと、(授賞式の)ちょうど1週間前に結婚したばかりで、妊娠している妻(女優で舞台演出家のソフィー・ハンターさん)も来てくれて、とにかく、妻と両親が楽しんでくれることが僕には大事だった。実際みんなが楽しんでくれたし、僕自身も楽しめたよ。昨年、(作品賞など3部門に輝いた)「それでも夜は明ける」(2013年、スティーブ・マックィーン監督)でも授賞式には出ていたし、ステージに登壇もしていたけれど、アカデミー賞に参加できるということだけで、それはもう、マジカルな感覚なんだ。みんながお祝い気分で、いわばパーティー。だから僕もそれを満喫するようにしたよ。

 −−今回のアラン・チューリングという役を演じるに当たって、どのような配慮をしたのでしょうか。

 アランは、ユーモアもあるけれど横柄で人を寄せ付けない。とても頭がいいけれど近寄りがたい。でも僕としては、そんな彼をアンチヒーローとして表現したくはなかった。大変複雑な人物に見せたかった。というのも、彼にはエキセントリックな部分はあるけれど、それは彼自身の資質のせいではなく、当時は彼にとっては生きづらい時代で、そういう時代だったからこそ、ああいう人物になってしまった。そういうことを表現したかった。

 −−チューリングという人物を演じたことは、あなたに何をもたらしましたか。

 これは普遍的なことかもしれないけど、人と違っていいんだよ、違って構わないんだということを学んだ。それから、自分と違うからといって、その人を決して過小評価してはいけない、見下してはいけないということ。そして、人を信じるということはとてもリスクの多いことだし、それによって傷ついたりするかもしれない。けれど、そのリスクを背負ってでも信頼していいんだということ。つまり、常に自分の腕を広げ、人々を受け入れる重要さを学んだよ。

 ◇「その人物として生きていると実感」した63秒

 −−アカデミー賞脚色賞を受賞した脚本家のグレアム・ムーアさんが、映画の中盤にある、チューリングがロリー・キニアさん演じる刑事に尋問されている63秒のシーンが素晴らしかったと言っていました。あなた自身はあのシーンをどのような思いで演じていたか覚えていますか。

 とっても素晴らしかった。ロリー・キニアは、僕が19歳ぐらいの頃からよく知っていて、英国では舞台などでも活躍している素晴らしい俳優なんだ。そんな友人と共演できたことは素晴らしい経験だった。考えてみると、あのシーンに至るまでにアラン(・チューリング)はかなり精神的に参っているし、いろんな経験をして、本当に傷ついているわけだ。それで、もうどうでもいいや、疲れたという気持ちがすごく出ていたと僕は思う。

 俳優としてシーンを演じていると、ときどき、その人物として生きていると実感する瞬間があるんだ。そういう時には、自分の演技が間違っているとか合っているとか、そんなことは全然気にならなくなる。これが正しいんだと確信して演じていられるんだ。まさにあのシーンでは、その瞬間を感じることができた。人間にはいろんな趣味嗜好(しこう)がある。考え方も違う。だから、機械が考えてもいいじゃないか、機械と人間の考えが違うのは当たり前じゃないかということからアランは自分自身の話を始めるわけだけれど、あの脚本の流れは本当に素晴らしいと思ったよ。

 ◇いつかは“隣のお兄さん”役を

 −−ところで、マーベル・スタジオの「Doctor Strange(原題)」(2016年公開予定)のストレンジ役に決まっていますが、現段階で話せる範囲で情報をいただけませんか。

 「Doctor Strange」に関しては、実際の作品を見てもらいたいんだけど、名前がストレンジ(奇妙な)だから彼自身がストレンジかといったらそうではないんだ。表面上はそんなにストレンジではない。でも、内面的には面白い役になると僕は期待しているよ。

 −−今後、どのような作品に出演してみたいと思っていますか。

 いつの日か、ロマンチックコメディーで“隣のお兄さん”(のような普通な役)を演じてみたいという気持ちはあるけれど、ただ、名前も一風変わっているし、容姿も一風変わっているということで、やっぱり一風変わった役が多いのかなと思っている(笑い)。でも、いろんな役を演じていきたいね。

 −−改めて、アカデミー賞にノミネートされた経験が、今後のあなたの俳優人生に影響を与えると思いますか。

 いや、僕のキャリアが変わったという実感はないな。僕のエージェントに聞いてみるといい。ただ、僕の肩書きが「アカデミー賞ノミネート俳優」のようなものになってほしくはないとは思っている。というのも、僕は、常に自分の作品が自分の肩書きになってほしいと思っているからなんだ。ノミネートされたメリットを挙げるとするなら、選ばれた作品が、より人々に知れ渡ることになり、多くの人に見てもらえるようになるということ。それは映画にとってとてもいいことだし、僕たちにも喜ばしいことだよ。

 <プロフィル>

 1976年生まれ、ロンドン出身。マンチェスター大学、ロンドン音楽演劇アカデミーで演劇を学び、その後、多くのテレビドラマに出演。BBCテレビドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」シリーズ(2010年、12年、14年)でホームズ役を演じ、日本でブレーク。他の映画出演作に「アメイジング・グレイス」(06年)、「つぐない」(07年)、「ブーリン家の姉妹」(08年)、「戦火の馬」「裏切りのサーカス」(ともに11年)、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」「8月の家族たち」「それでも夜は明ける」(いずれも13年)などがある。「ホビット/竜に奪われた王国」(13年)とその続編(14年)では竜のスマウグの声を担当した。

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