浪曲、浪花節とも呼ばれた、このかつてエンターテインメントの代名詞でもあった演芸が、ここ数年、追い風を受けて伸びている。若手が次々に入門し、集客も増えてきた。浪曲師の玉川奈々福さんは東京の浪曲界を引っ張る若手の一人。浪曲のブレークにつなげられるか。20日から隔月5回シリーズで「浪曲破天荒列伝」という会を開く奈々福さんに聞いた。
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21世紀に入り「落語ブーム」と呼ばれる落語人気の再ブレークがあり、いまや着実に根付いているが、現在の浪曲界は、あの落語ブーム直前のような高揚感が広がりつつある。なんといっても大きいのは、落語がそうだったように、「お年寄りが聞くもの」と考えがちだった浪曲に、若い人が興味を示し始めたことだ。毎月1~7日に浪曲の定席がある寄席・木馬亭(東京都台東区)にも若い世代の客が目立つようになり、ツイッターで浪曲公演の情報も飛び交っている。
奈々福さんは浪曲には欠かせない三味線を弾く「曲師」としてこの世界に入った。「曲師として入って20年なんですよ。そこで自分に負荷をかけようと思いました。褒めてくださる方もいますが、自身の評価は低いんです。昔のような修業は今はできない。でもどこまでできるかやってみたいと。そして、若い人が入門してくる中で、世間に浪曲の存在を知ってほしいと思うんです」と前向きに語る。
師匠の玉川福太郎さん(2007年、61歳で早逝)をプロデュースするなど、企画力もある奈々福さんが、セルフプロデュースで勝負する新企画が「浪曲破天荒列伝」。その第1回は「天保水滸伝(てんぽうすいこでん)より平手造酒(ひらて・みき)」だ。
平手造酒は実在の人物で、その名の通り酒好きどころか酒乱だが、剣の腕は立ち、義理人情に厚い人。三波春夫さん(「大利根無情」)や田端義夫さん(「大利根月夜」)の歌にも登場し、映画やドラマなどでも知られ、「ちょっと前までは本当にみんな知っていた人」。千葉県東庄町の墓は観光名所になっているほどだ。
なぜ破天荒な人物を取り上げるのか。「浪曲は思いっきりフリーダムを謳歌する芸能でありたい。落語とはちょっと違って粗暴なフリーダムさが浪曲にはある。私は“尊い愚か者”の話がしたいと思うんです」と奈々福さんは話す。
「経済主義とか効率主義といったものが、浪曲の世界では暴力的に壊されていくんです(笑い)。暴力的に壊されながら、それに沿っていく快感というか、ああ、人間は本来こういう生き物なんだというのを、本当に勝手に気ままに自由に見せてくれる人たちが、浪曲の世界にいっぱいいます。自分を縛っている規範みたいなものをぶっ飛ばして、人間の覇気というか、勢い、活気みたいなものをほとばしっている人たちに、私の物語の中で自由に活躍してもらいたい。それを見たお客さんの心がほどける場を、いつも作り続けられたらいいなと思ってます」
玉川奈々福の浪曲破天荒列伝・第1回「天保水滸伝(てんぽうすいこでん)より平手造酒(ひらて・みき)」は、20日午後7時、東京・浅草の木馬亭。奈々福「天保水滸伝 平手の駆け付け」(曲師・沢村豊子)、玉川太福(だいふく)「天保水滸伝 鹿島の棒祭り」(曲師・玉川みね子)。ゲスト・松尾貴史(落語とおしゃべり)。問い合わせはプロジェクト福太郎(tamamiho55@yahoo.co.jp)。