国内で3DCGアニメの動きが活発になる中、「セルルック」という手法が注目を集めている。セルルックは、セル画(2D)で制作されたアニメ(セルアニメ)のような表現を実現する3DCGの手法だ。「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」「シドニアの騎士」「山賊の娘ローニャ」などセルルックのフルCGで制作されたテレビアニメが、この1、2年で急増している。これまで「3DCGアニメとセルアニメは別もの」「3DCGの女の子は可愛くない」などとアニメファンの間でささやかれてきたが、セルルックによってそんな認識が覆されつつある。セルルックの可能性を探った。
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少し乱暴な説明をすると、セルアニメはパラパラマンガのようなもので、3DCGアニメは人形を作り、セットに配置して、カメラで撮影する……という工程をコンピューター上で行う。3DCGアニメは、人形を動かしながら、カメラのアングルをグルグルと変えることでダイナミックな動きを作り出せる。
1995年に世界初のフルCGの劇場版アニメ「トイ・ストーリー」が公開されてから、ディズニーやピクサーはフルCGアニメを続々と制作している。一方で、日本国内のアニメは、2000年ごろから、ロボットなどのメカのみを3DCG化する作品が増えているものの、人間のキャラクターは手描きで、CGと手描きが混在した作品がほとんどだ。
国内のアニメで人間のキャラクターを手描きにする理由は、独特の造形を3DCGで表現するのが難しかったからだ。例えば、顔がのっぺりしていて、目が極端に大きいような美少女キャラを3DCG化すると、不自然に見えてしまうことがある。また、3DCGのキャラは、動きが滑らかになりすぎる傾向があり、作画枚数を抑えたセルアニメに慣れたファンが違和感を覚えることもある。そこで、注目されているのが、3DCGのキャラの造形や動きなどを調整して、セルアニメのような表現を実現する「セルルック」だ。
セルルックが注目されるきっかけの一つになったのが、2013年10~12月に放送されたテレビアニメ「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」だ。当時、深夜アニメでは珍しかったほぼフルCGで制作され、セルアニメのような造形の3DCGの美少女キャラが“自然”に動く姿が、アニメファンの間で「可愛い!」などと話題になった。
同作を手がけたフライングドッグの南健プロデューサーによると、企画当初は社内外で「3DCGで描いた女の子が可愛くなるわけがない」などという意見もあったという。そこで、南プロデューサーが気をつけたのが「3DCGアニメとなると、グルグルと動く映像を作りがちだけど、ビックリ映像のオンパレード!のようなものは避けた」ことだ。
「蒼き鋼のアルペジオ」は、3DCGならではのダイナミックな演出ばかりではなく、セルアニメで見られるような“動きすぎない絵”が混在している。セルアニメの作法を踏襲した結果、アニメファンから支持を集め、3DCGの美少女キャラが可愛くなることを証明した。
3DCGアニメは、キャラを制作するモデリングなどの初期コストがかかる一方、キャラを素材として使い回せるため、ランニングコストが安くなると言われている。セルアニメは、作画のための人件費が膨大になってしまうが、3DCGは絵を一枚一枚描く必要がないため、スタッフの数を抑えられるのだ。
南プロデューサーによると、「蒼き鋼のアルペジオ」の場合、キャラのモデリングのために初期費用が膨らんだが、スタッフの数はセルアニメと比べて“少数精鋭”で制作できたようだ。結果として「お金をかけた深夜アニメと同程度のコストだった」という。
南プロデューサーは「蒼き鋼のアルペジオ」での経験を踏まえ「コスト面で考えても、全てのアニメが3DCGにマッチするわけではない」とも話す。モデリングなどの初期費用がかかってしまうため「キャラの数、衣装や背景のバリエーションが少ない方が向いている」という。「最初に作ったキャラを長年使い回すことができて、キャラがあまり増えない……と考えると、(3DCGで制作され、NHK・Eテレで放送された)『団地ともお』はマッチしていた。『サザエさん』や『クレヨンしんちゃん』のような作品にも向いているかもしれない」と語る。
「蒼き鋼のアルペジオ」のほか、「シドニアの騎士」「楽園追放 -Expelled from Paradise-」などのセルルックによるフルCGアニメが成功していることから、アニメファンの“3DCG慣れ”が進んでいると言えそうだ。「蒼き鋼のアルペジオ」は10月には劇場版第2弾「Cadenza(カデンツァ)」の公開も控えており、量産性に優れているフルCGアニメは、ますます増えていくと見られる。
一方で、「サザエさん」のような長寿作がフルCGに変更される……となると、拒否反応を示す人もいることも考えられる。アニメファン以外に浸透するかが課題になるかもしれない。
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