ドラゴンクエスト11:並行展開という“奥の手” 任天堂とソニーの顔立てる

PS4と3DSでの開発が発表された「ドラゴンクエスト11 過ぎ去りし時を求めて」のロゴ
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PS4と3DSでの開発が発表された「ドラゴンクエスト11 過ぎ去りし時を求めて」のロゴ

 「ドラクエ」の愛称で親しまれているスクウェア・エニックスの人気シリーズ「ドラゴンクエスト」の最新作となる「11 過ぎ去りし時を求めて」が、ソニーの据え置き型ゲーム機「PS4」と任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」の両方で発売すると発表された瞬間、東京・六本木の会場はどよめいた。「ドラクエ」シリーズは、1980年代のファミリーコンピュータ時代の懐かしさを色濃く残した路線と、高画質路線の2種類がある。今回は、その両方を選ぶという“奥の手”で、ユーザーの総取りを狙う。

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 数ある大ヒットゲームの中でも、特に「ドラゴンクエスト」は、初期シリーズの思い出を持った昔からのファンの絶大な支持を集め続けているシリーズだ。古参のファンは、80年代に人気が過熱しすぎて社会問題化するほどの“伝説”を体験したり、見聞きしていることもあり、普段はゲームをしないが「ドラクエだけは買う」という人もいまだに多い。

 だが裏返せば、それが弱点にもなる。当時の熱狂を知らない若年層のゲームファンからすると、シリーズの“お約束”を踏まえて作ることが、「古い」という印象を与えるのも事実だ。実際、PS2用ソフト「ドラゴンクエスト8」はキャラクターをリアル志向にし、DS向けの「9」では一転して2頭身キャラクターに戻している。そしてどちらの路線を取っても、ファンが激論を交わした。事実、DSの普及で大きな売り上げが期待された「9」は、シリーズ最高の500万本の大台も期待されたが、実際は440万本(ファミ通調べ)にとどまった。

 その問題を解決したのが、今回の並行展開だ。シリーズの生みの親であるゲームクリエーターの堀井雄二さんは28日に開かれた発表会で、PS4と3DSへの並行展開について「いろいろな人に遊んでほしいのでそういう決断をしました」と話しており、双方のユーザーへ配慮したことをにおわせている。

 実機を使ったPS4版のデモプレーでは、光の差し込みや、砂ぼこりの表現はもちろん、草原の先にある巨大な滝の景色も再現するなど演出面を重視。一方の3DS版は、3D映像と2D映像、ドット絵のグラフィックを活用するなど、ファミコンのテイストを前面に押し出した。まるで違うゲームのようだ。

 また、「ドラゴンクエスト」を、二つのゲーム機で出すことで、これまで“ドラクエ獲得”にしのぎを削ってきた任天堂とソニー、双方の顔を立てた。テレビゲーム市場は2007年をピークに、国内の市場規模が半減、スマートフォンの普及で広がった基本利用料無料のソーシャルゲームに押されるなど、厳しい状況が続いている。任天堂もソニーも、ここで大人気ゲームのシリーズ最新作が出ないとなれば、ゲーム機普及の大きな足かせになり、ダメージも大きい。

 そもそも、「ドラゴンクエスト」は、スクウェア・エニックスの前身であるエニックス時代から「最も売れるゲーム機で出す」と明言している。その論理に沿えば、今回の最新作がスマートフォンで出ていてもおかしくなかったが、まずは“ゲーム機”で売り出されることが明らかになり、ファン以上に業界・流通関係者が安堵(あんど)したといえる。そう考えるとサプライズ発表も、関係者が納得する「理にかなった選択」と言えそうだ。

 課題があるとすれば、高性能の据え置き機・PS4と、2画面の携帯機・3DSというまったく性質の違う二つのゲーム機向けに並行して開発を進めることだろう。ストーリーが同じとはいえ、これだけゲーム機の方向性が違うと、制作を統括する堀井さんをはじめ開発陣の負担はこれまで以上に大きい。シリーズの集大成的位置付けもあって、さまざまなソフトの発売も予定されており、シリーズ恒例の“発売延期”は、何としても避けたいところ。シリーズ30周年を迎える「ドラクエ」の挑戦に注目が集まりそうだ。

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