工藤夕貴:女優と半自給自足生活を両立 「後輩を育てられる女優に」

女優業や半自給自足生活について語った工藤夕貴さん
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女優業や半自給自足生活について語った工藤夕貴さん

 女優の工藤夕貴さんが出演し、終戦間近の東京を舞台に婚期を迎えた女性の不安と恋を描いた映画「この国の空」(荒井晴彦監督)がこのほど、公開された。静岡県富士宮市で“半自給自足”の生活を送り、同作で二階堂ふみさん演じる主人公の母親を演じた工藤さんに話を聞いた。

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 ◇米国生活をきっかけに“半自給自足”生活へ

 2000年ごろから米国に住み、現在は富士宮市で“半自給自足”の生活を送る工藤さん。「お米は全部自給です。野菜も4月くらいから12月ぐらいまで自給に近いですね」といい、「米国に住んでいたときから農業を始めていて、日本に帰ってきたら自分で育てた野菜を食べて自然の中での生活をしたいと思っていました」と話す。

 工藤さんにとって米国生活の影響は大きく「米国に行かなかったら、こういう生活が自分にできるって信じて、行動することはできなかったと思います。米国でそういう生活をしている人たちをたくさん見てきた土台があって、今の生活に入ったんだと思う」と振り返る。

 米国では女優業をしながら、自分の農場や牧場、ワイナリーを持っている人も多く「オフの時期に自分がどういうふうに人として充電して生きるかということを大切にしている姿を見てきた」という。またオーディションを受けるのに車で2時間かかる場所に出向くことも多かったため「(東京まで)1時間半なら近いでしょっていう感じ」と、現在の生活を楽しんでいる。

 ◇自分の感覚だけで演じてはいけない

 映画で工藤さんが演じたのは、婚期を迎えながらも、戦時下で結婚を望むことが難しい19歳の里子(二階堂さん)の母親。里子は男性と結ばれることなく死んでいくのかという不安とさみしさを抱えており、母親はそんな娘を母として女として見守っていく。

 母親としてだけでなく、女性として娘と向き合うシーンもあったことから、せりふのなかには「どうしても理解できない」という部分もあったという。監督に相談し、話を聞くことで、母親の心情を理解していったといい、この経験も含めて「自分の感覚で役を演じちゃいけないなってすごく思うようになった」と語る。

 「自分の感覚だけで理解して役を演じようとすると、どうしてもワンパターンとか、一つの役しか演じられなくなってしまうし、一つの解釈しかできなくなってしまう」といい、監督の言葉に合わせて芝居をすることで「自分が普段出せないものを出せたらいい」と考え、「私の頭では理解しきれない役だからこそ演じがいがあった」と手応えを語った。

 ◇二階堂ふみを絶賛 撮影中は英語で会話

 インタビュー中、「ふみちゃん(=二階堂さん)のことがすごく好き」と繰り返した工藤さん。「プロとしての根性がすわっていて、やる気があって、すごく好き。自分の若いときを投影して相通じるものを感じるし、たくましさを感じるんです。女優でいるっていうことが人生の中で大きなものを占めているんだなってすごくよく分かる」と手放しで褒める。

 撮影の際、二階堂さんから「英語を勉強したいから、私と英語でしゃべってもらえませんか」という申し出があり、芝居以外では「ずっと英語で会話していた」という。「日本語は先輩だったり、年上だったりすると、敬語があって、そこで一線を引いてしまうけれど、英語だと1対1の会話ができる」という利点もあり、距離が縮まった。

 また劇中の母娘の関係を「独立心のある親子。一緒に住んでいながら女性と女性というイメージがある」と分析し、「(二階堂さんと)英語でしゃべっていたのが、そういうところに投影されたかも」と語った。

 ◇どんな生き方をして年を取るかが課題に

 女優業について工藤さんは「それがあるからこそ生きていけるというぐらい、私にとって一番中心のもの」としながら、一方で「年を取ってくると女優だけをやっていくことはできないんです。若い時みたいに、しょっちゅうやりたい役があるわけでもない」と心境を明かす。

 「(徐々に)自分がどんな生き方をして年を取っていくかというのが大きな課題になると思う」といい、女優業に加えて、富士宮市で自身が育てた野菜を使った料理を出すカフェ「カフェ・ナチュレ」を経営している。同カフェでは工藤さんが食や農業について経験や考え方を語る講義も行っているという。

 自身の生き方を「自転車の前のタイヤが女優の仕事であるとすれば、後ろのタイヤは食の仕事だったり、人の命を支えていくっていうことを真剣に追求すること。(食の仕事も)私自身の生きざまの一つ」と力を込めた。

 ◇後輩を育てられる女優になって恩返しを

 パワフルに年齢を重ねる秘訣(ひけつ)を聞くと「好きなことをやって生きていることじゃないかな」と笑顔を見せる。「私は本当に幸せな人間。今までやりたいと思ったことでやれなかったことがない。自分が本当に生きたい人生を生きてきているし、本当に生きたい生き方をしてきている。そこに一点の後悔もない」とはつらつと語り、今は「恩返しをどうやってしていこうか」と考えているという。

 女優の生き方を「若手をサポートする女優になるか、若手と張り合う女優になるか、大きく分かれてくる」と持論を語り、「私は後輩を育てられる女優になりたい。今はふみちゃん(=二階堂さん)のことも含めて、後輩を盛り上げてあげられる、後輩の支えになってあげられるような先輩としてキャリアを積んでいきたい。そういうふうに役を演じていけたらいいなと思う」と目標を語った。

 <プロフィル>

 くどう・ゆうき。1971年1月17日生まれ。東京都出身。84年の映画「逆噴射家族」(石井聰亙監督)で映画デビュー。海外へ活躍の場を広げ、89年の映画「ミステリー・トレイン」(ジム・ジャームッシュ監督)、2000年の「ヒマラヤ杉に降る雪」(スコット・ヒックス監督)などに出演。05年の「SAYURI」(ロブ・マーシャル監督)、10年の「座頭市 THE LAST」(阪本順治監督)、13年の「りんごのうかの少女」(横浜聡子監督)など、国内外問わず映画作品に出演している。

 <作品紹介>

 「この国の空」(荒井晴彦監督)。芥川賞作家の高井有一さんの小説が原作で、小説は1983年に出版され谷崎潤一郎賞を受賞した。1945年、終戦間近の東京で、里子は母親と2人暮らし。度重なる空襲におびえ、まともな食べ物も口にできないが、健気(けなげ)に毎日を過ごしている。しかし戦時下では婚期を迎えた里子が結婚を望むのは難しく、男性と結ばれることなく死んでいくのかという不安とさみしさを抱えていた。そんな中、里子は、隣に住む妻子を疎開させた銀行支店長の市毛(長谷川博己さん)の世話をすることに喜びを感じていき……という物語。

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