北川悦吏子:私がウェブシネマを書く理由 「女の子が語りかけてくるような作品がマッチ」

ウェブシネマ「そちらの空は、どんな空ですか?」の脚本を担当した北川悦吏子さん
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ウェブシネマ「そちらの空は、どんな空ですか?」の脚本を担当した北川悦吏子さん

 人気脚本家の北川悦吏子さんが、ネスレ日本が「YouTube」で配信しているウェブシネマ「そちらの空は、どんな空ですか?」の脚本を担当した。今作は2013年11月から配信している「ネスレシアター on YouTube」の新作で、日本の「キットカット」が持つ応援アイテムとしての認知をアジア圏に広げるべく制作された。香港で出会ったエナとリリが、香港と日本でそれぞれ挫折や困難に立ち向かう中、SNSを通してお互いを励まし合う……というストーリーで、元KARAの知英さんがエナを演じ、東京メトロのCMで堀北真希さんと共演した14歳の新人、松風理咲さんがリリを演じている。ウェブシネマという新しいメディアで1話8分程度で全3話という短編を書くにあたって、北川さんに作品に込めた思いなどを聞いた。

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 ◇瞬間切り取り系が好き

 「娘が今、高校生なので、高校生の話が書きたいというのは私の中にありました」と北川さんは作品の発想の元を明かす。その証拠にこの作品は1話8分程度と短い中にも極力説明を省き、2人の女の子の葛藤を日本の田舎と香港の美しい風景とともに若さあふれるみずみずしい映像で描き出している。

 北川さんは短編について「短編小説が好きな作家のように、私もわりと短編が好きなんです。CMのような“瞬間切り取り系”が意外と好きで。1話8分程度というのは、瞬間切り取り系としては長いんですけれど、その尺の中で何が描けるかというのを、全3話の尺で書いてくださいといわれると戸惑うと思うんですが、1話8分程度というのは(出来上がりが)見えました。自分でできるだろうなと思いました」と自信もあった。

 ◇1人で見ることに合った作品に

 北川さんがこれまで主に活躍してきたドラマは、家族がお茶の間でテレビで見ていたが、今作は各自がスマートフォンなどパーソナルな端末で視聴する。「1人で携帯端末で見ることに合ったものがいいなというのは考えました。スマホで見て、ちょっと内緒話のような、誰かの日記を読むような感じがあったら訴えかけやすいのかなと思っていました」といい、「距離が近いし、寝るときに見る人もいるかなと思って。そうすると『こんなことがあったんだよね』って女の子が語りかけてくるようなものがよりマッチするんじゃないかなって。目が覚めてしまうより、いい夢見られる方がいいのかなって」と考えたという。

 ◇青春ものは無理だと思っていたが…

 「娘が高校生」という年齢に達した北川さんが14歳と23歳の女の子の話を書くことに懸念はなかったのだろうか。「自分の年齢を考えるともはや学園ものは書けないなとずっと思っていたんですよ。(2004年のTBS系ドラマ)『オレンジデイズ』からほとんど書いてなくて、今、青春ものがないよねっていって、そういうものを書いてほしいと言われるたびに、もはや私、その年齢のものは無理だよって言ってたんですけど、それが今回、まったく違和感なく書けたんですよね」と自分でも意外だったという。

 そして「書けたということがすごく大きくて。『自分はそういう年齢を大きく過ぎてしまったから分からない』ということではないのかもしれないという気持ちに、これを書いたことによってなれたんです。自分が気づいていないことに気づいたというか。14歳の少女がこう思い、23歳の女性がこう思うということを今、その年齢の人たちにも見てほしいし、そうじゃない年齢の人たちにももちろん見てほしい。私はこういうことだと思ったんだよね、というものを提示できた、そしてそれは成功したなと思っています」と手応えを感じ、「ヒロイン2人が生き生きしている、そこを見てほしい」と力を込める。

 その思いは高校生にも通じたようで「娘に見せたら結構反応があって、見たあとに私にハイタッチしてきたので、これは感じる人には感じるんだって思いました」と北川さんは笑顔を見せる。

 ◇憧れが原動力に

 ドラマや映画、舞台だけでなく、最近はインターネットの動画サイトの急速な普及で映像作品を発表する機会が増えた。裾野が広がっているように見えるが……。「ドラマが消費されないでちゃんと育つといいなと思いますね。そこにちゃんとプロはいますかと、危機感も実はあるんですけれど、でも可能性もありますよね」と理解を示す。

 また、テレビの“若者離れ”がいわれて久しいが、「娘を見ているとそこに寄り添って応援してくれて、背中を押してくれるような作品が供給されているのだろうかと。そこは(感性が)育つところだから」と心配顔ものぞかせる。「私はすごくドラマに憧れた人間で、憧れると人ってすごく頑張ると思うんですよね。私はこうなりたいというか、大学に行ったらこうなんだってそういう憧れが今、ないような気がしますね。若い人たちが『わあ、すてき』と思うものが少なくなってきた」と懸念し、「青春時代ってなんだろうということを、この作品を見ると何か感じてもらえると思います」とメッセージを送った。

 「そちらの空は、どんな空ですか?」は第1話と第2話が配信中で、第3話が3日から配信される。

 <プロフィル>

 1961年12月24日生まれ、岐阜県出身。テレビドラマの企画の仕事を経て、92年、「素顔のままで」(フジテレビ系)で連続ドラマの脚本デビューを果たす。その後、「あすなろ白書」(同)や「ロングバケーション」(同)、「ビューティフルライフ」(TBS系)、「オレンジデイズ」など、数々のヒット作を手がける。「ビューティフルライフ」では向田邦子賞、橋田壽賀子賞を受賞した。

 (インタビュー・文・撮影:細田尚子)

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