小説家・島田荘司さんの推理小説「天才探偵・御手洗潔シリーズ」の「星籠の海」を実写化した映画「探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海」(和泉聖治監督)が公開中だ。瀬戸内海近辺を舞台に、天才脳科学者の御手洗潔が次々に発生する奇妙な事件に挑む姿を描く。IQ300超の天才的な頭脳で数々の難事件を解決してきた御手洗を演じた主演の玉木宏さんに聞いた。
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御手洗シリーズは2015年にドラマ化もされているが、玉木さん演じる御手洗は、原作者の島田さんがただ一人認め、出演を熱望したという。「演じる前が一番プレッシャーがありましたが、プレッシャーを感じているだけでは前に進めないので、島田先生や監督と話したりして役作りをしました」と玉木さんは振り返り、「島田先生にお会いして思ったのは、島田先生ご自身が生みの親であると同時に、御手洗なのだと。(島田さんが御手洗に)近いと感じました」と原作者と対面した時の印象を語る。
御手洗という人物について、「ちょっと現実離れした人」と切り出し、「無機質というか、無駄なものをすべて排除したような人という意識で演じました」と説明する。続けて、「体温や季節感も感じない人物で、(御手洗は)淡々としているけれど、周りが翻弄されることで御手洗の異質な感じが確立される」と周囲のキャラクターとの対比で自身の役柄が際立つといい、「周りの皆さんあってこその御手洗だと思います」とほほ笑む。
人の一歩も二歩も先を行く考えを持ち、何事も見通す雰囲気を出すため、「例えば人が話をするとき、目線を動かしたり、手の仕草や表情をつけたりすると、考えながら話している感が出る」と切り出し、「御手洗はそういうものは一切なく、一度見たら見っ放しで、違うことを考えているときは、全く違う方を見ているなど、“彼のペースで”ということを心がけて演じないと、見透かしている感じが出ない」と説明。ただし、「人間離れした人と解釈をしていたので、役にどう近づいていくかを考えましたが、(頭の回転がとても速いので)御手洗にはなかなか追いつけませんでした」と笑う。
演じた玉木さんをして“無機質”と表現する御手洗の心情面では、「サディスティックな雰囲気はありますが、人間らしいところとして、どこか優しさがある」といい、「犯人が分かっても追いつめないというか、心理学を学んでいるからかもしれませんが、どこか優しさをということは意識しました」と演技の際に意識した点を明かす。
映画は瀬戸内海を舞台に、複数の事件と謎が入り交じって展開していくが、「純粋に推理ものではありますが、歴史が絡んでいる面白さもある」と玉木さんは切り出し、「福山という街に行ったのは初めてだったのですが、坂本龍馬にゆかりのある鞆の浦という場所があって、瀬戸内海の穏やかな造りを利用した船を直す場所など、日本ならではのよさを感じ、いい場所でした」とロケ地の感想を語る。
その瀬戸内海の地で御手洗とともに事件に挑むのが、映画オリジナルのキャラクターである広瀬アリスさん演じる小川みゆきだ。「彼女の演じる小川みゆきの立ち位置が、映画を見てくださる観客の皆さんの目線と同じような位置にあたると思うので、彼女の存在に作品自体が助けられていると思う」と玉木さんは持論を述べ、「広瀬さん自身もすごくきれいなのですが、実は中身は体育会系(笑い)。監督に要求されることに対して、『はい、分かりました。やってみます!』というような、すごく気持ちのいい人でした」と明かす。
御手洗とみゆきの掛け合いも今作の魅力の一つで、「僕が発信したものに対して、すぐに反応してくれる」と広瀬さんとの撮影シーンを振り返り、「何か言葉で直接相談したわけではないですが、役柄としては僕が周りを振り回す方なので、そこにちゃんとついてきてくれました」と感謝する。
そういった中、「御手洗という男はインドアで、人付き合いも苦手というイメージだった」と玉木さんはいい、「映画はほぼオールロケで多くの人に会って対峙(たいじ)するので、どれぐらいの距離感や温度で接するかなどは考えました」と御手洗というキャラクターと外ロケとのバランスに腐心したという。
俳優という仕事柄、普段からミステリー作品にも目を通すという玉木さんだが、「読みながら犯人捜しもしますが、なかなか頭の処理が追いつかない」と苦笑い。今作も謎解きに挑むが、「御手洗を演じる上で御手洗の(推理)スピードには追いつけないですし、僕らは演じているから中身が分かりますが、初見の方々がどこまで(御手洗の思考速度に)追いついてこられるかは想像できない」と玉木さん。そして、御手洗は探偵役であるのに、「(ヒントは)言わないです(笑い)。翻弄される人たちばかりが映っちゃう」と楽しそうに話す。
天才にして変人である御手洗がどんな女性に興味を持つかについて、「きっと小川のような、ひたすら真面目で真っすぐな人では」と玉木さんは推測。その理由を、「彼女のひたむきさというか、本当に事件の真相を知りたいというピュアな部分や、御手洗のことをすごく立てている女性なので、そういう女性なのではと思う」と推測する。そして、「だから演技でも、徐々に彼女を少しずつ受け入れるということを、お芝居の中で見せていかなければとも思っていました」と明かす。
そんな御手洗を演じる玉木さん自身は、「やっぱり芯がある人がいい」といい、「ぶれてしまう人だと、こちらも振り回されたりもするだろうし、何か目標があって、一つのことに進んでいると芯もできてくると思う」と語る。
続編の可能性については、「僕はちょっと怖いなと思う」と玉木さん。「一度役を演じたら、次は全然違う役に振りたいし、あまり(役が)定着してしまうと、次に進めないような気がする」と慎重に言葉を選びつつ、「ありがたい話なのですが、うれしい半面、怖いのが半々ぐらいです」と本音を明かした。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1980年1月14日生まれ、愛知県出身。2001年に出演した映画「ウォーターボーイズ」で脚光を浴び、以降、NHK連続テレビ小説「こころ」、大河ドラマ「功名が辻」、「のだめカンタービレ」(フジテレビ系)、NHK連続テレビ小説「あさが来た」など、数多くのドラマに出演。主な映画出演作に「ただ、君を愛してる」(06年)、「ミッドナイト・イーグル」(07年)、「真夏のオリオン」(09年)、「大奥」(10年)、「幕末高校生」(14年)、「神様はバリにいる」(15年)などがある。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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