窪田正孝:注目の若手俳優が目指す役者像とは… 映画「MARS~ただ、君を愛してる~」主演

映画「MARS(マース)~ただ、君を愛してる~」について語った窪田正孝さん
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映画「MARS(マース)~ただ、君を愛してる~」について語った窪田正孝さん

 惣領冬実さんのマンガを実写化した映画「MARS(マース)~ただ、君を愛してる~」(耶雲哉治監督)が全国で公開中だ。今年1月期に日本テレビ系で放送された連続ドラマの映画版。学園のスター的存在で、刹那(せつな)的な日々を送りながらも、怒りに火がつくと抑えられない凶暴性を秘めた高校生・樫野零を「Kis-My-Ft2(キスマイフットツー)」の藤ケ谷太輔さん、零の中学の同級生で死んだ零の弟・聖の親友であり、零に特別な感情と強い執着心を持つ桐島牧生を演じた窪田正孝さんがダブル主演し、零の運命の恋人で、周囲から孤立して生きる麻生キラを飯豊まりえさんが演じた。切ない三角関係を描いたラブストーリーだが、一筋縄ではいかないダークな面も描かれている。零とキラを引き裂こうとする牧生を演じた窪田さんに聞いた。

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 ◇藤ケ谷が「陽」、窪田が「陰」のキャラクター演じる

 今作は、1月期のドラマに続いての映画となり、撮影期間も通常のドラマや映画より長期間にわたった。窪田さんはそのことを「1クール(3カ月間)のドラマより長くやっていたので、スタッフさんともすごく仲良くなれ、みんなで作っている一体感というのはありました。ドラマになって培ってきたものが映画で爆発した感じですね。やっぱりドラマがあったことはすごく大きかったなと感じています」とスタッフとの絆を築けたことを喜ぶ。

 藤ケ谷さんと窪田さんのダブル主演で、藤ケ谷さんが「陽」、窪田さんが「陰」という一見対照的なキャラクターを演じている。窪田さんは藤ケ谷さんに対して「(藤ケ谷さんが演じる)零はパンと(明るい)、太陽さえ味方にしてしまうというか。そういう役は(僕は)なかなか挑戦してこなかったところもあるんですけれど。この役をいただいた意味はそのときにすごく感じましたね。零が太陽なら牧生は月。どこか暗さがある。牧生は一色なんですね。黒く塗りつぶせばいい。そういう意味で演じるのは苦ではなかった」と分析する。

 藤ケ谷さん自身に対しても「キラをつつんでしまう大きさが、太輔君自身にもあって、芝居にうそがないんですよね。本人が反映されている部分があって。クラスでもみんなから注目を浴びる存在。もし僕が演じたら陰湿な感じになっちゃうな……とは思っていました」と表現する。

 ◇狂気をはらんだ目の演技は…

 窪田さんが演じる牧生は狂気をはらんだ目が印象的だ。演じる上で窪田さんは「にらみ過ぎないように気をつけました。牧生は狂気という表現がどうしても先に来てしまうんですけれど、純粋だからこそ、残酷に見えるという。そういう部分で、いい塩梅(あんばい)を見つけて(演技して)いきたいというのはありましたね。本能のままにいることもすごく大変で、一定の敵が生まれるだろうし。それを、無理のないように……」と細心の注意を払って演じたという。

 牧生について、窪田さんは「彼(牧生)は、誰がどう思おうが自分は自分の道を行くんだという思いがあって。それが零に対する固執になっていくんですけれど、それはこの作品に関わらず、誰かを好きになったとしたら周りの意見を聞かず、自分が好きだからと思ったら突き進む。そういう無邪気さというか、探究心、執着心は誰でも持っているものだと思うので、この作品の中で、牧生にどこか自分と共通する部分を感じていただけたらうれしいなと思います」と見どころを語った。

 今作の登場人物はそれぞれ運命的な出会いをしているが、窪田さん自身の運命的な出会いは? 「運命という言葉ではなく、僕がよく使うのは“縁”という言葉なんですけれど、一つの作品に出合えて、あの人と一緒に仕事ができて縁があってよかったなと。そういうのをたどっていくとまたその後ろに縁があって。監督さんにまた呼んでいただける機会があったり。その大元をたどっていくと、この仕事を勧めてくれた母親が運命的な出会いなのかなって感じますね。仕事を始めたときは全然気が付かなかったんですけれど」と感謝していた。

 ◇型にはまりたくない

 話題作に次々に出演し、注目度も上がっている窪田さん。自身は環境の変化を実感しているのだろうか。「(実感は)ないですね。仕事に対するスタンスはずっと変わっていないので」と淡々とした表情で語る。逆に多くの作品に出ることによって「ここ2、3年、どんどん枠に収まっているなというのを感じています」と危機感を募らせる。「年齢とともに体がだんだん固まっていくように、こういう芝居をしていればいいのかな、監督に求めているところに近づければいいのかなと。でも、型にはまっていくのがすごく嫌なので、ありのままでいたいんです」とあくまで自然体だ。

 またキャリアを積んだことで、「いい意味ですけれど、がむしゃらさが抜けちゃったなというのを感じたんです」と明かす。「最初の頃のがむしゃらにやっていくという気持ちって、年とともにだんだん抜けているなと感じているので、作品に入る前にいつも自分を奮い立たせてやるんです」という。

 今回、飯豊さんとの共演も刺激になった。「飯豊さんは現場に一番長い時間いたんですけれど、役柄が2人の間で板ばさみになってぐちゃぐちゃになって、離れたり、近づいたり、でもトラウマがあって……。そんな役でずっと彼女は現場で戦っていた。それを実際に見た時に、(自分が仕事を始めた頃の)当時のことを思い出させてくれてすごく刺激をいただいたし、一番彼女が頑張ったなと感じました」と現場でさまざまなことを得ている。

 そんな刺激を受けつつ、「もちろん役をいただいたからにはそれ以上にして返したい。でも狂気の芝居でも、一人の人間ができるものはやっぱり限りがあるし、そこにはいつも葛藤しかないんですけれど。同じ人間は絶対にいないから、(役が違えば)どこかで変えられるものは変えていきたい。狂気の役を10人分やるなら10通りあるという感覚でいたい」と常にフレッシュな気持ちで役に臨んでいる。

 ◇目指すは「息の長い役者」、そして…

 目指す役者像は「息の長い役者になりたい」という窪田さん。そのためには演じたあと、役を切り離すという作業をしている。「一つの役をずっとやっていると染まっていく感覚はあるんですよ。ロケに行って撮影して同じ衣装を来て、同じ髪形にして、終わったら、それを自分から切り離していく。やった役は全部捨てていく。二度とこっちの領域に入って来るなくらい、突き放す感覚で。だから新しい現場に入る時には、いい意味で何も考えていないですね」という作業を繰り返している。

 また、「今、27歳なので30歳に向けて、あんまりやってこなかった役もやっていきたい」と前向きに語り、「つかめない役者になりたい」とも明かす。「具体的に言葉にするのは難しいですね。人前で泣きじゃくったり、なんでこんな仕事しているんだろうとときどき思ったりしますけれど。でもやっぱり現場で『本番』って声がかかったときの緊張感だったり、すごく静かな中で空間が生まれて、それが本番として撮られていく。こういう現場が僕は根本的に好きなんですよ」と演じる魅力にとりつかれてしまったようだ。

 その目力を生かして、さまざまな役に挑戦していくだろう窪田さんの今後の活躍に注目したい。映画はTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1988年8月6日生まれ、神奈川県出身。2006年、フジテレビのドラマ「チェケラッチョ!!inTOKYO」主演で連ドラ初出演。12年には「ふがいない僕は空を見た」(タナダユキ監督)ほかで、第34回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞などを受賞。主な映画出演作は「はさみhasami」(12年、光石富士朗監督)、「るろうに剣心」(12年、大友啓史監督)、「飛べ!ダコタ」(13年、油谷誠至監督)、「映画 鈴木先生」(13年、河合勇人監督)、「めめめのくらげ」(13年、村上隆監督)、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(13年、小泉徳宏監督)、「ナニワ銭道」(14年、萩庭貞明監督)、「映画 ST 赤と白の捜査ファイル」(15年、佐藤東弥監督)、「エイプリルフールズ」(15年、石川淳一監督)、「ヒーローマニア-生活-」(公開中、豊島圭介監督)、「64-ロクヨン-」(前編・後編公開中、瀬々敬久監督)など。

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