神谷浩史&斎藤千和:西尾維新<物語>シリーズを「音にする」 句読点まで忠実に

「<物語>シリーズ」で声優を務める神谷浩史さん(左)と斎藤千和さん
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「<物語>シリーズ」で声優を務める神谷浩史さん(左)と斎藤千和さん

 アニメも人気の西尾維新さんの人気小説「<物語>シリーズ」(講談社)のオーディオブックが、Amazonの「Audible」から配信されている。1巻あたり約8時間という大長編で、阿良々木暦役の神谷浩史さん、戦場ヶ原ひたぎ役の斎藤千和さんらアニメの声優陣が小説の各巻を朗読する。神谷さん、斎藤さんに「難解」「言葉遊び」と評される西尾さんの小説を朗読する難しさ、アニメとの違いを聞いた。 

ウナギノボリ

 ◇西尾維新の文章の難解さ、面白さを思い知る 神谷浩史が行き着いた先は…

 Audibleは、小説やビジネス書といった人気書籍などをプロのナレーターが朗読した音声コンテンツで、スマートフォンやパソコンなどで楽しむことができる。「<物語>シリーズ」のオーディオブックは、「ファーストシーズン」第1弾として神谷さんが朗読する「化物語(上)」が2月17日に配信された。八九寺真宵役の加藤英美里さんによる「化物語(中)」が3月19日、斎藤さんによる「化物語(下)」が4月16日に配信予定。「ファーストシーズン」には、井上麻里奈さん、櫻井孝宏さん、坂本真綾さんも参加している。

 ――西尾維新さんの小説は「言葉遊び」と評され、文体が特徴的です。アニメで演じる上で大切にしてきたことは?

 神谷さん 「<物語>シリーズ」は「化物語」から始まり、「続・終物語」まで全て映像化されていますが、僕がアニメーションで西尾先生の文章を音にしていく作業を突き詰めていった結果、「続・終物語」では、原作に準拠した形で「、」と「。」で切るというところにたどり着いたんです。

 ――原作では、「嫌というほどに、だ。」など句読点の打ち方も独特です。

 神谷さん それまではアニメーションとして表現するに当たって、一番気持ちのいいリズムで読んでいたんですけれど、原作準拠を突き詰めていった結果、「続・終物語」では、原作に「、」が打ってあると思ったら、そこでブレスを取るということをやり始めたんですよ。そういうハードルを自分で設けてだんだん苦しくなっていくことが僕はよくあるんですけど、「<物語>シリーズ」はそういうものだと思っちゃっているんです。

 ――今回のオーディオブックは1巻あたり約8時間と分量も多いです。かなり大変な作業だったのでは?

 神谷さん どんなに一文が長くてもワンブレスで読まなければいけないとか、ここは切りたくないけど「、」があるから切るか……と。もちろん見逃している部分もあると思うのですが、僕は9割ぐらいそれでやっていると思います。なるべく西尾維新先生の文体のリズムを僕の中で読むということを課しているので、より難解でした。西尾先生の文章の難解さ、面白さを感じました。僕がやっていることは果たして意味があるかといったら意味がないんでしょうね。ただ、原作で「、」が打ってある以上、何か意味があるんだろうなと。原作を見ながらオーディオブックを聞く人は「ここまでこだわって読んでいるんだ」と気付いてくれるかもしれない。

 斎藤さん 神谷さんは、アニメの時から一言一句守るということをやっていらして、私は逆にひたぎらしさを出すために、西尾先生に許可を取った上で、原作の語尾、言い方を変えているんですね。例えば、「だけど」を必ず「だけれど」に直すとか、「~してるわ」を「~しているわ」と「い」を入れるとか。オーディオブックでは、それをやらずにちゃんと読むことが大前提だったので、違和感を覚える箇所があるというか。文章との距離感が難しかったです。

 ――オーディオブックでは、暦や羽川翼などほかのキャラクターのせりふも含め朗読されています。せりふを読む時はどんな感覚でしたか?

 斎藤さん ひたぎ以外のキャラクターのせりふは、演じている声優さんの声が浮かぶんですけど、あくまでもひたぎベースで読まなくてはというのがあります。その人独特のせりふのリズムが思い浮かぶのですが、それをトレースするのもまた違うなと。そのバランスがすごく難しい箇所がありました。最初は、感情を入れずにひたぎロボットのような感覚で始めたのですが、ずっと淡々としているのもつまらないかもと思って、自分が思い入れのあるシーンは気持ちを少し入れてみたり、少しやり過ぎたかなと思ったら引いてみたり、全体を通して聞くと結構ガチャガチャしていると思います(笑い)。

 ◇神谷浩史 <物語>シリーズは「間違いなく僕の代表作」

 ――オーディオブックの聴きどころは?

 神谷さん 斎藤さんが演じてきたひたぎのせりふや、櫻井さんが演じてきた忍野(メメ)のせりふを読ませていただいていて、斎藤さんだったら、櫻井さんだったら、こう言いそうだなというのを自分の体を使って、阿良々木暦の声帯で表現しています。そうした違和感並びに、新しい何かに出会えるはずです。

 斎藤さん 私は「阿良々木くんがこんなことを考えていたんだ」とか「ひたぎはこういう行動を取っていたんだ」と、行間を埋める作業がすごく楽しかったです。聴いてくださる方も、あまり凝り固まった気持ちにならずに、想像力を働かせながら聴いていただけたらうれしいです。西尾先生の文体や表現を楽しむためのスピーカーみたいな気持ちで朗読させていただいたので、小説が音になったらどうなるのかを純粋に楽しんでほしいですね。

 ――<物語>シリーズは原作は2006年、アニメは2009年にスタートし、息の長いコンテンツとなっています。作品への思いは?

 斎藤さん 私は「化物語」が大好きですし、魅力的なキャラクターがたくさんいて、みんな好きですし、なかでもひたぎという役は大好きなんです。年に1、2回は演じる機会があって、いつも身近にいてくれるキャラクターです。自分が好きな人を他の人も好きというのはすごく幸せです。今後も自分にとってすごく大切な作品で、責任を持って長く演じていけたらなと思います。

 神谷さん 間違いなく僕の代表作だなと思っています。年間数百本のアニメーションが大量に作られて、ワンクールの間でも数十本のアニメーションが放送される中で、10年以上同じ役を続けさせていただいています。なかなか代表作を作りにくい時代に「神谷浩史と言えば、阿良々木暦でしょ」と、僕の代表作としてずっとトップに君臨し続けています。そういう作品に巡り合えたことは役者冥利に尽きるなと思います。

 アニメで一言一句にこだわってきた声優陣が、原作を読む今回のオーディオブック。音になった西尾維新さんの<物語>シリーズの魅力を味わいたい。

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