ちいかわ
第233話 黒い流れ星・後編(12)
1月7日(火)放送分
アニメ「ルパン三世」の人気キャラクター・次元大介の声優の小林清志さんが勇退し、大塚明夫さんが後任を務めることが明らかになった。次元役はアニメ50年で初の交代で人々の反応もさまざまだったようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。
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今月はじめ、長年次元大介を演じてきた小林清志さんが同役をご勇退され、後任を大塚明夫さんが務められるとの発表がありました。半世紀続くアニメ「ルパン三世」で、現在唯一のオリジナルキャストであった次元役のキャスト交代。その発表が世間に与えた衝撃ははかり知れません。それを聞いた人々の反応も、これまであまり見たことのない、さまざまな感情が複雑に入り混じったものとなっていました。
概観したところ、発表に対する人々の反応の多くは、どうやら異なる三つの段階を踏んでいたようです。
真っ先に生じていたのは、やはり“寂しい、悔しい”という反応でした。
2011年にメインキャストが大きく交代した際も、ルパン三世役の栗田貫一さんと共に続投されたこともあり、どこか「次元はずっと小林さんが演じてくれるものだと思っていた」というのもあったのでしょう。ついに、と思いつつも信じられないと、心にぽっかりと穴があいたような寂しさを覚えた人が多いようでした。加えて、小林さんによる「わがままを言えば90歳までやっていたかったが残念」といったコメントを受けて、「わがままを言えばもっと聞いていたかった」と、共に悔しさを感じた人も少なくなかったようです。
そうした反応に続いて生じたのは、“小林さんへの感謝”を伝えるたくさんの声でした。
確かに寂しいし悔しい。でもそれは、誰より一番悔しいであろう小林さん自身が選択したことでもあります。ならばここは一旦ちゃんと受け止めて、とにかくこれまでずっと次元を演じてくれたことへの感謝を小林さんに伝えねば、という気持ちの切り替えも行われたのでしょう。寂しいという声だけじゃなく、それに続いて“小林次元”への熱い想いや、感謝を述べる声が次々とあふれていたのです。
そうした悲しみと感謝を経て、最後に訪れていたのは“後任への強い納得感”でした。
正直、小林さんのご勇退発覚時点では、交代を受け入れはできても「誰が後任になっても抵抗がある」「次元は小林さんでしかありえない」と思っていた人も少なくなかったと思います。しかしそんな気持ちを抱いていた人々の多くを納得させたのが、その後改めてアナウンスされた“後任は大塚明夫さん”という発表でした。これを受けて、新たな次元への期待の声も増え、初めて公開された“大塚次元”の声が聞ける第2弾PVにも、お父様の故・大塚周夫さんに続いてルパンファミリーに加わった大塚さんに対して、改めて歓迎の声が多く寄せられていたのです。
このように、今回の発表には、単純な賛成、反対といった感想というよりも、「寂しいけど、今までありがとうございました。これからのシリーズも楽しみです」といった、発表を受け止め、かみ砕き、今後に期待を寄せるという、さまざまな感情の段階を踏んでの反応が多く見られました。
突然の発表への戸惑いは感じられますが、しかし決して悲観的な声ばかりでもないのは、最終的に今回の交代が、単なるお別れではなく「ルパン三世」が続いていくためのバトンタッチとしても受け止められていたからだと思います。実際に、小林さんと大塚さんお二人のコメントを見て、これまでの次元も、これからの次元も大好きだし、そうしていつまでも続く「ルパン三世」シリーズを今後もずっと応援していきたいと、改めて表明するような声も挙がっていました。
「最近は長寿アニメの声優交代も珍しくないし“仕方ない”」といった後ろ向きな形ではなく、そうして次に繋げるための前向きな継承としても受け止められたのは、これまで50年続き、今後もずっとそう在り続けるのだろうと思える、既に世界観を超えて概念にさえ近くなってきている本作だからこそでもあるのかもしれません。今回の声優交代は、そんな「ルパン三世」シリーズの持つ不滅の作品としての強さも、改めて垣間見える出来事でもありました。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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