JUNK HEAD:世界が称賛したストップモーションアニメ たった一人で作り始めた堀貴秀監督の執念

「JUNK HEAD」の一場面
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「JUNK HEAD」の一場面

 堀貴秀監督がほぼ一人で作り始め、約7年かけて制作したことも話題になった映画「JUNK HEAD」。堀監督は映像制作の経験がなかったが、CG全盛の時代に、あえてストップモーションアニメで同作を作り上げた。2013年11月に短編が完成し、自主上映が注目され、2014年に4月には長編の制作を開始。2021年3月に長編が公開されると、ファンタジア国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を受賞したほか、「パシフィック・リム」のギレルモ・デル・トロ監督が絶賛するなど、世界中から称賛を浴びた。堀監督は一躍、時の人となったが、その道は決して平坦なものではなかった。「最後のチャンス」「あきらめなきゃできる」と執念で映画を作り上げた堀監督に、制作の裏側を聞いた。

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 ◇映画やアニメとは全く違うリアリティー

 堀監督は1971年生まれ、大分県出身。高校卒業後、アルバイトを転々としながら芸術家を目指し、29歳でアートワーク専門の仕事で独立。絵画、彫刻、球体関節人形、マンガ、アクセサリーなど創作活動を続けてきたが、どれも長続きしなかったという。2009年12月に約30分の短編「JUNK HEAD 1」の自主制作を開始。映像制作の経験はなく、短編は一人でストップモーションアニメを作ろうとした。ストップモーションアニメは、人形を一つ一つ手で動かしながらコマ撮りする。とても手間が掛かるが、なぜストップモーションアニメだったのだろうか?

 「作っている途中に可能性を感じました。映画を作ったことがなく、映像も作ったことがなくて、自分が作るのであれば、ストップモーションが簡単そうだな?というのが始まりでした。実際にやってみたらすごく大変で。やってみると、映像の質が今の映画やアニメとは全く違うリアリティーがある。実物があり、それを手で動かしているから存在感がある。情報量は実写と同じレベルで、普通の2Dアニメよりも目に入ってくる情報量が多い。何百億もかけたCGの映画よりも映像に人の手を感じる存在感があります。お金をかければかけるほどCGもリアル、滑らかになってきますが、逆に面白みが無くなる。リアル系ストップモーションは新しいジャンルになり得ると感じました」

 映画は好きだったが、ストップモーションアニメには特に興味はなかった。

 「これまでのストップモーションアニメのようにはしたくなくて、実写のようなカメラワーク、動きにしたかった。コマ撮りの勉強をしたわけではなく、実写の映画をコマ送りして、それに近づけるための勉強をしていました。作り始めてからもコマ撮りの技術は知らなくて、実写に近づけるための技法を考えていました」

 「JUNK HEAD」の舞台は、環境破壊によって、地上が住めなくなった世界。人類は地下開発のための労働力として人工生命体マリガンを創造するが、自我に目覚めたマリガンが反乱を起こし、地下を乗っ取ってしまう。それから1600年、遺伝子操作によって永遠といえる命を得た人類に新種のウイルスが襲いかかり、絶滅の危機に瀕する。そこで、独自に進化していたマリガンの調査を開始することになる。

 不気味でグロテスクではあるが、ギャグがあったり、キャラクターが可愛らしく見えたりもする。独特の世界観も魅力だ。堀監督は「映画をひたすら見てきました」とさまざまな作品を独自に研究してきた。

 「オリジナルとは思っていなくて、SFが好きで、いろいろな作品のおいしいところをつまみました。(旧ソ連のSF映画)『不思議惑星キン・ザ・ザ』が一番好きです。シュールな笑いは、あの映画から影響を受けました。映画をたくさん見ていますが、ほぼビデオなんです。映画を作る人間としては怒られそうな話ですが。気になったところで止めて、何回も見るというやり方をしていた。その積み重ねがあって、初めての映画でもできたのかもしれません。映画を作ろうと思って、見ていたわけではないのですが。ずっと貧乏だったので、ビデオだったらたくさん見られますし」

 ◇それまでの生き方を変えたかった


 堀監督は「映画は予算をかければ面白くなるわけではない。面白さは違うところにある。実験しながら作っていました」という思いがあった。短編制作時の予算は「一人で仕事をしながら作っていて、材料費で100万円くらい」という。撮影に使用したカメラはキヤノンのEOS Kiss X4というモデルで、プロ用のものではない。「初心者が使うようなカメラです。購入した時は3、4万円くらいでした。これで映画を作ってしまうのも面白いかな?と」と制作に臨んだ。

 膨大な予算のメジャー映画に対するアンチテーゼなのだろうか? 堀監督の姿勢はDIY精神にあふれている。「JUNK HEAD」は低予算ではあるが、細部までこだわり抜いた。人形、セットなど造形物からCGでは感じられないような生々しさを感じるところもある。

 「コマ撮りは小さい人形を使うことも多いけど、それでは人形劇のようになる。6分の1スケールなので、小さいようで意外に大きいんです。通路のセットは、長くて10メートル、メインのセットは床が2~3メートル×4~5メートルくらいです。スタジオはそんなに広くないので、セットを作っては壊しての繰り返しでした」

 堀監督は「カメラもソフトも安く買える時代。誰でもチャンスがある」と話す。チャンスはあるかもしれないが、実行する人はほとんどいない。「JUNK HEAD」から堀監督の執念のようなものも感じる。

 「全く知識や経験がないところからスタートし、研究段階から始め、あがいてあがいた。人形の材料の調合など何か一つをするにしても調べました。大変ではあったのですが、楽しくもありました。最初の30分を作った4年間は、これが仕事でもないですし、生活のほとんどをかけていました。40歳を過ぎてこんなことをやっている孤独、不安感がありました。でも、それまでの生活、生き方を変えたかった。年齢的にも何かやるなら最後のチャンスだと思っていた。あきらめなきゃできると思う。たいしたことはできないんですよ。誰でもやればできることもアピールしていきたい」

 ◇次回作は自己資金で 制限のない世界で作ってみたい

 「JUNK HEAD」が公開されると、世界中から称賛の声が集まった。意外な反響もあった。

 「グロも下ネタもありますし、キワモノ、カルトムービーだと思っていたんです。女性に嫌われるだろうなと。それが女性にも興味を持っていただき、小さな子供からもファンレターをいただき、びっくりしています。子供のことは考えていなかったので」

 次回作も期待される中、堀監督はDIY精神を貫く。

 「いろいろ話はあるのですが、自己資金で作りたいと思っています。映画を作るとしたら億単位になりますし、試行錯誤しています。映画は、お金をかけすぎるのもよくない。回収するために無難な作品になってしまい、刺激的な作品はなかなか生まれない。制限のない世界で作ってみたいし、自分の路線でできればと思います。3部作で、続編は絵コンテまでできています。3作目のストーリーもある程度あります。2、3年でできるようにしていきたい。今回の長編で追加した70分に2年くらいかかりました。長編は、平均3人くらいで作ったので、人が増えれば、もっとクオリティーが上がるはずです。さらにスケールを大きいものにしたい」

 「JUNK HEAD」のブルーレイディスク(BD)&DVDの通常盤が12月14日に発売された。BD&DVDは、基本的に堀監督が運営する「YAMIKENオンラインストア」での販売となる。堀監督は同作のパンフレットを自主制作するなど、DIY精神を貫いてきた。BD&DVDの販路も「自分の路線」を貫く。「制限のない世界」で作られるだろう次回作にも期待が高まる。

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