ドラゴンボールDAIMA
第6話 イナヅマ
11月18日(月)放送分
2008年に誕生して以来、長らく愛され続けているヤマザキマリさんのマンガ「テルマエ・ロマエ」の新作アニメシリーズ「テルマエ・ロマエ ノヴァエ」が3月28日からNetflixで全世界独占配信される。人気声優の津田健次郎さんが主人公・ルシウスを演じることも話題になっている。ヤマザキさんは、津田さん演じるルシウスを見て、キャラクターの新たな一面を発見したといい、「声は、キャラクターにとって命なんだなと思いました。声によって、キャラクターの性格がこんなにも出てくるものなんだと実感した」としみじみ。エネルギッシュに突き進むヤマザキさんがパワーの秘密を語ると共に、「人生をガラッと変えた作品」という「テルマエ・ロマエ」への思いを明かした。
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「テルマエ・ロマエ」は、2010年に「マンガ大賞2010」と「第14回手塚治虫文化賞短編賞」をダブル受賞したヤマザキさんのコメディーマンガ。古代ローマ時代の浴場技師ルシウス・モデストゥスが、なぜか現代の日本の銭湯や温泉、浴槽にタイムスリップするようになり、風呂上がりのフルーツ牛乳やシャワー、あかすりタオル、シャンプーハットなどをローマ帝国での浴場作りに取り入れていく。
2012年にはフラッシュアニメとしてテレビアニメ化され、阿部寛さん主演の実写映画も話題になった同シリーズだが、Netflixで新たにアニメ化されることとなり、ヤマザキさんは「私にとって『テルマエ・ロマエ』は、昔の作品だからどうでもいいというものではなく、メンテナンスをし続けていきたいマンガです。たくさんレイヤーを付けていきたいと思っているので、今回アニメという形でその思いをかなえていただけて、とてもうれしいです」と感激しきり。
津田さんがルシウス役に抜てきされ、ヤマザキさんは「津田さんが声を吹き込んだルシウスは、フラッシュアニメのルシウスとも、実写映画のルシウスとも違う」と印象を吐露する。
「原作のイメージ通り気骨で実直なんだけれど、それでいながら、実写版やフラッシュアニメ版よりおちゃめ感が増しているような気がします(笑い)。ルシウスが取っている態度は(シリーズを通して)同じなのに、声によってこんなにも印象が変わるものなんだなと。声はキャラクターにとっての命であり、声によって、キャラクターの性格がこんなにも出てくるものなんだと実感しました」
新作アニメでルシウスの持つ可能性を改めて感じたヤマザキさんは「ジャズセッションと同じで、ある種のグルーブを感じますよね。非常に楽しいです」とにっこり。ヤマザキさんにとっても掘れば掘るほど面白いキャラクターとなっているようだ。
「ルシウスは一筋縄ではいかない人。人の顔色をうかがって生きている人ではないので、描いていてもとても面白いです。一つのことにこだわりすぎるので、社会の中では足並みを乱す者として嫌われたりしてしまうこともあるけれど、そういう人がいなかったら文化は発達していかないし、歴史は新しいページをめくれない。ルシウスのような人って、とても貴重だと思っています」
新作アニメでは、ヤマザキさんがシリーズ構成として参加し、新たに書き下ろしたオリジナルエピソードも追加される。シリーズ構成に携われたことは、「素晴らしい機会をいただいた」と特別な経験になったという。
「原作者は原作以上の動きを取れないことが多いものですが、今回は全体の構成を提案させていただいた上、脚本上の細かい言葉についても補足させていただいたり、話の並びやキャラクター演出の監修も携わりました。アニメ化や実写化する際、きちんと原作者も携わらせてもらって、意見も言えるということが、とても大事なことだと私は思っています」
ルシウスの特殊な人間性を表現する上でも、新作アニメは「とてもうまくできている」と感じているという。
「アニメーターの方たちの思いもリスペクトしながら、マニアックな人間でなければできないような表現を生かしてもらいたいと思っていました。ルシウスという人自体が、そういう人ですからね(笑い)」
海外では湯船につかる習慣がない国も多いが、アニメの全世界配信に向けて、ヤマザキさんが期待しているのはどんなことだろうか。
「火山があれば、世界のどこであろうと大抵温泉は湧いています。本作を通して、世界の人々が温泉文化に興味を持ってもらえたらうれしいです。温泉に入ると、地球という惑星に生きているんだと感じられる。それに、お湯につかることって、人間にとてつもない安心感を与えるものですよね。お湯につかって、凶暴性が芽生えたり、嫌な気持ちがする人ってまずいないと思うんです。温泉って、地球に守られている安心感を得られる場所だし、お湯に入ることで、私たちは安心感や勇気、平和な気持ちを得られる気がしています」
さらに「実際、ローマ人は属州を増やすと、ローマ式の浴場を建設することで相手国の人々に喜ばれながらローマ文化を受け入れてもらっていた。ローマ帝国でも大事な話はざわざわ浴場ですることもありました。お湯というのは優れた外交手段にもなるのです。お湯が今後も世界平和の懸け橋となればいいんですけどね」と願っていた。
連載スタートから14年がたった今でも新作アニメが作られるなど、「テルマエ・ロマエ」は幅広い層から愛される作品となった。ヤマザキさんは「こんなに愛される作品になるなんて、全く思っていませんでした。当初メジャーなマンガ誌に持ち込んだところ、『こんなニッチなマンガは誰も読まない』と言われましたから」と告白する。
「もともと私はイタリアの美術大学で油絵と美術史を専攻していましたから、マンガ家になるつもりは全くありませんでした。でも子供を育てなければいけないと思って、油絵よりはお金になるマンガを描き始めたわけです。ただやはりマンガだけでは食べていけないので、何足ものわらじを履くような生活をしていました。『テルマエ・ロマエ』のアイデアを思いついたのは、ポルトガルで生活していた時です。ある日、子供の洋服にアイロンがけをしながら『日本のお風呂が懐かしいな』と昭和の銭湯を思い出していたんです。そこでパッと何かの化学反応が起きて頭の中に思い浮かんだのが、“昭和の銭湯にローマ人が出てくる”という絵面(笑い)。勢い任せで『テルマエ・ロマエ』を描くようになってから、気がついたらマンガを描くことがメインの仕事になっていました。単純な発想が、人生をガラッと変えてしまうことがあるものなんですよね」
「テルマエ・ロマエ」というタイトルはイタリア人の夫と一緒に考えたというが、「夫は『いまだにみんなそのマンガを支持しているの?』と言っていますね」と反響の大きさに驚いているという。
ヤマザキさんは17歳で単身イタリアへ留学、その後、出産やシングルマザーとしての子育て、比較文学の学者との結婚によって海外を転々と渡り歩くなど波瀾(はらん)万丈の人生を送ってきた。「人生、何が起きるかわからない」ということを痛感しているそうで、「将来はこんなことをやってみたいという理想なんてないです。なぜなら、こちらが望まなくても絶対に何かが起きるから」と大きな笑顔を見せる。
「『結果を出さなければいけない、こうならなければいけない』という理想に縛られずに生活してきたのが、私の強みかもしれません。留学も結婚もマンガも全て私が欲したというよりも、自然の成り行き。私の人生は思いがけないことの連続なんです」
サバサバと語る姿がなんとも魅力的だが、パワフルに突き進むヤマザキさんの生き方は、母親の影響も大きいという。
「私が悩み事を話すと、母はいつも『たいしたことじゃない』『どうにかなる』『バカバカしい』という三つの言葉で全てに対応するんです。例えば大事なものを無くして落ち込んでいると、『どうせ死ぬときは何も持っていけやしないんだから、諦めなさい』と(笑い)。その影響なのか、私も何があっても『たいしたことじゃないな』と思う癖がついています。何かが降りかかってきても、大抵は乗り越えられるものだなと思っています」
一方、マンガ家として影響を受けたのは、「つげ義春さん」と明かし、「つげ義春さんのマンガのベタ塗りを見た時に、『これは絵画だ』と感じました。絵画の中に詩があり、一つの映像作品のようになっている。『こういうマンガを描いてもいいんだ』と、マンガというものの視野を開くきっかけとなりました」と話していた。(成田おり枝/フリーライター)
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