アークナイツ:アニメで状況を追体験してもらう 渡邉祐記監督の挑戦、こだわり

「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」のビジュアル(C)Hypergryph/Studio Montagne
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「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」のビジュアル(C)Hypergryph/Studio Montagne

 人気ゲーム「アークナイツ -明日方舟-」が原作のテレビアニメ「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」(テレビ東京、テレビ大阪ほか)。渡邉祐記さんが監督を務め、Yostar Picturesが制作し、映画のような視聴体験ができる“シネマティックアニメーション”による美しい映像も話題になっている。渡邉監督に制作の裏側を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇空気の質感が分かるように キャラが風景に溶け込む画面

 --テレビアニメ化にあたって挑戦となったことは?

 一クール作品での監督経験は初めてで、30分枠の作品でコンテを描いたこともなかったため、自分にとっては作業の全てが挑戦ということになるかもしれません。特別意識したこととしては、既に原作をプレーされている方とアニメから「アークナイツ」を初めて知る方、双方に同じくらい楽しんでいただける作品にする、という点です。メディアミックス作品はいかに原作の魅力を広く伝えるかが至上命題と考えているので、既存プレーヤーの方には原作の雰囲気を可能な限り再現した映像を見ていただきつつ、ゲームをプレーしていない方にも映像を通して疑似的にドクターやアーミヤたちの状況を追体験してもらう作りを意識しています。映像の流れ(テンポ)を止めてしまいがちな“心の声”であったり、以前の出来事を視聴者に思い出してもらうための説明的な回想はなるべく排除し、キャラクターたちの視点に自然と立って、物語を追っていけるような映像を目指しました。

 --演出で特にこだわったところ、意識したことは?

 前述のように、ドクターたちが置かれている状況を追体験してもらうため、実際に現場にいたらどんな景色を見ることになるのかという点を意識しました。美術、色彩、撮影の各工程の方々と画面の最終的なルックを相談するうえで、原作イラストの持つほこりっぽさ、冬の冷たさ、天災が迫る大気の状態など、見ただけでそこにある空気の質感が分かるようにしたいと話していました。視聴者の方々にも登場人物たちと同じ景色を見て、同じ空気を吸い、同じ危機感を肌で感じてもらうことでより深く作品に没入してもらうという狙いです。一般的なアニメ作品では、キャラを引き立たせるために周囲の環境を整える表現が多いですが、この作品ではおそらくほかでは許されないくらいキャラが風景に溶け込む画面になっていると思います。原作シナリオでも人間一人一人の非力さや無力さについてたびたび言及されていますが、その価値観に沿う形で主人公もモブのレユニオン兵も例外なく、一人一人があくまでテラという世界の中に立っているだけの存在であることを意識しました。各工程の方々の素晴らしい作業のおかげで、ドクターたちがどんな場所で活動しているのかがとても明確になったと思います。

 ◇緊迫感や悲壮感を 収録のこだわり

 --キャストへの演出でこだわったところ、意識したことは?

 キャストの皆さんが本当に素晴らしい演技をされており、自分はただただ感動するばかりで、こだわったところというと難しいのですが、一つ挙げるとすれば生っぽい質感だと思います。2話でMedicが霧の中で悲鳴を上げているところが分かりやすいかなと思いますが、本当に犬の牙が腕の肉に食い込んでいる人の悲鳴を、とお願いしていました。視聴者に“このキャラクターは痛がっている”という情報を伝える目的であれば、せりふとしての悲鳴………つまり「やめて!!」と台本に書いてあるテキストの読みをそのままはっきり「やめて!!」と発音することでも、心情の表現として十分成立しうると思うのですが、それだけでは「アークナイツ」という作品の持つ緊迫感や悲壮感を表すのに不十分だと感じていました。そこで、「やめて!!」の「や」の音の出だしが少し弱かったり、「め」と「て」の中間に「へ」の音が混在していたりと、それぞれの音節が成立せず崩れた発音を想定し、キャラクターのシチュエーションに合わせた実感のある印象を重視してディレクションしていました。この作品だからこそ可能な方向性ですし、キャストの皆さんの優れた技術があって初めて成立する表現だと思います。

 --監督のお気に入りのキャラクターは?

 作品全体をフラットな視点で見ているので難しいですが、強いて言うならメフィストでしょうか。感情の発露が特徴的なキャラクターは、その振れ幅をどれだけ広く確保できるかが重要なので、急激な感情の変遷は演出する上でとても難しく、面白いです。また、演じられた天崎滉平さんの表現がとても素晴らしく、メフィストのとっぴな人物描写に深い奥行きを与えていただきました。

 ◇後半は関係性がより複雑に 効果音、BGMも変化

 --物語後半で注目してほしいポイントは?

 少しずつ登場人物も増えてここから関係性がより複雑になってゆき、キャストの皆さんの素晴らしい演技をたくさん見ることができると思います。舞台も変わり、スラム街などそれぞれの場所の映り方や効果音、BGMもシチュエーションに合わせて少しずつ変化していくので、注目して見てください。また、1話から展開の種を少しずつまき続けていて、キャラの描き方やセリフの一つ一つが最終回に向けて収束していきます。序盤話数の時点では、原作を知る人と知らない人で作品の見え方が大きく異なっていたと思いますが、そのギャップがおそらく最終回を迎える頃には埋まり、原作をプレーしている人もアニメだけを見ている人も大体同じような顔のまま見終えることになるのではないかと思います。ぜひ最後までご覧ください。

 --監督にとってテレビアニメ「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」はどんな存在になっている?

 自分が持っている引き出しの中の暗い部分を全力でぶつけさせてくれる作品です。その分、気を抜いたらすぐに握りつぶされてしまうような大きな存在だと思います。

 --最後にファンにメッセージをお願いします。

 いつも「アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】」をご視聴いただきありがとうございます。テラの大地はとても非情で、ドクターやアーミヤが対峙(たいじ)する現実は厳しいものばかりですが、皆さんに最後まで見届けていただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

注:天崎さんの「崎」は立つ崎(たつさき)

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