山田くんとLv999の恋をする:なぜテンポがいいのか? あえてセオリーを外した“実験” 浅香守生監督に聞く

「山田くんとLv999の恋をする」の一場面(C)ましろ/COMICSMART INC./山田くんとLv999の製作委員会
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「山田くんとLv999の恋をする」の一場面(C)ましろ/COMICSMART INC./山田くんとLv999の製作委員会

 マンガアプリ「GANMA!(ガンマ!)」で連載中のましろさんのラブコメディーマンガが原作のテレビアニメ「山田くんとLv999の恋をする」。予期せぬ失恋に落ち込む女子大生・木之下茜とゲーマー男子高校生・山田秋斗の恋を描いた作品で、「カードキャプターさくら」「NANA」「ちはやふる」などで知られる浅香守生さんが監督を務め、マッドハウスが制作する。同作は、テンポのよさが魅力の一つになっている。個性的なキャラクターによる会話などがアニメになることで、より魅力的に見える。浅香監督は、アニメ化にあたり、“ある実験”を試みたという。制作の裏側を聞いた。

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 ◇山田を格好よく描こうとすると失敗する!?

 「山田くんとLv999の恋をする」は、「第6回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」で大賞に選ばれ、コミックスの累計発行部数が200万部を突破した話題作。浅香監督は、原作を読み「テンポのよさ」と「キャラクター」に着目したという。

 「テンポがよく、キャラクターが際立ってるところが、とても面白い作品です。特に山田が印象的でした。序盤は、登場人物は多いわけではないのですが、世界観が広がっていて、不思議な感じがしました。世界が広がっているけど、キャラクターの視界が広いわけではありません。そのギャップも面白く感じたところの一つです。アニメ化するために、原作から情報を得ようとするのですが、情報がそんなに多くないことに気付き、それでも世界が広がっているところが、すごいと感じました」


 浅香監督が特に印象的だったという山田は、進学校に通う男子高校生兼プロゲーマー。その腕前から、ゲーマー界隈ではそれなりに有名で、外見は超イケメンだが、他人、特に女性とのコミュニケーションが苦手だ。内山昂輝さんが演じている。

 「省エネで、最小限の言葉で全て済んでしまう。山田としては、好意を寄せてもらおうと思って行動していないけど、それでもすごく気になってしまう。その辺がよくできたキャラクターで、難しいキャラクターでもあります。表情がキツく見えるかもしれませんが、怒ってるわけじゃない。他人に対して嫌な感情で接しているわけでもない。そういう性格なんです。声の芝居も怒っているわけではなく、ぶっきらぼう、無表情にやってもらっています。ぶっきらぼうだけど、それだけではないですし、それを最小限の言葉で表現するのは、すごく難しい。内山さんならではですね」

 山田はイケメンでハイスペック、クールだが、イヤミなキャラクターには見えない。その辺りのバランスが絶妙だ。

 「(キャラクターデザインの)濱田邦彦は柔らかい画(え)を描くので、向いていると思います。どうしてもみんな山田を格好よく描こうとするのですが、格好よく描こうとすると失敗します。実際に格好いいので、難しいのですが。実は、目が見えているカットが少ないんです。髪で目を隠したりしています。目を見せると、内面が見えすぎてしまうので、内面をあまり見せない芝居、演出をしようとしています」

 一方、茜はポジティブでコミュニケーション能力が高い。よくしゃべる茜とクールな山田は対照的にも見える。茜役の水瀬いのりさんの熱演も光る。

 「茜は、描き方によっては、視聴者に嫌われるかもしれないキャラクターだと感じました。視聴者が自分を投影して見るキャラクターなので、何かを間違えれば、自分との相違点に引っかかってしまうかもしれません。茜は、前向きなところが魅力です。なので、カメラや表情を変えるタイミングに気をつけようとしました。コミカルなキャラクターではありますが、狙っているのではなくて、自然な行動の延長でコミカルに見えるようにしています。本人は真剣です。声の芝居も『笑わせようとしないでほしい』とお願いしていました。コミカルな画で、声の演技でも笑わせようとすると、見ている人は笑えなくなってしまうので」

 ◇実は外観をほぼ見せていない!

 山田や茜は現実世界だけでなく、ネットゲーム「Forest Of Savior」の世界でも交流する。アニメは、現実世界、ゲームの世界の色彩の美しさも目を引く。

 「原作から感じた印象で、色を決めています。ゲーム内は少しはっきりした感じで、現実は少しフワフワしたきれいな世界にして、世界の差を表現しようとしました。主線の色も変えています。現実は青っぽく、ゲームは赤っぽい。ゲームと現実で、世界が変わったところを見せようとしました。一方、チャットのやり取りを現実の空間に見せるなど、ゲームの中の表現を現実に落とし込み、シームレスにつなげようとしました」

 テンポのよさも魅力だ。浅香監督はテンポ感にこだわった。

 「山田が住んでいるアパート、茜が住んでいるマンションなどの外観の設定は一応ありますが、ほぼ見せていません。コンビニ、大学の外観も出てきません。セオリーとして、建物などの全景を見せて、位置関係を説明してから、芝居を進めることが多いのですが、場所を説明するための尺を使っていません。無駄がなくなり、キャラクターの芝居を見せる時間が長くなります。次のシーンのキャラクターが重なって、すぐに芝居に入ることもあります。間を取りたいところ以外は見せていません」

 意識せずに見ていると気付かないかもしれないが、確かに場所の説明がほとんどない。しかし、キャラクターがどこにいるのか分かる。何とも不思議だ。

 「原作でキャラクターが住んでいる場所などの説明がほぼありませんし、この作品に合うんじゃないか、と実験しました。ほかの作品でもやったことはありましたが、ここまで徹底してやったのは初めてです」

 あえてセオリーを外しても、違和感なく成立しているのは、浅香監督をはじめスタッフの手腕によるところも大きいはず。もちろん、意識しなくても楽しめるが、“実験”に注目しても面白い。「山田くんとLv999の恋をする」は奥の深いアニメだ。

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