衛星・HAPS等に搭載可能な小型光通信端末による2 Tbit/s空間光通信に、世界で初めて成功

図1 NICTの7.4 km、2 Tbit/s水平空間光通信実験(2025年4月)
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図1 NICTの7.4 km、2 Tbit/s水平空間光通信実験(2025年4月)

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2025年12月16日

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)

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ポイント

■ 衛星・HAPS等に搭載可能な小型光通信端末を用いて、世界初の2 Tbit/s空間光通信を達成

■ 7.4 km離れた2種類の小型端末間で、大気ゆらぎのある都市部にて光通信を安定して維持

■ Beyond 5G/6G対応の非地上系ネットワーク構築の実用化に大きく前進

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)は、衛星・HAPS等に搭載可能な小型光通信端末を用いて2 Tbit/sの空間光通信(FSO)の実証実験に世界で初めて成功しました。

 この実験は、NICTが開発した持ち運び可能な2種類の小型光通信端末を用い、高機能型のFX(Full Transceiver) をNICT本部(東京都小金井市)に、簡易型のST(Simple Transponder)を7.4 km離れた実験地点(東京都調布市)に設置し、その間で水平空間光通信を行ったものです。光のビームの乱れを生じさせる都市部特有の大気ゆらぎのある困難な条件下にも関わらず、5チャネル(各400 Gbit/s)の波長分割多重(WDM)伝送による計2 Tbit/sの通信を安定して維持し、衛星やHAPSに搭載可能なほど小型化された端末でのテラビット超え通信を世界で初めて実現したものとなります。

 今後、端末をさらに小型化して6Uキューブサット衛星に実装する予定で、2026年には低軌道衛星(高度約600 km)と地上の間及び2027年には衛星とHAPSの間の空間光通信実証実験(10 Gbit/s)を行う計画です。これらの実験を通じてコンパクトで超高速なデータ通信能力を実証し、Beyond 5G/6Gの非地上系ネットワーク(NTN)実現への道を切り拓きます。

背景

 空間光通信は、光ファイバを用いず空間中をレーザー光で伝送する次世代通信で、地上・上空・宇宙間の大容量通信を支える基盤技術として注目されています。これまでの空間光通信の実証は、欧州を中心にテラビット超えの通信の実証が進められてきましたが、いずれも大型の据置型装置を用いた実験室レベルの構成であり、衛星やHAPSなどの移動体へ搭載するには、サイズや重量の制約を満たすことや、動揺する環境下でも安定した通信を継続しなければならないという課題がありました。また、アジアでは、テラビット超えの空間光通信実証は報告されておらず、最大でも100 Gbit/s程度に留まっていました。

今回の成果

 NICTは、東京都小金井市の本部と7.4 km離れた実験地点に、それぞれ異なるタイプの小型光通信端末(ST型・FX型)を設置し、都市部・日中という厳しい環境下での水平空間光通信実験を実施し、波長分割多重(WDM)による5チャネル×400 Gbit/s構成により、合計2 Tbit/sの安定した通信を達成しました(図1参照)。これは、衛星・HAPSに搭載可能なほど小型化された端末でのテラビット超え通信を世界で初めて実現したもので、実験室ではなく、現実の大気ゆらぎのある環境下での通信実証は実用性の高さを示しています。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202512100762-O1-9j1sbh3i

図1 NICTの7.4 km、2 Tbit/s水平空間光通信実験(2025年4月)。ST端末を送信側、FX端末を受信側として使用。また実験では回線品質を評価するための疑似ランダム信号(PRBS)を伝送。2 Tbit/sの伝送速度は毎秒約10本のフルサイズ4K UHD映画を送るのに相当。

 これらの端末は、キューブサットを含む超小型衛星への搭載を前提に設計され、サイズ・重量の制約をクリアしており、従来の大型の据置型装置を用いた実験室レベルの構成とは一線を画すものです。小型化を実現するために、端末をキューブサットの厳しいサイズ・質量・消費電力(SWaP: Size, Weight and Power)の制約内に収める設計方針を徹底し、①新規設計部品の開発(例: 宇宙環境下での光学品質要件を満たす口径9 cm級望遠鏡)、②商用部品の再設計・改修(例: 真空中の高出力光に耐えるよう改良した小型精密追尾用ステアリングミラー)、③既存部品の積極活用(例: データセンター向け高速光トランシーバを転用しモデムに組み込む)という3つのアプローチを実施することにより、必要な機能を維持しつつ、プラットフォームへの負担を最小限に抑え、装置全体のサイズ、質量、消費電力を大幅に抑えることができました。

 また、移動体での運用を想定した動的環境へ対応するため、粗捕捉と精追尾による高精度アラインメントを実装するとともに、レーザー光の広がり角度(ビームダイバージェンス)をリンクの状況に応じて動的に調整できる、NICT独自のビームダイバージェンス制御技術を実装しました。こうした移動体環境での安定通信を可能にする設計は、従来の固定局型実験装置の設計とは異なる本端末の特長です。

 さらに、今回開発した端末は、様々なプラットフォームや運用シナリオに柔軟に対応できるように、ST端末とFX端末の選択による柔軟な構成選択や通信要件に応じた10 Gbit/s型または100 Gbit/s型のモデムの選択、さらに内部の調整機能によるリンク状況に応じた適応動作が可能です。こうした移動体環境での安定通信を可能にする本設計は、従来の固定局型実験装置の設計とは本質的に異なります。

 今回の成果は、光学系の小型化・高精度で柔軟なビーム制御など、移動体搭載のための技術的課題に対して、通信環境に応じた伝送速度可変機能やビーム幅可変機能などを新たに開発し、克服したことによるものです。この成功は、Beyond 5G/6G対応の非地上系ネットワーク構築に向けた実用化の観点での大きな前進になります。

今後の展望

 次の段階として、2026年には衛星やHAPSによる現実的なリンクを模擬するため、小型光通信端末(ST端末、FX端末)を移動体に搭載した新たな実験の準備を進めています。この実験では、通信を行う両端末が移動する状態での粗捕捉追尾及び精追尾システムの性能を検証し、非地上系6Gネットワークのためのダイナミックな条件でのマルチテラビット光バックボーンの実現性を実証する計画です。同時に、NICTは2026年打ち上げ予定のキューブサット衛星ミッションにも取り組んでおり、ジンバルなしのFX端末(CubeSOTA)と10 Gbit/sモデムを組み合わせて衛星搭載して実験検証を目指します。キューブサット衛星のフォームファクター(サイズや形状などの規格)ではまだ2 Tbit/sモデムの電力と体積を収容できませんが、NICTは将来の軌道上実証に向けてマルチテラビットモデムの小型化・耐環境性向上を進めており、今後10年以内に衛星、HAPS、地上局間でテラビット超えの光通信リンクの実現を目指して研究開発を進めています。

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