機動警察パトレイバー:アニメとマンガはなぜ違う? ゆうきまさみが語る誕生秘話

アニメ「機動警察パトレイバー EZY」のFile2の一場面(C)HEADGEAR/機動警察パトレイバー EZY製作委員会
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アニメ「機動警察パトレイバー EZY」のFile2の一場面(C)HEADGEAR/機動警察パトレイバー EZY製作委員会

 アニメなどが人気の「機動警察パトレイバー」の新作アニメ「機動警察パトレイバー EZY(イズィー)」。アニメの新作は、2016年に発表された短編「機動警察パトレイバーREBOOT」以来、約10年ぶり。新作の公開に合わせて、ゆうきまさみさんのマンガ版「パトレイバー」の約32年ぶりの新作が発表されたことも話題になった。「パトレイバー」は、同時期に異なる媒体で展開するメディアミックスの先駆けであり、キャラクターや基本設定を共有しながらも、メディアごとに異なる世界線(パラレルワールド)を描くことで、それぞれに独自の魅力を築き上げてきた。「パトレイバー」の生みの親の一人でマンガを描いてきたゆうきさんに、誕生の裏側やマンガ版について聞いた。

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 ◇マンガは「ほとんど勝手にやっていた」

 「パトレイバー」は、汎用人間型作業機械・レイバーが実用化された世界を舞台に、レイバー犯罪に立ち向かう警視庁の特殊車両二課(特車二課)の隊員の日常を描くメディアミックスプロジェクト。ゆうきさん、出渕 裕さん、伊藤和典さん、高田明美さん、押井 守さんの5人のクリエーターにより結成されたユニット「HEADGEAR(ヘッドギア)」から生み出された同プロジェクトは、1988年に「アーリーデイズ」と呼ばれるOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)から始まり、マンガ、テレビアニメ、劇場版アニメ、小説、オーディオドラマ、ゲームなどが展開されてきた。新作「EZY」は、出渕さんが監督を務め、伊藤さんがシリーズ構成、脚本を担当するなど豪華スタッフが再集結した。

 マンガ版「パトレイバー」は、「アーリーデイズ」とほぼ同時期、1988年に「週刊少年サンデー」(小学館)で連載を開始した。1994年まで約6年にわたって連載された。

 「あの頃は『アーリーデイズ』とは言っていませんでしたけどね。最初のOVAの時は、僕がキャラクターの原案を描いて、高田さんがクリンナップして、特車二課棟やバビロンプロジェクトとかの美術設定もやったんです。最初のOVAは、お金がないから、全部自分たちでやっていたんです。ストーリーは、伊藤(和典)さんにお任せでした。マンガは、OVAの宣伝のために『ちょっとの間、連載させてもらえないか』と当時のサンデーの編集長に言ったら『面白いんじゃないですか』と始まって、結果的に6年の連載になっていきました。最初は、そんなに長くやるつもりはなかったんですけどね。OVAの宣伝になればいいと始めたので」

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 マンガとアニメは、基本的な設定やキャラクターは共有されているが、それぞれが細部の設定やストーリー展開の異なるパラレルワールドとして設定されている。

 「予算の都合で『OVAはレイバーが動かない』という話になって、マンガではレイバーを動かして、両方見た人が総合的にレイバーが動いていたように見えたら……とも考えていました。読者をあまり混乱させても困るので、コミックスの1巻分は、OVAの第1話と似た話にして、その後はもう、僕が勝手にブロッケンを描いたり、ほとんど勝手にやっていました。勝手とは言っても『なんか言われたら嫌だな』と思っていたので、緊張感はありました。別にズレてもいいんですけど、『それはちょっと違うんじゃない?』と言われたらどうしようかなと」

 軸がブレるわけではないが、アニメはアニメ、マンガはマンガ……と自由な発想で制作していたようだ。

 「フィードバックはマンガの方がもらっていた感じはします。マンガで、シゲさん(斯波繁夫)を出してみたら、便利なキャラクターだったので、なるほど!と思ったり。劇場版があって、テレビシリーズの話も出てきて、テレビシリーズは決まってから始まるまでの期間があまりなかったので、最初のアイデア出しはやりました。『野明が特車二課に入ってくるところから始まってもいいじゃん』と言ったのは僕です。最初は『アーリーデイズ』の続編としてやろうとしたのですが、テレビから見始めた人に不親切ですしね。アイデア出しはしたけど、あとは伊藤さんにお任せです。『困ったら、マンガからエッセンスを持っていってよ』というつもりで途中から描いていました。僕が描くものと、伊藤さん、押井さんとではそれぞれキャラクターが若干違うので、読者や視聴者を混乱させないようにしたいとは少し考えていました。いや、考えていなかったな(笑)。それぞれに面白さを感じてくれればいいと思っていました。“キャラクターアニメ”なんだとは思うんですよ。警察だからみんな同じものを着て、髪の毛も奇妙な色は使えない。でも、一人一人のキャラクターが粒だっている。普通の人たちなんです。性格俳優のようでもあります」

 ◇ロボットが踏切待ちをしていたら面白い

 伊藤さんは「『パトレイバー』を『パトレイバー』たらしめる」ための三つの要素として「日常性」「ユーモア」「倫理」を挙げたことがあった。

 「僕もそれは意識していました。“日常”を持ち込んだのは僕ですよ。この話をすると長くなるので『ニュータイプ』の連載も読んでいただきたいのですが、最初はありがちなロボットアニメだったんです。出渕くんがサンライズに企画を持っていったときもそうでした。同じ頃、僕がノートに落書きをしていて『ロボットが踏切待ちをしていたら面白い』と思い付いて、これはもう日本の警察にしてしまおうとなった。85、6年だったと思います」

 1985、86年は、ゆうきさんが「究極超人あ~る」を連載していた頃だ。「究極超人あ~る」は、春風高校光画部の青春や日常を描いた名作だが、「パトレイバー」の日常性と関係しているのだろうか……。

 「『あ~る』も特殊な世界ですからね(笑)。それよりも『みんなが見ている風景の中に、ガンダムのようなロボットがポツンと立ってたら面白いじゃないですか』というアイデアから固まっていったんです。レイバーの大きさは7、8メートルが限度かなと考え、人間がどう乗るのかという絵をいっぱい描きました。バイクみたいにまたがるとかいろいろなアイデアを全部、出渕くんに見せて、そこがスタートになっていて、レイバーのデザインになっていきました」

 ◇新作マンガ誕生の裏側

 新作「EZY」には、イングラム1号機操縦担当の久我十和(くが・とわ)ら特車二課の新たな隊員たちが登場する。新キャラクターは、“今のゆうきさんの絵”でありながら、“パトレイバーらしさ”がある。そのバランスが絶妙だ。

 「これしか描けないんですよ(笑)。昔の絵は描けない。『パトレイバー』のマンガにしても時期によって顔が変わっていますしね。『パトレイバー』のキャラクターは極端な特徴をつけない。先ほども普通の人の日常という話をしましたが、埋もれてしまうようなキャラクターなんです。まあ、僕に頼んでいるから特殊な絵を求めているわけではないでしょうし。若い頃から『絵に華がない』と言われていましたから。『パトレイバー』の途中くらいからか『最近、華が出てきた』と言われて、少し評価が上がってきたけど」

 長年愛され続けるシリーズだけに、ファンをニヤリとさせる仕掛けが随所にちりばめられている。その最たるものが、ゆうきさんが過去に生み出してきた歴代キャラクターたちの“出演”だ。メインキャラクター以外の脇を固めるさまざまなキャラクターに、ゆうきさんが過去に描いてきたキャラクターのビジュアルを使用する“キャスティングオーディション”方式を採用した。

 「『ゆうきまさみのキャラクターでいきたい』という出渕くんの方針があったけど、すごい量になるから僕は描けない。出渕くんが考えた方法なんです。40年もマンガを描いてきたから、いろいろな顔を描いていた。指定はなくてお任せしました。実際に見てみると違和感がなかった。果たして、私のキャラクターが何人いるでしょうか?とクイズをやろうかって思ったんですけど、僕も正解を知らない(笑)。数えきれません」

 新作読み切りマンガ「機動警察パトレイバー2026」が5月18日発売のマンガ誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)25号に掲載されたことも話題になった。1994年の連載終了以来、約32年ぶりの新作ということもあり、同号は売り切れ店が続出し、入手困難となった。特車二課第二小隊隊長だった後藤喜一など懐かしのキャラクターが登場し、「EZY」とのつながりも見える。

 「内容についてオーダーは全然なくて、今さら何を描けばいいんだろう?と悩みました。いつもお世話になっているライターさんや出渕さんと話す中で『短いページ数で、キャラクターを集めるんだったら、お葬式がいいですよ』となった。2026年を舞台とすることは僕が考えました。『パトレイバー』はいろいろな世界があるけど2026年にこんなことがあった……と一本にまとめました」

 ◇描き続けられる理由

 1980年にデビューしたゆうきさんは「パトレイバー」以外にも「鉄腕バーディー」「究極超人あ~る」「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」など数々のヒット作を世に送り出してきた。その中でも「パトレイバー」は特別な存在になっているという。

 「40年、マンガ家でいさせてくれた作品です。いまだにファンがついてくれて、それで食っているようなもんです。マンガ家個人としては『あ~る』が孝行息子ですが、広がりができて、マンガ家の寿命が延びたのは『パトレイバー』があったからです。ありがたい作品です」


 「パトレイバー」の連載を終えた1994年には「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」の連載を開始した。以降も数々の作品を連載し、現在は「スピリッツ」で「新九郎、奔る!」を連載中だ。ゆうきさんは40年以上にわたって第一線を走り続けている。

 「仕事をしないと食えないから(笑)。連載が終わって、次を始めるまで『何が描きたいんですか?』と聞かれたら、『いや別に描きたいものないしな』と言っていますし。『パトレイバー』が終わった後も、描きたいものがないからどうしようか……と思っていたら、『北海道の牧場でアルバイトしたことがある』という話になって、競馬を見ることも多いから始めてみたんです。毎回、そんな感じなんですよ。描きたいよりも読みたい。映画やテレビを見ていて『もっとこうすればいいのに!』と思うことがあるじゃないですか。まあ、そんなことを言ってもしょうがない。じゃあ自分がやりたいように描くしかない。それでずっと描き続けられています。読者が何を求めているかなんて分からないんです。当たるかも分からない。そんな中で、面白い仕事をしようと思ったら、自分が読みたいものを描くしかない」

 「僕はそもそもものすごい飽きっぽいんです」と続ける。

 「19歳の頃に『宇宙戦艦ヤマト』のパロディーマンガを描いたけど、それが初めてペン入れして完成したマンガなんです。それまでは、ネームを10ページも描くと、飽きていた。壮大な物語を思いつくけども、描き始めるとすぐに飽きる。だから、マンガ家になれるような人間じゃなかった。『あ~る』にしても週刊連載をやれと言われたんで、苦し紛れに始めましたし。テーマやモチーフがバラバラなのは、飽きっぽいからなんです。連載中に飽きますから(笑)。飽きてからが勝負かな。キャラクターの運命に対して誠実に付き合わなければと描き続けています」

 キャラクターの運命に対して誠実であること。ゆうきさんが40年以上のキャリアの中で守り抜いてきたマンガ家としての矜持だ。面白いと信じるものを形にするために、ゆうきさんは今後も描き続ける。その純粋な衝動がある限り、ペンが止まることはないのだろう。「EZY」は、File 2が8月14日から公開中で、File 3が2027年3月5日に劇場公開される。(阿仁間満/MANTANWEB)

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