機動警察パトレイバー:「好きに作るとパトレイバーになる」 ヒロイックではない音楽 川井憲次インタビュー

アニメ「機動警察パトレイバー EZY」のFile2のビジュアル(C)HEADGEAR/機動警察パトレイバー EZY製作委員会
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アニメ「機動警察パトレイバー EZY」のFile2のビジュアル(C)HEADGEAR/機動警察パトレイバー EZY製作委員会

 アニメなどが人気の「機動警察パトレイバー」の新作アニメ「機動警察パトレイバー EZY(イズィー)」。アニメの新作は、2016年に発表された短編「機動警察パトレイバーREBOOT」以来、約10年ぶり。「パトレイバー」は、ゆうきまさみさん、出渕裕さん、伊藤和典さん、高田明美さん、押井守さんによる伝説のクリエーター集団「HEADGEAR(ヘッドギア)」によって生み出されたメディアミックスプロジェクトだが、欠かせないクリエーターがもう一人いる。それは音楽担当の川井憲次さんだ。川井さんはアニメ、実写版など「パトレイバー」の映像作品の全てに参加してきた。川井さんに「パトレイバー」の音楽について聞いた。

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 ◇日常の枠からはみ出ないような音楽を

 「パトレイバー」は1988年に「アーリーデイズ」と呼ばれるOVAから始まり、ゆうきさんによるマンガ、テレビアニメ、劇場版アニメ、小説、オーディオドラマ、ゲームなどが展開されてきた。川井さんは「アーリーデイズ」から音楽を担当してきた。「パトレイバーの音楽と言えば川井憲次」。ファンにとっては川井さんはなくてはならない存在だ。数々の名曲で「パトレイバー」の世界を彩ってきた。約10年ぶりの新作ということで、川井さんの音楽にも期待が高まっていた。

 「正直なところ『誰が主人公になるんだろう?』と思いました。何年か前に『EZY』のパイロットフィルムの音楽を担当したのですが、当時はどういう作品になるのか分かっていなかったんです。そこから何年か空いて今回のシリーズになったわけですが、『音楽はお任せします』と始まりました。音響監督の若林(和弘)君から音楽メニューをいただいて制作を進めました。今作はフィルムスコアリングだったので、映像を見れば若林君が書いた意図がよく理解できます。そうやって作っていきました」

 「パトレイバー」の音楽を長年手がけてきた川井さんへの絶大な信頼があったから「お任せ」となったのだろう。

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 「劇パト1、2のときは押井さんから楽器の指定がありました。劇パト1のときは、以前『トワイライトQ』で僕がシンセサイザーで作った音があり、押井さんに『これをできないか?』と言われ、スタジオにあったスティールパンを使ったこともありました。劇パト2では『ゴッゴッゴッという音がほしい』と言われ、コントラバスを使いました。ブッちゃん(出渕さん)からそういう指定はなかったのですが、『File 1』の第3話『ホンモノが一番』の劇中劇の殺陣のシーンで和風の音を使ってほしいというくらいでした。長年やっていますし、『放っておけば『パトレイバー』になるだろう』という感じだったのではないかと思います(笑)」

 特車二課の何げない日常シーンに合わせた音楽もあれば、サスペンス調、重厚な音楽もある。「パトレイバー」のエピソードが多様なように、川井さんの音楽も多様だ。ただ、「これぞ川井憲次」と感じる個性がはっきりとある。

 「僕が好きに作ると『パトレイバー』になるんだと思います。一つ言えるのは、彼らは警察であり『正義の味方』ということです。ですから正義の味方らしく、かつ『あまり歌い上げすぎない』こと。ひたすら職務を全うしているようなイメージを持っています。戦闘シーンでもあまりメロディックにせず、淡々としています。僕は元々、華々しいものよりも半径500メートルくらいで起きる話が好きなんです。ヒロイックな曲は自分自身のテンションを引き上げなければならないけど、『パトレイバー』は素の自分の感覚で気楽に作れます。OVAのときからずっとそのスタイルです。少し背伸びが必要だったのは劇パト2くらいですね」

 特車二課の隊員たちは“正義の味方”ではあるが、普通の人でもある。

 「普通の人であることが音楽にも影響しています。メロディーで押していくような曲の作り方はできないんです。必殺技があるわけでもなく、空を飛ぶわけでも巨大化するわけでもない。レイバーから降りたらコンビニに行ったりする普通の人々です。だからこそ、その日常の枠からはみ出ないような音楽を意識しています。話のバリエーションが多いので、音楽スタイルを変えますが、根本として、ギャグのシーンであれば『真面目に音楽を作って笑わせる』という姿勢です。ふざけた音楽を作るのではなく、あくまで真面目に作り、映像と合わさったときにギャグになる。それが理想ですね。劇パト2のような重厚なシーンは、どちらかといえば犯罪者側に寄せます。ただ、地味なんです。犯罪者をヒロイックに描かずに、いかに深刻さを出すかが鍵になります。ただ、映画に集中できるように、音楽にあまり気をとられないようにしたい。冷房の効いた部屋から砂漠を見るような感じにはしたくない。実際に冷房の効いた部屋にいても暑苦しい、怖いと感じるような音楽を作っていければといつも思っています」

 ◇「EZY」でも変わらない

 「File 1」の第2話「閑中妄あり」の“妄想シーン”で零式が登場したことも話題になった。零式は「機動警察パトレイバー 劇場版(劇パト1)」でもおなじみの人気レイバーで、音楽も「劇パト1」をセルフオマージュした。

 「指示があったわけではなく、僕が勝手に付けました(笑)。ゲーム(PATLABOR the Case Files)のプロモーション用にもリクエストがあったので『朝陽の中へ』っぽい流れの曲を作ったりしています。ただ、別の仕事で『パトレイバーっぽい曲』と言われると困るんです。同じものはつくれないですし」

 「EZY」でも川井憲次さんが「パトレイバー」の音楽に向き合う姿勢は「全然変わっていない」という。

 「ストリングスやピアノやホルンっていうのはもう昔から同じように使っていましたし、変わったとすればシンセサイザーがハードウエアからソフトウエアになったところでしょうか。ただ、半分くらいはハードウエアを使っています。ベースはずっとMIDIMINI(名機Minimoogをラックマウント化したアナログシンセ)で、劇パト2の頃からずっと現役です。Emulator(1980年代に発売されたサンプラー)もいまだに使っています。劇パト2で押井さんから『鳥の声のような音がほしい』と言われ、ProphetやJUPITER-8(いずれもアナログシンセの名機)で作った音があるのですが、あれがいまだに再現できなかったり、過去に作った音をサンプリングして使うこともあります。ハードを買うとうれしくなってそればかり使いたくなるんです(笑)。劇パト1のときはRX5(リズムマシン)のチューニングを思いっきり落として使ったり、劇パト2のときは、購入したばかりのProteus/3(民族楽器を中心に収録した音源モジュール)を随分使いましたし。ハードとの出会いからヒントを得ることは今も昔もあります」

 「EZY」は、全3章、全8話構成で、「File 1」が5月15日、「File 2」が8月14日に公開された。「File 3」が2027年3月5日に公開される。「File 3」の第7、8話は連続したストーリーとなることが発表されており、まだ詳細は話せないようだが「『File 3』は音楽もこれまでとは違うものになっています。ストーリー自体もこれまでと路線が違うので」と明かす。

 「パトレイバー」に欠かせない存在として作品を彩ってきた川井さんの音楽。「普通の人であることが音楽にも影響している」と語る通り、ヒーローではない等身大のキャラクターと川井さん自身のスタイルが重なるからこそ、「好きに作るとパトレイバーになる」のだろう。「File 3」でどのような音が紡がれるのか、期待したい。(阿仁間満/MANTANWEB)

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