サンブンノイチ:品川ヒロシ監督と藤原竜也に聞く「全部自分が面白いと思うことを詰め込んだ」

最新作「サンブンノイチ」について語った品川ヒロシ監督(右)と主演の藤原竜也さん
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最新作「サンブンノイチ」について語った品川ヒロシ監督(右)と主演の藤原竜也さん

 木下半太さんの同名小説を原作に映画化した品川ヒロシ監督の最新作「サンブンノイチ」が公開中だ。今作はキャバクラ「ハニーバニー」を舞台に、雇われ店長のシュウ、ボーイのコジ、常連客の健さんの3人がどん底から一発逆転をかけ銀行強盗で1億6000万円を手に入れるも、3分の1に分けようとしたところで仲間割れが起き……というストーリー。シュウ役には藤原竜也さん、田中聖さんがコジ、お笑いコンビ「ブラックマヨネーズ」の小杉竜一さんが健さんをそれぞれ演じ、歌手の中島美嘉さんがキャバクラ嬢として出演している。初めて原作もののメガホンをとった品川監督と、シュウ役の藤原さんに話を聞いた。

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 藤原さんの初対面の印象を「テレビで見るより背が高い」と話した品川監督。藤原さんが「すごいかしこまった応接室みたいなところに通されて、監督と顔合わせですといわれても……あれ必要ないですよね」と返すと、品川さんも「今回は本読みが出会いということになるから、30分くらい前に入って先に顔合わせをする場をプロデューサーさんがセッティングしてくれました。主役だけ監督に会って話をするのはよくあると思いますが、会議室でいきなり会っても台本についてもそんなに言うこともなく、読みながら少し話したら、2人とも早々に話すこともなくなって『変な感じだよね。この時間いるかな?』となっていました(笑い)」と笑顔で振り返る。

 品川監督は「ドロップ」(2008年)、「漫才ギャング」(11年)に続き3本目の監督作にして初めて原作のある作品を映画化した。アプローチの仕方の違いなどがあったかと聞くと、品川監督は「原作があるから最初はすごく楽に思えた」という。だが、「(脚本を)書いていくうちに小説を2時間にまとめなきゃいけないとか、文章だから(可能)というトリックを映像にするとネタバレしちゃうみたいなことも出てきて、いろいろクリアにしなきゃいけない。映画として少し派手めに演出しなきゃいけないという部分もあったので、着地は自分で(オリジナルを)考えるより難しかったかもしれない。その結果、のど元過ぎれば熱さ忘れるで、結局楽しかったですね。人のものを自分が脚本を書いて映画にするという作業、工程が楽しいひとときだったなと思います」と語り、初めての作業を楽しんだようだ。

 一方、藤原さんは品川監督の印象を「芸人さんとしてのイメージがすごく強かったんですが、初対面でそんなのは取っ払って監督と俳優として向き合ってくれましたし、すごく貴重ないい時期に出会えた人だなという印象です」と絶賛し、「銀行強盗の直後から始まるという発想が面白いなと思ったし、そこからさかのぼって5日前、4日前、3日前に何があってここに至るんだという構成が、緻密なものがうまく合わさってよくできた台本だなと。同時にゲラゲラ笑って一人で読んでしまう台本だし、品川監督が面白くしてくれるんだろうなという期待がありました」と出会った当時を振り返る。

 監督作を重ねていく上で品川監督は「技術的な部分は毎回学んでいるし、プロモーションビデオ(PV)を撮るときなどもその都度、その世界のカメラマンさんとか撮影する方を変えてもらってきていた。そうするとその人の持っている“必殺技”みたいな得意なものを習い、また次に生かしていくという感じはあります」と毎回新たな手法を取り入れていっている。品川監督の現場は「発見だらけだった」と振り返る藤原さんは、「テンポのいいかけ合い自体、映画でやったことがないですし、キャラクターもストーリーも含めて発見ばかりでした。すごく面白くて貴重なことばかりやらせてもらったなと。いろんな芸人さんと芝居できましたし、乳首を触られたりとか、いろいろ面白いことばかりやらせてもらいました」と笑顔で語る。

 藤原さんが演じたシュウはカッコよさと情けなさが同居したような難しい役どころ。役作りについて「気を付けた点は、監督が求めるテンポやかけ合いの部分。ある種、時に勢いで撮っていった部分はありますから、その流れに取り残されないように必死に食らいついていました」と語る。品川監督は藤原さんの演技に対して「指示(を出す)というか、もう竜也くんという“フリ”がある」と切り出し、「乳首を触られるシーンでいえば、顔自体は本当に切ない顔をしているけど、やられてることは乳首を触られているという(笑い)。竜也くんが切ない顔がうまいから、芸人がやられるよりも全然面白い」とその存在感を称賛する。

 続けて、品川監督は「コインランドリーでふんどしを見ながらたばこを吸うというシーンも、カッコよく見えそうでもあるのに何かおかしいというのは藤原竜也という“フリ”があるからで、ふんどしを見ているだけで面白いというか、たそがれているお芝居がうまいから『面白くやってください』というよりは『コインランドリーで乾燥機が回っているのを見てたそがれてください』と言ったらいいわけなんです。『たそがれているのが面白いからたそがれてください』という説明はいらない。そういう部分で面白いなというのはいっぱいありました」と話し、「自分の映画に藤原竜也が出ているというのが面白いんですかね(笑い)」と自己分析する。

 品川監督の発言を受けて、「個人的には窪塚(洋介)くん(が演じるキャバクラのオーナー・破魔翔)の『うけるツボ』『いやホラーなんですけど』のくだりが面白くてはまりました」と藤原さん。品川さんも「あれも窪塚洋介と藤原竜也がやっているから面白い。竜也くんと窪塚くんのシーンは結構面白くて、ものまねのシーンも面白くしようというよりはどっちかというとお芝居の対決で、多分、芸人でやると完全にコントに見えちゃう。2人だから映画に見えて面白い」と評する。

 原作の小説が全面的にクエンティン・タランティーノ監督へのオマージュを打ち出しているが、「タランティーノのオマージュ作ですけど、タランティーノ自体が邦画のオマージュがいっぱいあって、昔の邦画はこの空気だった」と品川監督。そして「邦画の中にある洋画のにおいというのが僕の子供のころにはいっぱいあって、深作欣二さんとかもそうですけど、深作欣二さん(の作品の雰囲気)は香港映画や韓国映画の中に息づいているし、それはタランティーノの映画の中でもそう。昔の邦画にある洋画のにおい、タランティーノが持っていった日本的ないい部分を返してじゃないけど(笑い)、そういう感じにしたかった」と持論を交えて今作への思いを明かす。

 今後も出演作が目白押しの藤原さんは、今作を「非常に面白いですし貴重なものだと思う」と表現し、「見どころは窪塚くんのはじけっぷり。今まであるようでないような窪塚くんのカッコよさが出ていると思う。あとは豪華キャストで、監督ならではの『ここにこんな人が出てるんだ』というぐらいいろんな人が出ていますから注目して見てくれたらうれしい」とアピール。藤原さん自身については「ホラーの脚本を破魔に持って行き『受けるツボ』といわれて『これはホラーなんですけど』『マジ泣ける』『いやホラーなんですけど』というような演技をやったことがなかったので、幸せでした(笑い)。自分が好きなシーンでもあり、そこも見ていただきたい」と笑顔を見せる。

 品川監督は今作の魅力を、「どこか古くもあるけれど、きっと見たことない映像もたくさんあって、お芝居のかけ合いとかだまし合いとか笑えて、どんでん返しありの全部、自分が面白いと思うことを詰め込みましたので、2、3回と劇場に足を運んでいただければうれしいです」と自信を見せる。藤原さんが「中島美嘉ちゃんは、歌姫のイメージもあって、取っつきにくいのかなというイメージもあったのですが、すごく開放的に自然に接してくれたお陰で、僕らもうまく一緒にやっていけた部分もあった。美嘉ちゃんのシーンは(映画に)荒々しい映像もある分、ちょっと落ち着く、すてきな場面になっていますから見どころです。(見どころは他にも)いっぱいありますけどね!」というと、品川さんは「何回も見てください(笑い)」と再度、力を込めた。映画は全国で公開中。

 <品川ヒロシさんプロフィル>

 1972年4月26日生まれ。東京都出身。本名・品川祐。東京・吉本総合芸能学院(東京NSC)第1期生で、同期の庄司智春さんと95年にコンビ「品川庄司」を結成。2006年に自らの経験をつづった小説「ドロップ」を発表し、翌07年にはマンガ化される。09年に自ら映画「ドロップ」でメガホンをとり、長編初監督作ながら高評価を得た。同年には書き下ろし長編小説第2弾となる「漫才ギャング」を出版し、11年に再び自ら監督を務め映画化して1作目に続きヒットを記録した。

 <藤原竜也さんプロフィル>

 1982年5月15日生まれ。埼玉県出身。97年に蜷川幸雄さんが演出した舞台「身毒丸」のオーディションでグランプリを獲得し、ロンドンで舞台デビュー。以降、「ハムレット」「ロミオとジュリエット」「ムサシ」など数々の蜷川作品に出演する一方、国内外問わず多数の演出家の作品に出演。「ハムレット」では朝日舞台芸術賞、紀伊国屋演劇賞、読売演劇大賞などを受賞。ドラマや映画でも活躍し、おもな映画出演作に「バトルロワイヤル」シリーズ(00年~)、「デスノート」シリーズ(06年~)、「カイジ」シリーズ(09年)、「藁の楯」(13年)など。14年も「MONSTERZ モンスターズ」「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」などの出演作が公開を控えている。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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