バツイチは恋のはじまり:ダニー・ブーンさんに聞く 仏国民的コメディアンが偽装結婚の餌食に

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 「最強のふたり」(2011年)の製作チームが手掛けたラブコメディー映画「バツイチは恋のはじまり」(パスカル・ショメイユ監督)が、20日に公開された。「最初の夫とは破局する」という家に伝わるジンクスを信じる女性と、彼女の計画にまんまと利用される男性の物語を、パリ、ケニア、モスクワと世界半周旅行の中で描き出している。ダイアン・クルーガーさんが演じるヒロインに振り回されるちょっと冴(さ)えない男性をフランスの国民的コメディアンであるダニー・ブーンさんが演じている。「戦場のアリア」(05年)で共演したこともある2人のダブル主演となった。ブーンさんは「笑えて共感できる人物を見せることができた」と身振り手振りを交えながら話した。

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 ◇友人ダイアン・クルーガーと息もぴったり

 ブーンさんは主演作「ミックマック」(09年)で知られ、本国フランスでは俳優、映画監督、脚本家、プロデューサーとしてマルチに活躍する人気のコメディアンだ。今作では、三流旅行雑誌の編集者ジャンイブという役柄。彼が空港で偶然出会ったのが、最初の結婚は破たんするという一族のジンクスにとらわれている女性イザベル(クルーガーさん)。ジャンイブは、付き合って10年の彼と結婚したいというイザベルに、“最初の結婚相手”として選ばれてしまう。イザベルの婚活計画の餌食(えじき)にされるちょっとおマヌケな男性なのだが、真面目で仕事熱心。美人との出会いに鼻の下を伸ばしている様がちょっと滑稽(こっけい)だ。

 「彼はイザベルの犠牲者なんだ。彼女がいろいろと(ジャンイブに対して)悪いことをするから、ちょっとかわいそうかも。でも、2人のシーンのシチュエーションがきちんと作られていたから、奇妙なシーンでもやり過ぎに見えずに演じることができた。真摯(しんし)な心で演じたので、笑えるのだけれど、誰から見ても心を寄せられる人物としてジャンイブを見せることができたんじゃないかな」

 出演を決めた理由は三つあったという。「一つ目はショメイユ監督の『ハートブレイカー』(10年)が、とてもすてきなラブコメだったこと。二つ目はシナリオが個性的だったこと。男性側が問題を抱えている話が多いけれど、男女が逆転していて、すごくモダンだと思う。三つ目は、『戦場のアリア』でも共演した、友人のダイアン・クルーガーとまた共演したいと思ったから」だと明かす。

 クルーガーさんにとっては、コメディー初挑戦となった。だが、友人で国民的コメディーアンのブーンさんの胸を借りて、息もぴったり。劇中では可愛らしいコメディエンヌぶりを発揮している。「ダイアンは陽気な人で、人を笑わせることが好きな人なんですよ。僕はとても演じやすかった。友人である僕達のいい関係が出せたんじゃないかな」と振り返る。

 ◇コメディーの原点である”動き”で存分に表現

 2人の息の合った掛け合いが、ケニアや冬のモスクワを舞台に展開されていく。ケニアの大自然があまりにも美しかったため、「演技ができなくなってしまった」と語るブーンさん。実際のマサイ族と初共演した感動もさることながら、「冒険ばかり…」と危険な目に遭ったエピソードも次々に口から出てくる。

 「マサイの村に行くときに乗ったセスナ機が古くて、滑走路のないただの土の上に着陸したときすごく怖かったよ! 操縦士がたばこをふかしたおじいさんで、(操縦中に)心臓発作で倒れないかとヒヤヒヤした。夜はガイドさんが道に迷い、車が崖から落ちそうになった。宿泊先の小屋では、外にあるシャワーを浴びに行ったダイアンの前に、野生のレオパードが現れて……」

 一方、ロシアでのシーンでは、ロシアンダンスの習得に四苦八苦したとか。「上半身と下半身のリズムが違うので、とても難しかった。ワンシーンワンカットで回し続けて、2日間かけて20回くらい踊った。舞台に出るときのように緊張したよ」という。

 「あまりうまく踊れていないと思う」と謙遜するが、そんなことはない。それもそのはず、路上でのパフォーマンスやパントマイムが、ブーンさんの俳優としての原点だ。「コメディーのベースは、もともと動作。この役は言葉で笑わすのではなく、動きで表現することができてとても楽しかった」という。

 アドリブを随所に取り入れたというが、特にイザベルの勤める歯科クリニックでのシーンでは「自分のアイデアを出して、思いっきり動きを出した」と自信たっぷり。見たら忘れられない爆笑シーンになるだろう。とはいえ、「これは美しい2人の愛の物語なんです」とブーンさん。

 最後にメッセージを求めると……。「日本では映画はいくらなの? 1800円? え!! 高い!! フランスではもう少し安いと思う……。映画はみんなで見る芸術でなくてはならないから、もう少し安いといいけど……。いつもフランス映画を見てくれる方々に『ありがとうございます』と言いたいです」とちゃめっ気たっぷりに語った。

 映画は、ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで20日から公開中。

 <プロフィル>

 1966年生まれ。監督、脚本家、プロデューサーとしても活躍。主な出演作品は、「戦場のアリア」(2005年)、「ぼくの大切なともだち」(06年)、「ミックマック」(09)など。 

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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