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1990年代に人気を集めた小林よしのりさんの大ヒットマンガが原作のアニメ「おぼっちゃまくん」の新作アニメのジャパンプレミアが12月14日、名古屋市内で開催中の国際アニメ映画祭「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)」で実施された。新作は、日本とインドの日印共同で制作されたことも話題になっている。なぜ、インドなのか? テレビ朝日の国際ビジネス開発部の隅田麻衣子さん、シンエイ動画のプロデューサーの岡野孝規さんが明かした。
◇旧作の世界観通りに続編を
「おぼっちゃまくん」は、世界有数の超絶大金持ち・御坊(おぼう)家の一人息子・茶魔(ちゃま)の日常を描いたギャグマンガ。「コロコロコミック」(小学館)で1986~94年に連載。テレビアニメが1989~92年にテレビ朝日系で放送され、「ともだちんこ」「そんなバナナ」「すみま千円」などの“茶魔語”が流行した。
新作は、日本版「おぼっちゃまくん」を手掛けたシンエイ動画がシナリオを担当し、インドでアニメが制作された。同作は、インドのキッズチャンネルで人気を集めており、新作を熱望する声が上がったことから、原作者の小林さんの快諾を得て、テレビ朝日とソニー・ピクチャーズ・ネットワークス・インディア(SPNI)がタッグを組み、日印共同で制作されることになった。
隅田さんは、新作が制作されることになった経緯を「旧作の世界観通りに続編を作ってほしいというオーダーがありました。旧作がコロナ禍にインドで放送され、暗い中で、はちゃめちゃで楽しい作品ということもあって、爆発的なヒットになった。続きが見たい、今すぐほしいというお話をいただいたのですが、日本で作っていたら間に合わない。日本でストーリーを作り、インドでアニメを制作することでスケジュールの要望に応えられる」と説明。
原作者の小林さんから快諾を得たことについて、隅田さんは「先生は、一番の応援者です。企画を持って行き、インドには子供が4億人いるとお話したところ、未来と希望にあふれた国で愛されていることがうれしいと喜んでいただき、ぜひやりましょう!と言っていただきました」と話した。
新作として全52パートが制作された。「原作のエピソードとオリジナルがある。旧作では原作をほぼ使っている。新作では、原作は10パートくらい、ほかはオリジナルです。先生に細かく監修していただきました」という。
◇あえて日本語のままで
新作は、看板が日本語になっているなど、日本のアニメとして制作されている。隅田さんは「日本語のままでやっています。そこも受けとめて見ていただいています。ヒンズー語や英語に書き換える必要はないという話でした」、岡野さんは「インド人が転校してくるなどインドと絡めた方がいいのか?と提案したこともありましたが、日本らしいエピソードを描いてほしいという要望でした。社会の授業でインドのことを勉強するシーンなどはあるのですが」と“日本発のアニメ”として作られている。
昨今はコンプライアンスが厳しいこともあり、“茶魔語”の「ともだちんこ」は「ちょっと危ない」と封印し、「フレンドリッチ」というあいさつを作るなどアップデートしたところもある。
岡野さんが「ほかでこんな作り方をしている作品はない。シナリオはインドで開発するのは難しいので、日本から提供した。旧作を手掛けたやすみ哲夫監督に監修していただいています。キャラクター、美術の設定は出せるものは出しています。インドからビデオコンテが上がってきて、それを日本でチェックする。インド独自の演出もありますが、無理やり日本の旧作に合わせるのではなく、個性やアイデアを生かしています。明らかに損なう表現がある時だけ直しました。動かない画面が続くのが怖いのか、カメラがずっと動いているんです。画面がうるさくなりすぎるので、そこはやめてもらいました。あとは、間の感覚が違うので、ギャグのテンポを修正しました。テンポが遅いけど、セリフの間は詰まっている。基本的に、インドで放送するので、多少はいいのですが、グローバルに展開することを考えました」と話すように、独自の制作体制となった。
「35年前とルックが違う。今回はFLASHを使って、モデルを動かしています。人形劇に近いかもしれない。違うものになるけど、35年前のギャグの魂、情熱は引き継がないといけない。コンプラも厳しいけど、思い切ったギャグをライターさんに出してもらい、“らしさ”を大事にした」と旧作へのリスペクトを込めた。
◇なぜインドでヒットした?
隅田さんは、インドでヒットした理由を「日本の文化とインドの文化には、共通するところがある。家族愛、学園生活など設定が親しみやすいところがあるのかもしれません。厳粛であるべき学校で先生がやり込められるのも痛快です。親との関係に共感するところもある。ほかの国でも面白いと思ってもらえるはず」と分析した。
岡野さんは「今の子供にも刺さる内容。ギャグが過剰で、振り切っている。今はあまりやらないのですが、正面からギャグをやっている。先生に言われたことですが、安易なお金持ちネタ、下ネタ、ダジャレを入れ込めばできるものではない。茶魔がギャグを動かし、どれだけ暴れるかを意識しました」と語った。
インドで制作することで制作費を抑えられそうだが、隅田さんによると「最初の目論見(もくろみ)は、安価で作れると思いましたが、安くできるわけではない時代に突入しています。桁違いに安いわけではない。日本では人材がシュリンクしているけど、インドは人が多い。そこは大きなメリットだと思います」という。
「ドラえもん」「忍者ハットリくん」「クレヨンしんちゃん」などテレビ朝日はインドでのアニメの展開に成功している。隅田さんは、インド市場について「テレビ朝日がすごいわけではなく、20年前に『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』でインドに進出していて、パイオニアだったので、ゲタを履かせていただいてる。インドでテレビが根付き始めた頃に、出ていたことが大きかったのかもしれません。この20年で、インドローカルのキャラクターも出てきました。大きなライバルでもあります。インドはアクション、ヒーローが好まれ、マーベルも人気です」と説明。
岡野さんは「インドはこれからアニメ制作が広がっていく。作品は選びますが、インドとコラボして作ることができるかもしれない。ただ、スケジュールが読みづらいというリスクもあります。熱心にやっていただけるので、今後もできれば」と日印共同制作に手応えを感じた様子。
隅田さんは「マハラジャと対決してほしい。映画もやってみたいです。先生にも原作を書くと言っていただいているので、ぜひ!と思っています」と「おぼっちゃまくん」のさらなる展開に意欲を燃やしていた。