この「けんた食堂 インタビュー」ページは「けんた食堂」のインタビュー記事を掲載しています。
YouTubeの動画総再生回数は8億超え、チャンネル登録者数は120万人を超える料理家のけんた食堂さん。調理中に用いる「ゴマをあたる」「麺を整える」など丁寧な日本語でも注目を集め、「~したって構わない」「~すると尚(なお)良し」など独特な言い回しは、SNSで「けんた食堂構文」として“ネタ”にされてしまうほど。9月28日に初の著書「うちめし道」(扶桑社)を発売したけんた食堂さんに、これまでの経歴や豊かな語彙力の源などを聞いた。
◇YouTubeは15年前から開始「これは見るに堪えないと一時中断」
--けんた食堂さんの動画は、インスタント製品を用いた料理初心者でも作れるようなレシピから、上級者向けのレシピまで幅広いな、という印象です。料理をする上でこだわっていることはありますか。
全ての食材をリスペクトをしているということですかね。 インスタントにはインスタントの素晴らしさがあるし、ジャガイモにはジャガイモの素晴らしさがあるし、同じだけの情熱と熱量を注いで、その食材ないし料理が一番美しい姿で見ていただけるようにレシピを考えています。
--料理は昔から得意だったのですか。
得意でしたね。もともと食べることがとても好きで、小さい頃から自然と祖母に教えてもらうようになっていったのが料理家人生の始まりです。「これを教えてほしい」と習ったというよりも、日々の暮らしの中で自然と身に染み付いていったという感じでしょうかね。
そして、うちの親父も結構な酒好きで、休日があると市場に買い出しに行って、鶏ガラを買ってスープを煮出して酒のアテを作ったりするような人だったんです。そういう光景を小さい頃から見ていました。あまり一般的な食卓には上らないような食材とかもずいぶん口にしてきましたので、やっぱりそういう経験が今に生きているとは思います。
--まさに食の英才教育ですね。料理が好きで料理の道に?
はい。ただ料理人ではなく、仕事は仕事として別のことをしておりまして。19年前(2005年)にレシピサイトを立ちあげたのが、料理家としてのキャリアの始まりでした。
--なぜレシピサイトを立ちあげようと?
もともとは私自身が使うために立ちあげたんです。「記録用」といいますか、当時はスマホもなかったので、レシピと画像にすぐにアクセスできるツールがほしいな、と。それが立ちあげて1年ぐらいで、当時あったヤフーのディレクトリサービスに登録されて、読者が爆発的に伸びたんです。
--それが料理家として人気に火が付いたきっかけだったんですね。YouTubeはいつ頃始めたのでしょうか。
YouTubeは実は15年前ぐらいから手を出しておりまして、当時は手持ちのビデオカメラで撮っていたのですが、画質がめちゃくちゃ悪かった(笑)。これは見るに堪えないと一時中断して、2019年の頭ぐらいに「また始めよう!」と再開しました。
--なぜYouTubeに復帰されたのでしょうか。
テキストと写真だけでレシピを紹介するというスタイルに、停滞感と将来への懸念があったんです。何かしら自分が変わっていかないといけないと。なので照明機材は工夫して、編集もイチから勉強し直して再開しました。
--YouTubeがバズったのはいつ頃でしたか。
昨年だと思います。それも、このまま撮り続けてきたらよくないな、と作風をガラッと一新したんです。主な投稿を横長の動画から、縦長のショート動画に変えたところ、運良くそれが功を奏しました。使えるものは全て使っていこうと、ナレーションもその頃から取り入れ始めました。
--ナレーションの独特な言い回しが「けんた食堂構文」として話題ですが、豊かな語彙力の背景を教えてください。
昔から本を読むのがすごく好きで、旅行にも文庫本を3~4冊持参するぐらい、本を手放さず生きてきた人生なんです。その影響がやっぱりあるんじゃないでしょうか。老眼でガクッと読書量は減ってしまいましたが、若い頃は月に10冊以上は確実に読んでました。(本の)ジャンルは問わず、万葉集を読むのも好きですよ。
--本は図書館を利用するのですか。
いえ。自分は本に線をたくさん引くんですよ(笑)。しゃぶりつくすぐらい内容をインプットしたいので、付箋もいっぱい貼ったり、付箋を貼るのが面倒になると折ってしまうこともあるので、お借りしたものだと絶対にできないじゃないですか(笑)。
◇「動画作りはエンジョイしながら」 今後の展望は
--よく聞かれるかも知れませんが、料理のネタは尽きませんか。
それはないですね。レシピサイトを20年やってきたので、レシピの知識の蓄積はそれなりにあるわけですよ。例えば、餃子のタネを作る時に、ハンバーグを作った時のやり方の一部を取り入れたら良いアレンジになるかも知れないなって。そういう自分の“やってみたいこと”で動画を作っている感じです。
--週に複数本動画をアップされていて、端から見ると大変そうに見えるのですが……。
私自身はまったく大変だと思っていないですね。YouTubeを再開した際「時間があるときは、動画を撮る男になる」と決めた自分との約束でもありますし、動画作りはエンジョイしながらやっています。
--なるほど。調理中や料理を食べる際の独特なオノマトペからも、楽しさが伝わってきます。
ありがとうございます。動画を編集している時に、この音面白いな!っていう瞬間があるんです。付けようと思って付けているのではなく、そういう時にだけ付けていますね。
--ご家族や周囲の反応は?
家族は喜んでくれていますし、街ではよく声を掛けていただくようになりました。私、体が大きいんですよ。なのですぐにバレてしまうので……(笑)。飲食店とかが結構大変ですね。ありがたいことに私のことを知ってくれているのですが、変なことはできないなって(笑)。
--今後の「けんた食堂」の展望はありますか。
外国の視聴者の方を増やしていきたいです。日本人が家庭でこういうの作って食べてるんだよっていうのを世界にも発信していけたらなと考えています。
--最後に初の著書「うちめし道」のアピールをお願いします!
今、私が持てる力と知識の全てをくまなく1冊に収めた“けんた食堂ザベスト”みたいな本に仕上がっております。
--ベストアルバムみたいな感じでしょうか。
まさにおっしゃる通りだと思います! 手前味噌で恐縮ですが、お家で美味しいものを食べる手段の全ては、この1冊に詰まっています。
◇けんた食堂
家庭料理探究家。長崎県長崎市在住。YouTube「けんた食堂」を中心に、素材の持ち味をダイレクトに楽しめる調理法をモットーに、奇をてらわない料理を作る日々。