この「オチビサン インタビュー」ページは「オチビサン」のインタビュー記事を掲載しています。
「働きマン」「シュガシュガルーン」などで知られるマンガ家の安野モヨコさんのマンガが原作のアニメ「オチビサン」がNHK総合で土曜深夜に随時放送されている。鎌倉のどこかにある小さな町・豆粒町を舞台に、オチビサンと仲間たちの日常が描かれたマンガで、アニメは、「エヴァンゲリオン」シリーズなどで知られるスタジオカラーが制作。新版画調の独特の雰囲気を見事にアニメで表現した。スタジオカラーの鬼塚大輔監督、釣井省吾監督に制作の裏側を聞いた。
◇CGだから到達できた表現
--「オチビサン」はCGに向いている?
鬼塚監督 小物が多く、季節によって作らないといけないものも多いので、大変ではあるのですが。
釣井監督 今作では9割ほどをblenderというCGソフトを使って作成しました。CGが適しているのは、ワンシチュエーションなど舞台の数を制限して、登場人物の数をあらかじめ限定するものなのですが、「オチビサン」はいろいろな場所に行きますし、季節によって小物が変わります。CGに適しているとは一概に言えないところもありますが、CGだから到達できた表現もありました。大変ではありましたが、このクオリティーで作ることができたことがよかったです。
鬼塚監督 CGだからクオリティーが安定したところもあります。破綻がなくなるように見せていますし。
--到達できたこととは?
釣井監督 原作は、新版画調でして、企画の段階からモヨコ先生から新版画の表現に関するポイントを教えていただきました。そのおかげもあり独特の色使いなどを表現し、キャラクターと背景のなじみなどしっかりコントロールできたところです。美術さんが毎回、素晴らしい背景を描いてくださったこともあり、すごくよい画(え)が作れたかと思います。
鬼塚監督 狙った画(え)を作ることができました。どの話数も全て演出を入れ込むことができました。全カットに手を入れています。1200カットくらいありますが、3往復くらいは全て修正していきました。
◇各セクションの努力で新版画調の表現を
--新版画のような表現はアニメでは珍しいのでは?
鬼塚監督 そうですね。版画を量産するってどうしようか?となりました。
釣井監督 一話に対して3~5つのエピソードが入っていて、同じ背景は存在しません。一カット一カットを美術さんに描いてもらわないといけませんでした。どうやったら実現するのか?を試行錯誤しましたが、結果的に美術さんがただただ頑張ってくれて、ものすごく助かりました。
--美術を手掛けたスタジオパブロが素晴らしかった?
鬼塚監督 本当にそうです。以前に別の作品でも一緒にやらせてもらって、素晴らしかったので、今回もぜひ!とお願いしたら、期待以上のものになったんです。美術が色とりどりなので、セルの色もそれに合わせて増やしました。元々は工数を鑑みて、色を絞ろうとしていたのですが。
釣井監督 キャラクターと美術がマッチしていて、すごくいい案配になりました。
鬼塚監督 コンポジットいただいた撮影さんもすごかった。普通のアニメ表現ではないですし、今回はレンズ処理を入れていないんですよ。撮影さんと新しいボケを発明しようとしました。
釣井監督 新版画的な被写界深度表現として、手前の美術にはラインが描かれているけど、ピントが合っていないところはラインがなくて、ただの塗りだけになっています。カットによっては演出としてピン送りを新版画的に表現できないか撮影さんに実験も行ってもらったんですが、狙い通りに見えない可能性があるので、今回はそういった演出はしないようにしました。
鬼塚監督 普通にフレアをかぶせると、グラデーションになりますが、今回はグラデーション表現は行っておりません。パキッとした筆を開発していただいたり。
釣井監督 撮影さんが、こちらの意図を全部くみ取って、提案してくださったこともありました。すごい!となって採用したり。
鬼塚監督 各セクションの方々が本当に素晴らしく、画が持ち上がったんです。
◇一枚一枚刷っている!?
--目やズボンなど黒い塗りがグルグル回っているのも印象的です。
釣井監督 新版画風で作るということで、作品としてのルールを決めました。美術だけでなく、キャラクターも新版画風にしようとしました。キャラクターは毎フレーム、動く度に新しく一枚ずつ版画を刷っているような作風にしたかったんです。刷っている中でズレもできるはずです。アウトラインと塗りの間に白い縁がありますが、それは版ズレを表現しています。オチビサンの黒いパンツと目がグルグルしているのは、モヨコ先生がマンガで、塗りではなくポショワールの色つけで描いているので、一フレームずつポショワールで色をつけたような見せ方をしようとしました。キャラクターの線も一フレームずつ描かれているように見せるため、撮影さんに常に線が動いているように見えるように作っていただきました。
鬼塚監督 一枚一枚刷っているという見せ方ですね。版画が動いているつもりで作っています。
釣井監督 それが伝わるか……ということは置いておいたとしても、自分たちとしては作る上でのルールを決めようとしました。
--この技術はほかの作品でも生かせそう?
鬼塚監督 特殊ですよね。この作品の作風に合わせて作り方を選んだので。カラーのデジタル部は、作り方が作品ごとにベストな表現を模索した結果、毎回違う作り方になってしまいます。同じルールでは作ってなくて、毎回作り方を変えています。そろそろしんどくなってきた(笑い)。だから、そろそろ同じルールでやろうか?と最近は模索しているのですが。