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阿部サダヲ:いつも考える「芝居の中での笑い」 NHKドラマ「広重ぶるう」で歌川広重役

 俳優の阿部サダヲさんが「東海道五十三次」などで知られる浮世絵師・歌川広重を演じるNHKの特集ドラマ「広重ぶるう」が、3月23日午後10時からBSプレミアム4Kで放送される。本作を通じて「時代劇もいいな」と改めて感じたという阿部さんに作品の魅力を聞いた。

 ◇「加代役が優香さんで良かった」

 ドラマの原作は梶よう子さんの同名小説(新潮社)。浮世絵の世界で、葛飾北斎と並び称される歌川広重(阿部さん)は、実は火消し同心として生計を立てながら絵を描いていた。地味な画風で売れない広重を支えるのが妻の加代(優香さん)。描きたい絵を探す広重の苦悩や加代の献身ぶりなど、広重の生き様と夫婦の物語を描く。

 広重について、阿部さんは「『東海道五十三次』などで絵の感じは知っていたけど、生い立ちや夫婦の関係などは知らなかった」と前置きし、演じたことで「いわゆる芸術家というイメージとまた違う感じで身近な感じがしました」と話す。

 ドラマでは、絵師として売れるまでは妻・加代に支えられていたことなど、あまり語られてこなかった広重像が描かれるが、広重を演じる上で「武家の人だけど、一般的な気持ちを持っている人」という面を意識したという。

 「火消しをしていることもあるけど、火事が起きているのに葛飾北斎がその騒動の模様を絵に描いているのが信じられないといったことも考えられる人。気持ちがすごくいい人だなと感じたし、そういう部分を出せればと思いました」

 さらに「広重はちゃんと人の言うことを聞ける人だし、『こうだ!』みたいなこだわりが良い意味でない感じが好き。普通の感覚を持っているというか。自分も芝居するときに思うことですが、お客さんに近いふうにしたい。その感覚がわかる人ではいたいと僕も思っています」と広重の感性に共感したと語る。

 絵師としての成功を目指す広重を支える妻・加代を演じるのは優香さん。阿部さんは初共演となる優香さんについて、「すばらしい俳優さん。この人がいたから(浮世絵師としての)広重が生まれたと言っても過言じゃない。(撮影でも)助けていただいた」と感謝する。

 「優香さんの優しい笑顔はとても印象に残ったし、完成した映像を見てもあの笑顔があってのことだなと強く感じた。優香さんの笑顔は現場でも良かったけど画面を通して見るとまたいいし、(加代の)『承知しました』というせりふの独特な言い方もいい。雰囲気と合っていて、加代役が優香さんで良かった」

 ◇変わっていない「こだわりのなさ」

 広重は鮮やかな舶来絵の具「ベロ藍」という色に夢中になるが、阿部さん自身の仕事へのこだわりを聞くと、「あまりないけど、芝居の中での笑いが好きなので、芝居でもシーン的にもどこかで笑わせさせられないかは考えるかも。譲れないほどではないけど、いつも考えちゃいます」と応じる。

 本作でもその笑いへのこだわりは随所に見られるが、阿部さんは「(渡辺)いっけいさんが『こんな酒飲めるか』と言いつつも飲むというシーンで、監督から『ベタな感じでずっこけてほしい』と言われて。そういうのもありなのかと思って、じゃあということでやりました(笑い)。そういう演出の意図はやりやすかった」と具体的なシーンを挙げて説明する。

 1992年に初舞台を踏み、「愛の新世界」で映画初出演してから、今年で俳優として32年、銀幕デビュー30年を迎える阿部さんに、キャリアを重ねる中で変わったこと、変わらないことを聞くと次のような答えが返ってきた。

 「『こういう役者になろう』とか『こういう芝居をしよう』があまりないこと、ある意味こだわりがないところは変わってない。変わってきたのは中心になる役が増えたこと。それに作品には相当の人たちが関わっているのはわかってきたので、ちゃんとしなきゃというか。そういう面での意識や責任の部分でも変わったと思います」

 そんな阿部さんは今作を通して「時代劇もいいな」と改めて感じたといい、「あまり時代劇で人を斬ったことがなくて。ドラマで昭和とか言っているけど時代劇はもっと前の話。所作も知らないものもあって面白いし、学ぶこともいっぱいある。着る機会は少ないけど、袴(はかま)や紋付きを自分で着られるようになったら役者と言えるのかなって。まあ多分なれないでしょうけど(笑い)」とユーモアを交えつつ、時代劇への興味を口にした。

 ドラマの見どころを、「良い意味で時代劇っぽくないテイストで、見ている人に近い感じがいい」と話し、「映像もきれいでストーリーもわかりやすくて、芸術性を前面に出しているわけでもない。生活感もあるし人間ドラマもあるし、きっと見ている人が何かしら重ねられる親しみやすいドラマ。いい夫婦の話なので、時代劇と構えず幅広い世代の人に見てほしいです」と呼びかけた。(取材・文・撮影:遠藤政樹)

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