ディズニーの映画「リロ&スティッチ」(ディーン・フライシャー・キャンプ監督、6月6日(金)公開)は、2002年に公開された同名のディズニー・アニメーション映画を完全実写化した。アニメーション版をリアルタイムで夢中になった世代は、懐かしさを感じながら、あの時に気が付かなかった新たな感動に出合える作品。また、多忙な日々を送る“大人”にとっても、心に寄り添い優しい感動を届けてくれる物語になっている。舞台となるハワイの伸びやかな空気感、実写化によってより魅力が増したスティッチのモフモフ感、そして思いがけない感動が日々の疲れを優しく癒やしてくれる同作の魅力を探った。
映画は、2002年に公開された同名のディズニー・アニメーション映画を実写化。ハワイのカウアイ島を舞台に“オハナ(家族)”の大切な絆を描くファンタジーだ。両親を亡くした少女リロと姉のナニの前に現れたのは、愛を知らない暴れん坊のエイリアン、スティッチだった。予測不可能なスティッチの行動は平和な島に大混乱を起こすが、その奇跡の出会いはやがて、希望を失いかけた姉妹を変えていく……。
実写化にあたって一番ポイントになるのは、スティッチをどのように実在するキャラクターのように表現するかだっただろう。
最新のデジタル技術と、パペットの匠の技術を融合させたスティッチは、おなじみの見た目と声はそのままに、思わず触りたくなるようなモフモフとした毛並みが愛らしく、実在していると実感できる姿で登場する。
また、宇宙人や宇宙のシーンは「スター・ウォーズ」シリーズを手掛けたILMが特殊効果を担当。冒頭のシーンなどは「スター・ウォーズ」を彷彿(ほうふうつ)とさせる出来映えで、映画通でもうなる壮大なスケールとリアリティーが感じられる。
アニメーション版でのいたずら好きのスティッチの大暴れっぷり、リロも巻き込んでの大騒動の楽しさは実写版でも継承されているが、それだけではないのが本作の魅力。また、楽しいシーンを盛り上げる心躍る音楽も受け継がれ、さらに20年以上たってパワーアップしたように感じた。
ちなみに、アニメーション版でスティッチがテレビの画面を見て大興奮していた1958年公開のクラシックSF映画「吸血原子蜘蛛(Earth vs the Spider)」も劇中にちゃんと登場。他にもシリーズのファンがニヤリとする仕掛けが随所に挿入されていて、エンドロールまで目が離せない。
さらに実写版ではスティッチとリロだけでなく、リロの18歳の姉ナニの内面の葛藤にも焦点が当てられている。両親を亡くし、リロしか家族がいなくなってしまったナニの孤独感や社会人としての生き方、進路の悩みなども繊細に描き出されており、同世代や葛藤を乗り越えた大人世代にも刺さるものがあるだろう。
ハワイが舞台なだけあって、南国ならではののんびりとした雰囲気、海や山などの豊かな大自然、美しい景色は、忙しく暮らす現代人にとっては癒やし効果もあるかもしれない。
このように、アニメーション版の“明るく楽しい”物語の裏にあった実はシリアスな設定、困難を乗り越えたときの家族や人と人との絆などが、実写化によって見事にフィーチャーされ、さらに作品としての魅力が増している。思いがけない感動が胸を打つ、より洗練されて、大人が見るべき映画になっている。
2002年当時に楽しんだ人は懐かしさも感じ、初めて見る人も人気キャラクターが登場し、楽しくて感動するウェルメイドなディズニー作品だ。
空前の“スティッチ”ブームを巻き起こし、グッズも当時の10~20代を中心に大人気だったアニメーション版のファンにはたまらないキャスティングも実現した。引き続きクリス・サンダースがスティッチの声を演じる。さらにアニメーション版でナニの声を演じたティア・カレルが、リロたち姉妹に寄り添う社会福祉局の職員ケコア役で、青果店のハセガワさんの声を演じていたエイミー・ヒルが、リロとナニの隣の家に暮らす女性トゥトゥ役で、デイヴィッドの声を演じていたジェイソン・スコット・リーが、ナニが務めるレストランのマネージャー役で登場。
日本版では、スティッチ役をアニメーション版に続いて山寺宏一が担当。山寺は、アニメーション版の続編やテレビシリーズでもスティッチの声を演じてきた。さらに、8歳の人気子役、永尾柚乃がリロ役を、11人組ガールズグループ「ME:I(ミーアイ)」のMOMONAがナニ役を演じるほか、人気グループ「Travis Japan(トラビス ジャパン)」の中村海人が姉妹を優しく見守る近所に住む幼なじみのデイヴィッド役に抜擢。お笑いコンビ「シソンヌ」の長谷川忍がスティッチを生み出したジャンバ博士、俳優の渡辺えりが姉妹の近所に暮らす女性トゥトゥ、手塚秀彰がCIAエージェントのコブラ・バブルスを、五十嵐麗が姉妹の未来を案じる社会福祉局の職員ケコアを、深見梨加が銀河連邦議長の声を担当する。さらに2002年のアニメーション版で吹き替えを担当した三ツ矢雄二が地球の文化を愛する銀河連邦諜報員のプリークリーを続投する。
ちなみに、アニメーション版のエンディングでも使用されているエルヴィス・プレスリーの名曲「バーニング・ラヴ」を本国US版ではハワイ出身の世界的アーティスト、ブルーノ・マーズがプロデュース。同曲の日本版エンドソングは「Travis Japan」が歌っている。
ハワイのカウアイ島で暮らす6歳の少女リロは、事故で両親を失い、18歳の姉のナニと2人で暮らしている。まだ若いナニは失敗ばかりで生活は荒れ放題。ついには社会福祉局の担当からリロを施設に入れることを勧められる。一方のリロは想像力が豊か過ぎるせいで周囲から変わり者扱いされ、いつも一人ぼっちだった。
同じ頃、地球から遠く離れた場所で、一匹の凶暴なモンスターが誕生した。悪の天才科学者ジャンバ博士が違法な遺伝子操作で生み出した試作品“626号”は、どんな攻撃にも耐える圧倒的な体と、スーパーコンピューター並みの知能を持つ最強の“破壊屋”となった。626号は銀河連邦議長の監視を抜け出して脱走し、遠く離れた惑星、地球のハワイに落下。議長はジャンバ博士と諜報員のプリークリーに追跡するよう命じる。
動物保護施設に遊びに来たリロは、不思議な生き物(626号)を発見。この惑星で生存するため、626号は“犬”のふりをしてリロに近づき、リロから“スティッチ”と名付けられる。目につくものを破壊し、イタズラばかりする凶暴なスティッチと、一緒になって楽しむリロに、姉のナニは終始振り回される。しかし、スティッチとリロの間にはいつしか深い絆が芽生えていた。リロは「オハナは家族。家族はいつもそばにいる。何があっても」とスティッチに伝える。
やっと友達を見つけたリロと、家族を持たずに破壊だけを続けてきたスティッチは心を通わせ、成長していく。そんな中、地球に到着し、人間に変装したジャンバ博士がスティッチ捕獲のために動き出し……。
アニメーション版の要素が継承され、エモーショナルな気持ちを醸成させる懐かしさと実写版の新鮮さ、そして明日への活力を与えてくれる実写版「リロ&スティッチ」。一人でじっくり味わうのもよし、家族や友人と一緒に楽しむのもよし。楽しくて感動する“大人のエンターテインメント”をぜひ劇場で体感してほしい。