テレビゲームで世界にその名をとどろかせる任天堂の歴史は、遊びをベースにしたもので、花札、歌留多(かるた)、トランプにルーツを持つ。そして高度成長期にはさまざまなグッズに手を出した。そして80年代前半、携帯ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」がヒットし、その後、「ファミリーコンピュータ」がブレーク。任天堂は経営の根幹をゲームハードとソフトにシフトする形になった。まさに「天に任せた」という社名そのものだ。
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さて、「ゲーム&ウオッチ」の誕生から30年後。9月末にお披露目された「ニンテンドー3DS」は興味深い出来だった。注目は3D機能と通信機能の二つ。3Dだが、ゲームソフトを商売の中心にすえてからの任天堂の目標の一つは「立体化」であると思っている。それは、故・横井軍平さんが手がけた「バーチャルボーイ」にその片りんを見ることができる。ゴーグル状のヘッドセットをのぞき込むと、そこには漆黒(しっこく)の世界に赤い立体物……。既存技術の組み合わせを工夫して新しい遊びを生み出す「枯れた技術の水平展開」をモットーとする横井さんの作品である。現在の技術の進化をかんがみれば、当時、商品化を思い切ったという判断が任天堂らしい。そして今回の「3DS」に至る。この効果をフルに生かして……といいたいところだが、新しい遊び方が出てくるにはもう少し時間が必要だろう。
もう一つ忘れてはいけないのが通信……「オンライン的要素」だ。オンライン的要素と言ったのは、厳密なオンラインではなく、間接的な機能としてゲームに取り入れられたものゆえに「オンライン的機能」と呼ばせてもらう。
ここでも任天堂的ビジネスゆえに、従来型のオンラインモデルとは異なるアプローチがされている。任天堂が自社のデバイス(ゲーム機)にこだわるのは、ハードによる収益をビジネスの根幹を維持し、同時にそこにフォーマットされるソフトウエア・ビジネスの収益を磐石なものにするためだろう。任天堂らしいが、オープンという世の中の流れに身を任すという姿勢とは異なることも事実だ。
今回のオンライン的アプローチの名称は「いつの間に通信」だ。Wi-Fiを通じて、新しいランキングやデータ、無料ソフトを自動的に受信する。さらに従来からあった「すれちがい通信」も大幅に強化された。従来の「ニンテンドーDS」では、プレー中の「すれちがい通信」も専用ゲームのみだったが、今回はゲームのプレーと「すれちがい通信」を並行で行い、本体に残ったゲームデータでも可能となる。まさにオンライン的だ。
最近の欧米のゲーム市場の調査によると、オンライン機能もしくはオンライン要素がないゲームや、それに取り組まないパブリッシャーに未来はないという。任天堂的オンラインアプローチが成功するか否かは、その機能をうまく使いこなすソフトにかじを委ねることになる。価格面でのハンディ(2万5000円)が気になるが、その“弱点”さえもプラスに転じてしまいそうなツキを持っている気がする。
くろかわ・ふみお=60年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。
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