ケータイ国盗り合戦:日本人のハートに火をつけた? ヒットの裏側を開発陣に聞く

「ケータイ国盗り合戦」の生みの親・加藤隆志プロデューサー
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「ケータイ国盗り合戦」の生みの親・加藤隆志プロデューサー

 日本全国600カ所を“国盗(と)り”と称して踏破し、「全国制覇」を目指すマピオンの携帯電話を使った位置情報ゲーム「ケータイ国盗り合戦」が、リリースから2年半で会員数が70万人を突破し、全国制覇達成者は既に150人に達するほどの盛り上がりをみせている。ヒットの理由について同社開発陣は「日本人の国民性にマッチした」と分析しており、同ゲームのプロデューサーでメディア開発G・営業企画Gマネージャーの加藤隆志さんと、メディア開発Gリーダーの五味菜歩さんに話を聞いた。

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 「ケータイ国盗り合戦」は携帯電話の位置情報を使った無料ゲーム。05年に夏季限定キャンペーンとしてリリースされた「お宝☆探検隊」を前身とし、06年に「ケータイ国盗り合戦」にリニューアルし、08年4月に正式版をリリースした。決められた地域に行き、携帯電話で位置情報を送信すると「国盗り」となり、これを全国約600カ所すべてで行うと「全国制覇」となる。

 加藤さんはゲーム開発のきっかけについて「きっかけは『遊び』要素の取り入れでした」と話す。「地図サイトを提供する弊社のコンテンツに何か遊びの要素を取り入れられないかと思い、位置情報を使ったゲームを企画したんです。でも、当時は『位置情報』という言葉になじみがなかったので、『位置情報を送信する』というボタンを『国盗り』というボタンにして、ゲームが難しくならないよう気を配りました」という。あったのはちょっとした遊び心とユーザーへの配慮。ヒットしたことついては「予想外だった」と明かす。

 しかし、一方で加藤さんは企画の際、「日本人のハートに火をつける」というコンセプトを掲げている。ユーザーが“国盗り”に熱中する様子は、同社が開設しているウェブサイト「リアルタイム戦況~国盗り実況中継~」を見ても一目瞭然(りょうぜん)だ。会員が位置情報を送ると、同サイトに描かれた日本地図上のその地点に火の手が上がり、刀と刀が合わされる動画が再生される。全国の会員から送られる“国盗り”は一日当たり数十万件にも及び、いつ見ても地図上にはひっきりなしに火の手が上がり、休む間もなくひたすら全国から送られてくる“戦果”がカウントアップされる様子は、まさに「ハートに火をつける」という狙い通りの状況が生み出されたからにほかならない。

 何がそこまでユーザーを駆り立てるのか。確かに「全国制覇」を達成しても、かけた労力に見合った何かが必ず得られるわけではない。達成者の中から抽選で年間1人に100グラムの金塊(現在のレートで約39万円)がプレゼントされるが、全国を移動する旅費に比べると、その金銭的価値は高いものではない。ユーザーにとっては「全国制覇」を「成し遂げたい」という気持ちの方が大きく、即物的な報酬が目的というわけではないのだ。

 加藤さんがコンセプトの柱にしたのは、「戦国武将」「コレクター性を生かしたゲーム」「生きている証し」という三つのキーワードだ。「ケータイ国盗り合戦」というゲームタイトルや、位置情報の送信を“国盗り”に言いかえていることでも分かる通り、波乱万丈の戦国武将に成りきることでただの位置情報ゲームにストーリー性を持たせることに成功。また、「関東制覇」「本州制覇」「全国制覇」という言葉は日本人に多いタイトルコレクターのマニア心をくすぐり、600カ所を1カ所ずつつぶしながら段階的に全国制覇を進めるのは、達成感を得るのに十分な労力も提供している。また、ブログがはやったことからも分かるように「思い出」や「記録」を残したい日本人は多く、同ゲームでは“国盗り”するだけで、自分がその場所を訪れた軌跡を残すことができ、いわば「生きている証し」を立てることができるのだ。

 仕掛けも十分だ。同社は07年から「全国制覇」したユーザーを対象に表彰式を行っており、「みなさん、うれしそうに旅の苦労話をしてくれます」(加藤さん)と、名誉をたたえられることでその達成感は倍増。「日本人のハートに火をつける」まさにその通りにユーザーがヒートアップしていったことで、今の大ヒットがあるというわけだ。加藤さんは「ゲームの内容が日本人の国民性にマッチしたんだと思います。日本人はコレクション好きですし、何か具体的な『もの』を得るよりも、名声を好むところがあるんですよね」と分析している。

 昨今、位置ゲームが人気を博している背景として加藤さんは「現実とリンクしているから、ゲームの中だけで終わらない。旅先で『いい景色だ』とか『何もなくてつまらない場所だ』とか、何かしら得るものが必ずある。それも楽しいんだと思います」とゲームに現実世界に即した付加的な価値があることを指摘する。さらに五味さんは「ゲームが広がったのは口コミの力もあります。例えばお昼休みのトークのネタになりますよね。ゲームを会話のネタにする場合、そのゲームの説明が必要ですが、旅行だと誰でも話が分かるから、話題を共有できるんです」と続けた。

 予想外のヒットを受けての課題はないのだろうか。五味さんは「うれしい悲鳴なのですが『暇つぶし』に対応できていないことですね」と語る。「もともと暇つぶしに遊ぶのが携帯ゲームなのに、暇をつぶす目的で遊ばれていない。(ユーザーにとって)国を盗るのが主目的になってしまったから、逆に移動時間などの暇をつぶすためなのか、掲示板でしりとりが人気なんですよ」という。現在「ケータイ国盗り合戦」の掲示板ではしりとりスレッドが乱立。使える単語を地名や駅名などで縛ることで、旅で得た知識を生かす楽しさもあるのかもしれない。

 勢いに乗る「ケータイ国盗り合戦」は、今後も企業や地域とのタイアップを予定。現在は、兵庫県内48名所を巡るスタンプラリーを12月24日までの期間限定で実施中。また、8~10月に行われた、47の城下町を巡る企画「2010夏の陣-オロチ降臨-」の達成者を表彰するイベントを11年2月11日に開催する。同イベントでは、ユーザー同士が交流する時間も設けられる予定だ。(毎日新聞デジタル)

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