はじめの1巻:「鉄楽レトラ」 思春期をきめ細かに描いた夢をあきらめた少年と少女の物語

佐原ミズさんのマンガ「鉄楽レトラ」(小学館)1巻の表紙
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佐原ミズさんのマンガ「鉄楽レトラ」(小学館)1巻の表紙

 1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、「ゲッサン」(小学館)で連載、夢をあきらめた少年・鉄宇と少女・宝の物語を描いた佐原ミズさんのマンガ「鉄楽(てつがく)レトラ」です。

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 鉄宇(きみたか)は、通学に2時間かかる高校の入学式に向かう道すがら、中学生時代のことを思い出していた。所属していたバスケ部での事件以来、鉄宇は人と関わるのを避けていたのだ。入学式後、鉄宇は見知らぬ老女から声を掛けられる。老女から、いじめられていた孫娘がある人に出会ったことで明るい性格に変わったと聞かされ、「人の人生を変えてしまうくらいの人間て、どんなやつだろう……」と思いをめぐらせると……という物語。

 ◇編集部からのメッセージ 小学館 ゲッサン編集部 高長佑典さん「前へと進んでいく鉄宇の足どりを見守って」

 「人の人生を変えてしまうほどの人間て、どんなやつだ?」このインパクトあるせりふとともに始まる「鉄楽レトラ」ですが、壮大なスケールの物語ではありません。佐原先生いわく「ふつうの男の子のお話」です。やりたいことができない、うまくバランスがとれない。シンプルだけど複雑で、小さいけれど本人にとっては深刻な悩み。思春期のころに誰しもが経験したことのある葛藤やコンプレックスを抱えた、高校生になったばかりの少年が主人公です。

 佐原先生が紡ぐ絵や言葉はとても繊細で透明感があり、主人公の高校生・鉄宇が抱えるもどかしい思春期をきめ細かに、なおかつ嫌みなく描いています。とてもゆっくりですが一歩ずつ、前へと進んでいく鉄宇の足どりを見守っていただけるとうれしいです。

 実は佐原先生に連載のお願いをしたのはゲッサン創刊前、僕がまだ青年誌に所属していたころからでした。ゲッサンの創刊に参加することになり、佐原先生に改めて連載をもちかけたところ、少年誌は自分のカラーに合わないのでは、と不安を口にしていました。しかしフタをあけてみるとバッチリ少年マンガらしさもある前向きで温かな物語! 第1話のネームを読んで、ひそかに「いける!」と確信していました。この第1話は多くの書店さんに置いていただいている「試し読み小冊子」で読むことができますのでぜひご一読を!

 そして、少しでも鉄宇に共感してくださった方、2人の運命が気になると感じられた方は春に発売予定の単行本第2巻にもご期待ください!!

 ◇書店員の推薦文 ひょうたん書店西田本店の筒口征洋さん「心が痛くてたまらない」

 これを読んでいると、鉄宇くんと同じように過去の自分が起こした失敗や挫折が脳裏に次々とよみがえり、心が痛くて痛くてたまらなかったです。しかし、そういった心の傷が周囲の人々との関わりで少しずつ癒やされ、立ち直ってゆく姿に心打たれました。世の中は厳しいことばかりじゃないし、あなたの味方も仲間も必ずいるんだよと優しく教えてくれる作品です。そして彼は再び、夢に向かって走りだすわけですが、「え? それ本気で始めるの?」という驚きの展開に2巻目が待ちきれません!

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