ソニーの携帯ゲーム機「PSVita」の価格が、28日から、3G/Wi−Fiモデル(2万9980円)とWi-Fiモデル(2万4980円)が、どちらも1万9980円に値下げされる。発売から約1年2カ月という短期間での大幅価格改定について、その理由や、今までの問題点、さらにPSVitaを含めたソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(SCEJ)の取り組みについて、同社の河野弘プレジデントに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)
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−−PSVitaの値下げをこのタイミングで決断した理由は?
購入意向者に対しての調査で、「自分が遊びたいタイトルを待っている」「もうちょっと価格が下がると手に入るのでそれを待っている」が“買わない”二つの大きな理由だった。タイトルはパブリッシャーの戦略、準備があるが、価格についてはどこかでアクションをとるべきだと思っていて、そのタイミングとして、有力タイトルが出る春に合わせて価格改定をしようと思った。
−−最大1万円の大幅値下げになった。
お客様がどのくらいの金額であれば一歩踏み出してくれるか、PSVitaが持っている商品性、スペックとかを踏まえて、どの程度の値段になるかの議論をやり、その中で決め手になったのは、お客様に響くであろう2万円を切るぐらいというところ。そのぐらいの値段をつけなきゃいけないという考えがあった。
−−利益の確保は?
やはり企業なので収益性を考えている。発売から1年でわかってきたことがあって、PSVitaはユーザーの稼働率が高く、アクティブ。また、プレー時間が長く、起動回数も1日3回ぐらいと多い。ネットワーク接続も当たり前のように行っている。そうすると、プレイステーションネットワーク(PSN)で追加のアイテムを楽しんだり、ゲームをダウンロードしたり、そういう部分のアクティビティー(行動)が活発だ。ビジネス的にはハードで利益が取れればいいが、ユーザーがハードを購入した後のアクティビティーを含めると、ソフトの方で十分なビジネスが見込めると思っている。
−−値下げに関して、クリスマス商戦を見送った理由は?
どの時期にお客様にアピールできるタイトルが出るかを考えた。春に「ファンタシースターオンライン2」(セガ)、「ソウル・サクリファイス」(SCE)、「討鬼伝」(コーエーテクモゲームス)などが出る。ジャンルはハンティングアクションで、「モンスターハンター」(カプコン)のときのように、ハンティングアクションゲームが発売されると、「進化した携帯機でゲームしてみよう」という考えが出てくる。また、そういう遊び方を提案する、そのマッチングを考えた。それらのタイトルの前評判もポジティブ。「ソウル・サクリファイス」の体験版は、現在のハード普及数に対して、5人に1人の割合でダウンロードされている。そいういう有力タイトルが出てくるタイミングに合わせて、ハードも値下げした。この時期に勝負しようということ。
−−PSVitaの発売以降、同機の市場規模や普及度合いは、想定していたどのくらいの成果か。
私たちが想定していたよりも低かったのは事実。何%とはいえないが、ちょっとだけではなく、はっきりと未達。このままではいけないという考えがあった。ただ購入ユーザーからの評価は高いということや、購入後のアクティビティーが活発ということを考えたとき、ハードを購入するという最初のハードルをキープするのか、またそのハードルを下げて、お客さんに入ってもらって広げていくのか。やはり後者を取り、価格を下げるというアクションを選んだ。
−−PSVitaをリリースしての手応え、感じたことは?
評価が高くなければ、ゲーム専用機が不要になるという中で、ゲーム機としての評価が高かったということ。いろんなゲームの遊び方がある中で、新しい要素を入れた完成度の高い、没入感があるゲーム機をお客さんが欲しがっていることがわかった。また、買っていただいた後のビジネスや、買った後の楽しさの広がりがクリアに出てきている。さらに、ゲームに親和性の高いアプリが使われ、ゲームをしながら併用して楽しんでいる。ここの部分は重要で、これから先のゲームの遊び方や、ゲームユーザーのコミュニケーションの取り方とか、コミュニティーなどと連動していく要素になる。そういうところにユーザーが魅力を感じてくれているところが、大きな成果。ゲーム機は小さなデバイスだが、それに秘められた可能性が大きい。
−−流通関係者などは「PSVitaの伸び悩みはソフト不足」と指摘しているが。
発売から1年で約100タイトルが出た。この数は想定していたものに比べて低くはなかった。ただ、お客様などが「タイトルがない」と言われるのは、自分が遊びたいタイトルが出てきてないということ。やはり待望されているタイトルがまだ出てきていないのではないかなと。そういう意味で今年はいろいろなソフトが発売されるので、ある部分は解消されていくと思う。
タイトルと値段が購入を控えていた人の理由なので、値段に関してはまず手を打って、タイトルに関しては一つずつやっていく。ただタイトルに関しては、私たちが決められる話ではない。ゲーム会社と話をしながら期待されるタイトルをマーケットに出すしかない。その会話は活発に行っている。
−−グランツーリスモなど自社タイトルが薄いという声もあるが?
ファーストパーティーはちゃんと出していく。ただ、一般的にファーストパーティーのスタジオは、コンソール系(据え置き型ゲーム機)に強い。ただ、ポータブルとコンソールのクロスプラットホームというのを推奨しているので、ポータブル単独というよりは、そういうことを視野に入れた展開をスタジオのほうに期待したいし、バックアップをしていきたい。プレイステーションは、ファーストパーティーが牽引(けんいん)するということより、サードパーティーが入って盛り上げた歴史がある。SCEJとしては、日本のゲームパブリッシャーにどんどん入ってきてもらえるような展開をしていきたいし、私もそこに時間を使っている。お互いにWin−Winになれるかどうかというところで、いろんな仕掛けをしていこうと働きかけをしている。
また、「サムライ&ドラゴンズ」(セガ)のようなフリートゥープレーのゲームも、いいパフォーマンスをされている。ゲームに入るエントリーバリアとして、ハードやソフトを買うというオーソドックスな入り方に加えて、フリートゥープレー(での入り方)も今後増えてくると思う。
−−それはソーシャルゲームの影響?
影響はあるとは思う。プレイステーションが出たのが94年、それがまったく同じスタイルでいけるのかというと、それは時代の流れに沿ってトライしていかないといけないのは明らか。その中でどういう広がりをみせるかだと思う。すべてフリートゥープレーになるわけはない。大作は大作なりの価格付けが必要。かたくなにあるべきではないし、いろいろな柔軟さをもって進めていくことも必要。プレイステーションはずっとチャレンジャーでないといけない。旧体制にならないように常にチャレンジャーでい続けることが重要で、十何年もたって、ディフェンス側に見られたら問題。失敗もあると思うがチャレンジしていきたい。
プロフィル
かわの・ひろし 62年生まれ。福岡県出身。85年ソニーに入社。その後、米ソニー・エレクトロニクス・インクのコンスーマーセールスカンパニー(CSC)担当シニアバイスプレジデント(SVP)、Sony Style担当SVPなどをへて、10年にソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンのプレジデントに就任。12年からはソニーマーケティングの社長も兼任している。
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