オールナイトニッポン:女性マンガ家のラジオが異例の人気 11年ぶり1部昇格の理由は…

4月から昇格し「久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン」火曜日パーソナリティーを務める久保ミツロウさん(左)と能町みね子さん
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4月から昇格し「久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン」火曜日パーソナリティーを務める久保ミツロウさん(左)と能町みね子さん

 マンガ家の久保ミツロウさんとエッセイストの能町みね子さんがパーソナリティーを務める深夜ラジオ「久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン0(ZERO)」(毎週火曜深夜3時)が4月から深夜1時からの「1部」に“昇格”する。タレントやお笑い芸人のような“しゃべり”の専門家ではないマンガ家による深夜ラジオが、約11年ぶりとなる2部から1部への昇格を果たした理由は何なのか。一筋縄ではいかない魅力を探った。(堀池沙知子/毎日新聞デジタル)

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 「オールナイトニッポン」(ANN)は67年の放送開始以来、今年で46年を迎える長寿番組。12年4月からは若手のパーソナリティーを発掘・育成してきた「2部」が14年ぶりに「オールナイトニッポン0(ZERO)」として復活し、プロ・アマ問わず行われたパーソナリティーオーディションで選ばれた初代パーソナリティーが番組を担当してきた。同番組で久保さんと能町さんは火曜パーソナリティーとして「つらい!たのしい!大好き!」をモットーにローテンションなトークを繰り広げ、2月19日深夜の放送ではマンガ家ならではのネットワークを生かした「深夜の漫画家テレホンショッキング」で、マンガ家の森川ジョージさんや、やまだないとさん、直木賞作家の朝井リョウさんらが生電話で出演、“神回”として話題となった。

 久保さんはドラマや映画化もされ大ヒットとなった「モテキ」の原作者として知られ、現在は週刊少年マガジン(講談社)で「アゲイン!!」を連載しているほか、「笑っていいとも!」にも出演した。能町さんは「くすぶれ!モテない系」(ブックマン社)などのエッセーやコラム、マンガなどで幅広く活躍。雑誌やウェブなどで連載を抱え、支持を集めている。

 ◇「合格させるか悩んだ」ペア

 12年1~2月に行った「ZERO」の一般公募オーディションには1609組が応募。その中から各ディレクターによって絞られた約60組が面接に挑んだ。番組の松岡敦司プロデューサーによると、久保さんと能町さんは「最後の最後まで合格させるか悩んだ」ペアだったという。面接の際、2人から見えないところで様子を観察したという松岡さんは「面接って偉い人が来ないもんなんだねえ」という2人の“ネガティブぼやき”に思わず噴き出してしまったという。一方、蔵持正ディレクターは、「“ベストオブ自分”を出すために特番のような勢いでしゃべるほかの候補者」とは対照的な久保さんと能町さんに興味を持ち、2人を見た瞬間に、番組の内容や構成が思い浮かんだという。

 実は、松岡プロデューサーは久保さんが「モテキ」の原作者であるということも知らなかったといい、それだけに「久保さんや能町さんを名前や話題性で選んだと思われるのがいやだった」と明かす。「ツバが付いているものをやっても、二番せんじになるから面白くない。『ZERO』だからこそ、ゼロから何かを生み出したかった」という思いが強かったという松岡プロデューサーは番組スタート時、「だめなら1クール(3カ月)で打ち切る」と出演者全員に言い渡したという。

 ◇「相撲はまだか?」50、60代から圧倒的支持

 番組は「一番つらいのは自分たち」と公言する久保さんと能町さんのローテンショントークが特徴。「きらびやかな雰囲気の人は、ラジオは聴かないで“シャンパンを飲んでいる”と思う。だからキラキラではない方向に向かっている2人のラジオに共感は集まるだろう」という確信はあったという松岡プロデューサーだが、意外にも反響が大きかったのは50、60代だった。早起きし過ぎてラジオを聴いてしまった人や仕事に行く前に聴いて「一日の活力にしている」という人、(能町さんが相撲愛を語る)「相撲ガール教習所」を心待ちにして「相撲はまだか?」という50代の男性からの声が届く一方で、テーマによっては小学生からメールがくるといい、松岡プロデューサーは「ただ聴いているだけのサイレントマジョリティーは相当いるのでは?」と推測する。

 ◇人気の秘密は……「卑屈さの表現力」

 幅広い世代の支持を受ける同番組の魅力を松岡プロデューサーは「ネガティブなことばかりしゃべり続ける人ってなかなかいないし、2人とも表現者なのでしゃべりや発想が“立って”いる。20代の若い子と比べると熱がある。発信していくパワーがすごいところが昇格の決め手なのでは」と分析する。当の久保さんも「卑屈さを飼い慣らしていて、非常に自信のなさの表現力にあふれている。卑屈さの表現力は負けない」と自信を見せ、「そんな私たちの代わりになるものがまだまだ群雄割拠していないのでは」と話し、能町さんも「こういう女性2人組って今までいなかったのでは」と同意する。一方、番組の構成を担当する蔵持ディレクターは、リスナーが聴いて懐かしいと思う曲を選んで「中和」しているといい「(2人のトークで)耳を汚して(音楽で)耳をきれいにするという“バランス”を心がけている。そのバランスが(人気の)秘密では」と笑う。

 11年ぶりの昇格にスタッフのテンションも上がっているという制作側に対し、久保さんと能町さんはどう感じているのか。能町さんは「何となく、手応えというか、思ったよりいい感じだなと夏ごろから思っていた」という。久保さんは「例えば、私たちがいきなり1部に出ることになっていたら、どうリスナーと接していいのかとか悩んだり、気負いがあると思う。2部から始めてスタッフもリスナーもみんなが助けてくれたのでリスナーの顔が見えて対話できている感じがする。だから1部に上がったとしても知らない人が聞いているという感覚にはならないと思う」とパーソナリティーとしての手応えを感じているようだ。

 4月から番組がどんな方向に進むのか気になるところだが、松岡プロデューサーは「これ(昇格)で、満足していない」とにやり。「1部昇格で現在の11局から36局ネットに上がる。ツイッターでも話題になっていて『オードリー』の若林正恭さんも聴いているし、マンガ家さんも聴いている人が多い。人気がまやかしではないのかということを確かめたいし、実際にリスナーに響くのであれば、全国で戦ってもらいたい。スタジオから出てイベントやるとか、マンガとは別のところでムーブメントやヒットを作りたい。それが2人への課題です」と期待を寄せる。

 ◇目標はまさかのタモリ?

 そんな制作側の思惑や期待に2人はどう応えていくのか。久保さんは「私たちがメジャーになるのではなく、メジャーの世界で私たちがいろいろこなさなければいけなくなると思う。苦手意識があるところでどうさばいていけるのかが芸になっていくのかなあ」と想像するが、「『つらかったこと』『面白かったこと』『クソッって思ったこと』を能町さんと話すという“初心の初心”のスタイルは変えない。そこの部分はいつだって初心に戻る自信はある」とキッパリ。一方、能町さんも「もともと『楽しいラジオにするぞ!がんばるぞ!』っていうのは一つも出していないし、1部に上がっても『気合』を身につけるつもりもない。(制作側が)やらせたいことと私たちが対立しているのを含めて面白がってもらったらいいなと思う」と相変わらずの“俺たちペース”。しかし「まさにタモ(タモリ)さんですよ。深夜アングラ芸人だったのに、真っ昼間に出させられて……。一緒だって思いたい」と付け加え、ひそかな“目標”を掲げた。

 「久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン」は、4月2日からニッポン放送ほか全国36局で毎週火曜深夜1時に放送される。

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