小野憲史のゲーム時評:180万人利用のゲームエンジン 作って楽しむ文化に

800人以上を集めたゲーム開発者向け会議「ユナイト・ジャパン」
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800人以上を集めたゲーム開発者向け会議「ユナイト・ジャパン」

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、現在のゲーム開発環境について語ります。

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俗にゲーム機の第7世代と呼ばれるPS3、Xbox360、Wii。特徴は「ゲームエンジン」と呼ばれる統合開発環境の普及で、ゲーム開発者はハードの違いを意識せず、効率的にゲームを作れるようになったことだ。中でもデンマークで誕生した「Unity(ユニティ)」は高性能な無料版を提供。スマートフォン向けゲームやブラウザゲームも作れるとあって、世界で180万人が利用するまでになった。

 4月15、16日に開発元のユニティ・テクノロジーズは、国内で初となるゲーム開発者向け会議「ユナイト・ジャパン」を都内で開催し、単一のゲームエンジンのものとしては異例の800人以上を集めた。ミドルウェアやツールメーカーもユニティ対応をアピール。任天堂も、Wii U向けにカスタマイズした「Unity for Wii U」のセッションで、開発者にゲームの作りやすさを訴えた。

 ユニティ成功の秘密は性能もさることながら、フリーミアムと呼ばれるビジネスモデルをいち早く採用したことだ。クリエーターは無償版で作ったゲームでも自由に販売でき、手数料も要求されない。一方で同社は、より高性能な有償版に加えて、本体の機能を拡張させるプログラムや、ゲーム作りに使えるデータなどを第三者が自由に開発・販売できる「アセットストア」を通して、手数料を取る仕組みを整えた。中にはアセットストアで月商300万円を記録する開発者もいるという。

 これに加えて日本では、ソーシャルゲームのスマートフォン対応が追い風となった。フィーチャーフォンの人気ゲームをスマートフォンに移植する際、ユニティで開発すればアイフォーンとアンドロイドの両端末に対応させられるからだ。ゲームエンジンのユーザーが増えれば、ミドルウェアメーカーやハードメーカーも追随する。プレイステーション4を発表したソニー・コンピュータエンタテインメントも3月にユニティ対応を表明。業界ではゲーム機やOSではなく、ユニティなどのゲームエンジンを中核としたシステムが成長しつつある。

 一方で、同社の戦略も注目を集め始めている。生き馬の目を抜くゲーム・IT業界では、企業の売買収も日常茶飯事だからだ。2004年にはゲームエンジンのレンダーウェアを擁するクライテリオンがエレクトロニック・アーツに買収され、ライセンス販売を停止したため、業界を震撼(しんかん)させた。ユニティ社CEOのディビッド・ヘルガソン氏は基調講演で経営の健全性と独立性をアピールしたが、こうした懸念点に先手を打ったとも考えられる。

 第8世代とされるWiiU、プレイステーション4、次世代Xboxではゲームエンジンの重要性がさらに高まるとみられ、各社で研究が進んでいる。有名なゲームエンジンといえば、ハイエンド向けのアンリアルエンジン(エピックゲームズ)や、国産エンジンのオロチ(シリコンスタジオ)、スクウェア・エニックスが自社開発したルミナススタジオなどがある。ゲーム会社にとって、他社開発のゲームエンジンに傾倒しすぎるのはリスクをはらむが、コストがかかる自社開発もまた高いリスクをはらんでいる。経営にはさらなるバランス感覚が求められそうだ。

◇プロフィル

おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に「ジョブチェンジ」。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年にNPO(特定非営利活動)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。

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