オスカー俳優のメリル・ストリープさんとトミー・リー・ジョーンズさんが、離婚の危機を迎えた熟年夫婦を演じる「31年目の夫婦げんか」が26日、公開された。すてきなマイホームがあり、夫の仕事も順調。子どもたちは独立し、あとは夫婦水入らずの幸せな老後を待つのみ……はた目には円満な、結婚31年目のアーノルドとケイのソームズ夫妻。しかしその実態は、いつのころからか寝室は別。会話はないからけんかもないけれど刺激もない……そんな不毛な関係を改善すべく、ついに妻が行動を起こす。この、夫婦間における切実な問題を映画化したのは、デビッド・フランケル監督だ。ストリープさん主演の「プラダを着た悪魔」(06年)でもメガホンをとった。そのフランケル監督は「これは普遍的な話。世界中の夫婦が、愛する人と親密な関係を持てていないと感じているんじゃないかな」という。来日した監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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フランケル監督によると、米国では今、「デートナイト」といって、わざわざデートに出かけるカップルが増えているのだそうだ。「子どもがいる家庭ではベビーシッターを雇ってでも出かけていく。そうすることで、育児や銀行ローン、親の介護、仕事の重圧といったしがらみがなかったころの、相手に対する恋愛感情を少しでも取り戻そうとしているんだ。夫婦間において一緒にいる時間が長くなるとセックスレスになってしまいがち。だから、そういう2人で過ごす時間を無理にでも作ることは、結構役に立つと思う」と説明する。
ところが、今作のアーノルドとケイは、デートナイトを試す気持ちさえ起こらないという夫婦。堅物で保守的なアーノルドは、ゴルフ番組を見る以外、趣味はなく、ケイに贈る記念日のプレゼントだって、最近はもっぱら給湯器というロマンチックとはとても言えないものばかり。そんな夫の、自分に対する無関心さに心を痛めたケイは、かつての情熱的だったころの関係に戻りたいと大胆な行動に出る。1週間の滞在型カウンセリングを予約したのだ。最初は抵抗していたアーノルドも、ケイの決意の固さに折れ、渋々ながらついて行くことに。だが、そのカウンセリングは、結婚生活のすべてをさらけ出し、課題をこなさなければならないというハードなものだった……。
ケイとアーノルドを演じるのは、フランケル監督いわく「演技経験豊富な2人」、ストリープさんとジョーンズさん。とはいえテーマがテーマだけに、2人もそれなりの覚悟はいったようだ。「(性生活の描写では)ある種のあやうさがさらに求められるからね。居心地の悪さを脚本段階では面白がられても、実際に演じるとなると別。特に、親密なシーンは撮り方が重要なんだ。そこは綿密に計算した。例えば、抱き合ったときの手はどうするのかとか、メガネをいつとるのかと。映画館のシーンでも、どの段階で何をするのか、そういうことを細かく決めて、そのあと2人に自由に演じてもらったんだ」と、俳優たちの不安を取り除く配慮をしながらの撮影だったことを明かす。
一方、ケイとアーノルドに過酷な課題を出すのは、「40歳の童貞男」(05年)や「ゲットスマート」(08年)の主演俳優スティーブ・カレルさん。コメディー俳優として知られる彼だが、今回はこれまでとは打って変わって、とてもハンサムなバーナード・フェルド医師を演じている。カレルさんについて、フランケル監督は「彼はシリアスな演技もうまいんだ。コメディー、シリアス、両方の作品において、いい意味で期待を裏切る芝居をしてくれる。そこにサスペンスを感じさせてくれる役者なんだ」と称える。
そのカレルさんが演じるフェルド医師が、ケイとアーノルドをカウンセリングする場面。もともと「その瞬間に火花が散り、本来生まれるであろうマジックが出てきにくくなる」との理由から、リハーサルはあまりしないようにしているというフランケル監督。今回のカウンセリングの場面でもリハーサルは最小限にとどめ、場合によっては行わないシーンもあったという。お陰でカレルさんは、ベテラン2人を前に、ものすごい緊張感と“恐怖”を味わったようだ。
最後に、フランケル監督に円満な夫婦生活を送る秘訣(ひけつ)をたずねると、「僕に聞くなんて……」と困りながら、「どうしてもというなら」と、「常に相手の言っていることに耳を傾け、努力を怠らず、相手のことを当然の存在として扱わないこと」と答えた。“ソームズ夫妻予備軍”の方たちには、格別に重みがある言葉ではないだろうか。ちなみに、フランケル監督がこれまで奥様に贈った一番すてきなプレゼントは、「僕もアーノルドと同じで、ミキサーとかエアコンなんだよね」と苦笑したあとで、「妻はハーシーのキスチョコが大好きなんだ。それを5000個ぐらい二つの花瓶に詰めて贈ったことがある。多分、妻が一番覚えてくれているプレゼントじゃないかな」と照れながら明かした。映画は26日から全国で順次公開中。
<プロフィル>
1959年、米ニューヨーク州生まれ。テレビドラマの脚本、監督、制作を数多く手掛け、テレビシリーズ「SEX AND THE CITY」(98~2004年)では6エピソードを監督した。94年「マイアミ・ラプソディー」で監督デビュー。テレビシリーズ「フロム・ジ・アース[人類、月に立つ]」(98年)、「バンド・オブ・ブラザース」(01年)や、「アントラージュ★オレたちのハリウッド」(04年)パイロット版の監督を務めた。06年、「プラダを着た悪魔」を監督した。ほかの作品に、「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」(08年)、「ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して」(11年)などがある。
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