海堂尊:新作小説「アクアマリンの神殿」 「バチスタ」の10年後描く 夏美の学園生活編3

夏美は中間試験において、担任とある賭けをしていた。“洞ヶ峠”とは、日和見を貫いたアツシに対する嫌みだろう (c)海堂尊・深海魚/角川書店
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夏美は中間試験において、担任とある賭けをしていた。“洞ヶ峠”とは、日和見を貫いたアツシに対する嫌みだろう (c)海堂尊・深海魚/角川書店

 ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。

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◇夏美の学園生活編 3 保健室情報

そんな麻生夏美が、ぼくの側に寄ってきてこう切り出したのは、中学三年の期末試験も無事に終わり、後は夏休みを待つばかりという七月、周囲が浮かれ始めたある日のことだった。

「四十七日ぶりに、佐々木クンにちょっとお話があるの」

 ぼくは即座に四十七日前のエピソードを思い出す。例の“洞ヶ峠発言”だろう。

 もちろんあれが四十七日前だという認識はなく、麻生夏美に言われたから、そう思っただけだ。ひょっとして五十一日前かもしれず、四十五日前と言われても、素直にうなずいただろう。

 だけどそれはゲタとのギャンブル、三年一学期の中間試験の直後のことしかありえない。なにせぼくはあの日から麻生夏美と会話どころか、接触もしなかったのだから。

「佐々木クンって、どんな授業でも居眠りしているから、ひそかにソンケーしていたのに、何だか裏切られた気分だわ。病気で診断書を提出したなんて、それなら合法じゃないの」

「何で麻生がそんなことを知っているんだよ」

「保健室情報よ」

「有川先生が喋ったのか。患者の個人情報漏洩は厳罰に付されるんだけどな」

 ぼくが非難の色をにじませて言うと、麻生夏美はあわてて首を振る。

「違うの、保健室で寝ていたら、新任の野田先生が佐々木クンの居眠りグセをコボして、保健室の有川先生がぽろっと答えたのが聞こえてしまったワケ。これって不可抗力でしょ?」

 確かに不幸な事故だったと言えないこともない。でもぼくの個人情報がダダ漏れになってしまったことには変わりがない。そこで、この件に対応せざるを得なくなった。

<毎日正午掲載・明日へ続く>

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