ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
謎の寄生生物・パラサイトが右手に寄生した高校生・泉新一と、他のパラサイトとの戦いを描いた岩明均さんの名作SFマンガの実写映画化「寄生獣」が全国で公開中だ。主人公・新一役で染谷将太さん、新一の同級生でヒロインの村野里美役で橋本愛さんが出演。新一の右手に寄生したパラサイト「ミギー」の声を俳優の阿部サダヲさんが担当している。その他、深津絵里さん、東出昌大さん、浅野忠信さんらが出演。監督・脚本・VFXを「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)や「永遠の0」(13年)、「STAND BY ME ドラえもん」(14年)を手がけたVFXの名手、山崎監督が担当した。一度映画化権が米ハリウッドに渡ったが、日本に戻ってきた際に名乗りを上げたという山崎監督に映画化に懸ける思いや撮影エピソードなどを聞いた。
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「寄生獣」は岩明さんが1990~95年に「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載した人気マンガで、コミックス10巻分の原作を今回は2部作で実写映画化。山崎監督は、連載時から原作マンガを読んでおり、物語の最初の部分で衝撃を受けたという。「おじさんの顔が割れて奥さんを食べたシーンでびっくりして。最初は主人公と右手に寄生したミギーとのバディものなのかなと思っていたんですけど、ミギーではない他のパラサイトは人間の脳を食っちゃう。絵が衝撃的だったので、単純にエンターテインメントとしてすごく面白いと思っていました。それが読んでいくにしたがってだんだんと深いところに向かっている話なんだなというのが途中から分かっていって……」と予想以上の衝撃だった。
連載は5年かかって完結したが、「終わったときは新一と一緒に旅をした気分になって。すごく満足感がありましたし、キレイにまとまったなと。人気作って無理やり延長していくケースも多いんですけど、すごく正しい位置で終わってよかったなと思いました」と語る。
衝撃を受けた原作の実写化にあたって監督として関われたのはタイミングと運も味方した。「連載が始まった頃はVFXを目指す学生でしたね。(連載)途中からそういう仕事に就けた。当時は、これが映画になるんだったらスタッフとして参加したいなと思ってましたけれど、監督とは思っていなかった。だから(権利がいったん)米国に行っていてよかったなと。その間にこちらも準備できたので。好きな作品の監督ができる巡り合わせになって、実際に監督ができてよかったなと思います」と笑顔で語る。
映画化にあたって、映画のプロデューサーが原作者の岩明さんを訪ねた。そのときに託されたのは「センス・オブ・ユーモアを大事にしてほしい」という言葉だった。「そこはかとなく漂うユーモア、ただ笑わせるのではなく何かおかしいという部分を大事にしてください、と言われました」と明かす。
「同じ日本語をしゃべっているんだけど、人間とミギーにはものすごくずれがあって、『人間しか食べてないのに、なんで怒られなくちゃいけないんだ』というミギーの存在にハッとさせられるんですね。生物という観点からいうと、正論なんですよ。なんでもかんでも食い散らかしている人間に、なんで人間1種しか食べていないのに文句いわれなくちゃいけないんだ、と。生物という価値観からいえばものすごく正論で、でも人間の価値観からすると何をいってるんだこいつってなるじゃないですか。そういうところから生まれるギャップは大事にしたいなと思いましたね」
その時点でミギーのキャスティングが決まっていなかったというが「普通に話していてもちょっと面白いという、何か面白みがにじみ出てしまう人。そういうのが阿部さんにお願いした理由の一つでもあります」と阿部さんに白羽の矢を立てた。
新一の右手に寄生したミギーを、実写映像と違和感なく表現するには、想像以上に大変だった。山崎監督は今回、ミギーについて「コンピューターグラフィックス(CG)が分からない年齢の子が見たら、ああいうのが(本当に)いるんだよねと思うような感じにしたかった。キャラクターとして(他のキャストと)一緒に普通の存在としてそこにいてほしかったんです」と自然な形で画面に溶け込むことに腐心した。
それによって「ものすごく長い尺をCGでつながなきゃいけないので、当たり前ですけど逆にこちらは大変だった」と振り返る。「人物と別の場所にミギーがいて、勝手に動いているときはまだやりやすいんですけど、(新一の)右手にくっつきながら戦うのは想像以上にたいへんで、手をずっと3D的に追いかけなきゃいけないですし、ミギーの形がどんどん変わっていくので、そのメタモルフォーゼ(変身)自体がいままでやったことのないチャレンジでした。(作業中は)できると思ったのは浅はかだったなと実感することの連続でしたね」と苦労を重ねた。
最終的にVFXが納得できるようなものに仕上がったのは、実は日本のゲームメーカーの最新システムが利用できたお陰だった。
「寄生獣」といえば“顔割れ”のシーンだが、そのシーンを実現するには寄生されるキャストの顔を精巧な3DCGスキャンでデータを取らなければならない。「僕らが満足するような3Dスキャンがなかなか日本にはなくて、それがコナミ(デジタルエンタテインメント)の奥深いところに最新のシステムが最近できたというのを聞きつけて、日本映画のために無理やりお願いしました。コナミさんでもまだ試験的にしか運用していないときに、すごいセキュリティーの中をかいくぐって、超最新式のスキャンシステムを貸していただいて、そこに(寄生された)役者さんたちに来てもらってデータを取りました」と明かす。
また、ミギーの動きは声を担当した阿部さんの動きをモーションキャプチャーで取り込んだ。「こちらはスクウェア・エニックスの社内の奥地にある、シークレットな壁の奥のセキュリティーが本当に厳しいところにあるシステムを使わせてもらいました。入るときも絶対にその会社の人に付いて行ってもらわないといけないような場所で、会社の方に『(トップシークレットなので)あまり周りを見ないでください』と言われて、ずっと奥の方に入っていってシステムを使わせていただいたという感じでしたね」と話し、「日本のトップのゲームメーカーのトップシステムを日本映画のために貸していただいたというのは、すごく感謝しています」と感謝の言葉を述べた。
ミギーをどう表現するのか、そしてどういう声になるのかは映画化の際に関心が集まった。俳優の阿部さんが担当することになった理由を、山崎監督は「声の質はあまり気にしていなくて、存在として2時間、前後編でいうと4時間近くを主人公と一緒に過ごす相棒じゃないですか。それに耐えられる人じゃないとまずいなと思ったんです。その人が持ってるスペックに頼りたいというか、いい役者さんでやりたいと思った」と語る。
そして、「阿部さんなら4時間過ごせる。新一という人間のすさまじい地獄巡りのような旅で唯一相棒というか、最初は敵か味方か分からない人がだんだん心が通ってくるという相棒を演じていただくにあたって、魅力的なことができる人でやりたかった。それには阿部さんはどんぴしゃなキャスティングだった」と自信をのぞかせる。
そこで、「ミギーを形づくるにあたって一番ベースになるのは役者さんの持っているスキル。(表情や動きを)瞬間に形づくっていく部分です。人間が手(作業)で動きを付けていくとすごく時間もかかるし、頭の中で考えた動きになるんですよ。ある種、偶然性がまったく動きになっちゃうんですね。そこで阿部さんのスキルをできるだけミギーに費やしたい、阿部さんにはリアルタイムで体で表現してもらいたいと考えました。顔もコンピューターの中に取り込んで、そこから起こしたデータで唇も動かしています。また動きも阿部さんにやってもらって、モーションキャプチャーというよりパフォーマンスキャプチャーになっているんです」と“顔出し”はしないが、阿部さんにミギーを存分に演じてもらった。
「寄生獣」は前編が11月末に全国418スクリーンで公開され、公開2日間で約25万6200人を動員。興行収入は約3億4000万円とロケットスタートを切った。後編となる「寄生獣 完結編」は2015年4月25日に公開予定。
<プロフィル>
1964年生まれ、長野県出身。阿佐ケ谷美術専門学校卒業後、86年白組入社。2000年、SMAPの香取慎吾さん主演の「ジュブナイルJuvenile」で映画監督デビュー。05年に「ALWAYS 三丁目の夕日」、07年に「ALWAYS 続・三丁目の夕日」、12年に「ALWAYS 三丁目の夕日’64」をヒットさせる。他の監督作に「BALLAD 名もなき恋のうた」(09年)、「friends もののけ島のナキ」(11年)、「永遠の0」(13年)、八木竜一監督との共同監督作「STAND BY MEドラえもん」(14年)などがある。
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