SPECIAL EDITED VERSION 『ONE PIECE』魚人島編
第8話 弱虫で泣き虫!人魚姫しらほし
12月22日(日)放送分
「劇画」の生みの親であるマンガ家・辰巳ヨシヒロさんの自伝エッセーマンガ「劇画漂流」を基にした劇場版アニメ「TATSUMI マンガに革命を起こした男」が公開中だ。今作は、辰巳さんの足跡に代表的な短編5作を織り交ぜ、大人が読めるマンガ「劇画」を作り出し、高度成長期の日本の光と影を描き続けた作者の半生を描いている。劇画を生み出した辰巳さんのタッチを表現することに精力を注いだエリック・クー監督と、一人6役で各キャラクターを演じている俳優の別所哲也さんに辰巳作品の魅力などを聞いた。
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辰巳作品との出合いは「20年くらい前になる」と話すクー監督は、「私にとって辰巳先生はインスピレーションの源で、憧れてマンガを描いていたこともある」と尊敬の念を抱いている。そして、「映像作品を撮るようになっても先生の作品の影響が必ず出てくるので、先生の魅力を知ってもらう映画を撮りたいと、ずっと願っていた」と今作の製作を熱望していたことを明かす。一方、別所さんは辰巳作品を「この作品に出合うまで知らなかった」といい、「日本の大半の方が、今回の映画で辰巳さんのことを知るのでは」と話す。
そんな2人に辰巳作品の魅力を聞くと、クー監督は「名もなき人々の日々の生活や悲劇などを描くのが本当にうまい」と絶賛し、「辰巳先生自身、映画好きで多くの作品を見ていらっしゃっていることもあり、マンガを読んでいると映画的なセンスを感じる」とその特徴を表現。「世の中の9割以上の人が光り輝いている方を映し出すとしたら、たった1%のダークサイドにある物語を優しく愛情も持って作っているところ」と別所さんは魅力を語る。さらに「『すごくたくさん光を浴びると、すごく真っ黒な影を背負う』という言葉が好きですが、人間には光と影それぞれの面があって、影の部分を僕たちはいつも忘れたり見ないようにしている」と前置きし、「今作を見ると影の部分を隠したり否定せず、両方あって人間なんだと感じられ、それが“辰巳ワールド”だと思う」と力説し、「つまりは“エリック(監督の)ワールド”ともいえる」と映画にも言及した。
辰巳さんは、素晴らしい作品を数多く生み出し、クー監督や別所さんも感銘を受けるほどだが、残念ながら海外での注目度や評価が高さに比べて国内での知名度はいま一つだ。「先生はもっと評価されるべきだし、敬意を払われるべきだと思う」とクー監督は強調し、「天才的な才能を持つ人がいるということを(映画で)伝えたい」と意気込む。続けて「人間が生きる状況の描かれ方というのは普遍性があると思うし、今作は欧州や米国、アジアで配給が決まっている。その中で先生の作品を見直そうとか、新たに紹介するという動きが出ている」ことを自分のことのように喜ぶ。そして、「カンヌ(国際映画祭)で上映した時に辰巳先生がいらして、上映後に先生を抱きしめに行ったり、泣いている観客がたくさんいました」と振り返り、「映画を見て男の生きざまを感じ、劇画というものを理解してくれたのだと思う」と熱を込めて語る。
クー監督の話を黙って横で聞いていた別所さんは、「本来は日本人なら必ず知っていないといけない存在なのだと思う」と神妙な面持ちを見せ、「先生の作品は家族みんなで楽しむタイプではなく、胸が痛かったりなど心にグサッとくるようなストーリーだから、マスになりづらくあまり評価されなかった部分もあるのかもしれない」と持論を展開。続けて、「先生は昭和の時代をリアルに描いているが、日本人はほんわかしたところは見たいが、置き去りにされた弱者などからは目を背けがち」と分析。「そうはいっても、とてもエンターテインメント性にあふれていて、劇画でありながらとてもシネマチックなパワーを持っている」と辰巳作品を評する。
今作は一般的なアニメーションとは趣が異なり、マンガが動いているところに朗読が付き、なおかつドキュメンタリーであるという作品に仕上がっている。作風についてクー監督は、「これまで発表されてきたアニメ作品とは異なる独自の作品を作りたいという思いがあった」と胸中を明かし、「作品の色味」になによりもこだわったという。製作過程では「辰巳先生に相談する必要があり、作品が少しできると先生にチェックしてもらい、微調整するという繰り返しだった」と振り返る。
異色の作品である今作で、さまざまなキャラクターを演じ分けている別所さん。「体や表情を見せられず、声だけで(演技)というのは本当に大きなチャレンジだった」と声優挑戦の心境を明かす。「原爆経験者や高度成長期に生きる人々など、重い人生を背負うキャラクターが多かったので演じるのはとても難しかった」と役作りにはかなり苦戦したという。ちなみに映画に盛り込まれている短編で一番好きなエピソードは、クー監督も別所さんも「いとしのモンキー」と答えた。
今作についてクー監督は「私の映画ということになっているが、辰巳先生のビジョンが形になった作品」と言い、「直視したり読んでいてつらいという部分があると思うが、そこに美しさも同居している。その深みが非常にアートであり、それが伝わる部分だと思う」と作風を解説する。さらに、「先生ご自身は映画監督になりたいという夢もあったそうで、カンヌで先生と一緒にレッドカーペットを歩いている時、こういう形で先生の夢が実現したんだと感じた」と熱い気持ちを語り、「日本のマンガは今や世界中で知られ人気だが、表現の礎を作った偉大な辰巳ヨシヒロ先生の生きざまを多くの方にご覧いただきたい」とアピールする。別所さんは、「『アナと雪の女王』もいいけど、本物の大人になりたいなら今作を見ないと(笑い)。これが人間なんだとね……」とユーモアを交えてアピールし、「自分の影を見ないような人間は光を浴びる資格はない」と笑顔でメッセージを送った。映画は全国で公開中。
<エリック・クー監督のプロフィル>
1965年3月生まれ、シンガポール出身。1990年頃から短編映画製作をスタートし、長編デビュー作の「MEE POK MAN」がベルリンやべネチアなど主要映画祭で上映される。2作目となる「12 STOREYS」では第50回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」で上映され、シンガポール映画として初めて本映画祭に正式出品された。「BE WITH ME」はシンガポール映画として初めて第58回カンヌ国際映画祭・監督週間部門でオープニング上映され、第18回東京国際映画祭でアジア映画賞スペシャル・メンションを受賞し、第78回アカデミー賞外国語映画賞のシンガポール代表にも選ばれた。2008年には「MY MAGIC」がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品。同年には大統領から文化勲章を、フランス政府から芸術文化勲章シュべリエを授与された。
<別所哲也さんのプロフィル>
1965年8月31日生まれ、静岡県出身。慶応義塾大学法学部卒。1990年に日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビュー後、映画やテレビ、舞台、ラジオなどで幅広く活躍。ミュージカル「レ・ミゼラブル」をはじめ数多くの舞台で主演を務める。2010年には岩谷時子賞奨励賞を受賞。NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」(14年)などにも出演している。1999年から日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」を主宰。映画への取り組みから文化庁長官表彰を受賞し、観光庁「VISIT JAPAN 大使」、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員、カタールフレンド基金親善大使、横浜市専門委員、映画倫理委員会委員などに就任。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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2024年12月24日 08:00時点
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