「おまっとさんでした」でおなじみ、「出没!アド街ック天国」(テレビ東京系)の「あなたの街の宣伝本部長」のあいさつで知られるタレントの愛川欽也さんが15日、肺がんのため80歳で亡くなった。
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キンキンの愛称で知られる愛川さんを全く知らない人はおそらくいないはずだ。なぜならキンキンはテレビ、ラジオ、そして映画に、ずっと出続けていたから。「おはよう!こどもショー」(日本テレビ系)の今でいう“ゆるキャラ”の「ロバくん」の、声だけでなく「中の人」も務め、アニメ「いなかっぺ大将」(フジテレビ系)では風大左衛門に必殺技「キャット空中三回転」を教える「ニャンコ先生」。ミノルタ(現・コニカミノルタ)のCMでは研ナオコさんと共演し、「僕は美人しか撮らん。だからシャッター押さない」が流行語になった。当時は珍しかった若者情報番組「リブ・ヤング!」(フジテレビ系)を見ていた人は今は60代になっているはずだ。
名優ジャック・レモンの吹き替えや、昨年亡くなった菅原文太さんとのコンビでヒットした映画「トラック野郎シリーズ」、夜の情報番組「11PM」(日本テレビ系)の司会。そして楠田枝里子さんとの身長差も話題になった「なるほど!ザ・ワールド」(フジテレビ系)の名司会ぶり……と、とても書き尽くせない。
愛川さんは1934年生まれ。同い年の芸能人で作る「昭和九年会」も、大橋巨泉さん、橘家圓蔵さん、前田憲男さんらが健在だが、メンバーが少なくなった。第二次世界大戦中、長野県上田市に学童疎開し、東京の自宅は空襲で焼けた。「つらい体験で戦争は嫌だと思うようになった」。その思いは自伝的小説「泳ぎたくない川」(文藝春秋)に書き残している。
進学校の埼玉県立浦和高校に進み、「将来は東大を出て弁護士に」と思っていたが、演劇にハマってしまい、「演劇界の東大に入ったんです」と俳優座養成所の3期生に。同期には渡辺美佐子さんらがいた。
そして71年、深夜放送「パック・イン・ミュージック」(TBSラジオほか)のパーソナリティーとなり、若者の人気をつかんだ。ゲストがよく登場する番組で、永六輔さんや黒柳徹子さん、のちに結婚するうつみ宮土理さんも出演。時には政治や社会のことを話し、下ネタもあり、深夜放送の一時代を築いた。
そのトークのうまさが買われ、74年には伝説の「11PM」の司会に抜てきされた。以来、俳優、タレントとしてテレビの顔であり続けた。欽也さんは「ひどい番組もやってきたかもしれないけれど、手を抜いたことはない。マスコミで政治や社会のことに首を突っ込むと批判される。でも、僕は僕の目線で批判させてもらう。でも、そういう人、いなくなっちゃったよね。今の若い人たちには、僕らの時代のヤンチャな生き方から学んだ人生みたいなものがない。ちょっとかわいそうだね。もっと大胆に暴れたっていい時もあるんじゃないの……」と語った。
「オレってやっぱりラジオ人間だと思う。死ぬまでやりたい」とよく話していた欽也さんだが、大好きなラジオから離れる日が突然やってきた。09年2月、いきなり番組の冒頭で「きょうの放送で番組が終わります!」と宣言。スポンサーが付かなくなったことなどが理由だと説明し、「新番組が決まっているのを知ってしまった以上、お通夜のような放送はできない」と、3月まで放送予定だったのを自ら降板した。
一方で、欽也さんは「パックイン・ジャーナル」という討論番組を98年から2012年まで「朝日ニュースター」で続けてきた。タイトルはラジオ番組の「パック~」から名付けた。CSとケーブルテレビの放送だからこそ、地上波ではできない本音トーク番組として人気があった。ところが、こちらも局の再編に伴い終了。ラジオやテレビで自由にしゃべる場を失った欽也さんは、あきらめなかった。同年、インターネット動画サイト「kinkin.tv」を立ち上げる。
昨年放送のTBSラジオ「パックインミュージック」の特番で欽也さんはこう話している。「インターネットのテレビ局を作って、わざとラジオみたいな番組をやっている。ラジオのこの、どうしようもない、止められない危険性みたいのがうれしいね。テレビは大変なんですよ、そんなことやっちゃった日には誰かがいっぱいあちこち謝りにいったりなんかしてね、ラジオだって謝るんだろうけど、まあいいじゃないかってね(笑い)。どこかラジオのおおらかな精神が素晴らしいと思う」
放送だけではない。欽也さんは夢の実現に全力投球した。伝説の小劇場「渋谷ジァンジァン」が閉鎖後、渋谷に小劇場兼けいこ場を作り、うつみ宮土理さんのシャンソンがこけら落とし公演となった。劇場名は「渋谷ジョンジョン」。ところがすぐに閉鎖され、それでもあきらめなかった欽也さんは09年6月、東京都目黒区に「キンケロ・シアター」をオープンさせた。劇団を作り、若手を養成し、映画を作った。今月18日からキンケロ・シアターで上映の「満洲の紅い陽」が8作目の監督作品となった。
自分のやりたいこと、夢に向かって歩み続け、止まることがなかった愛川欽也さん。「アド街ック天国」を3月に降板し心配していた矢先の訃報。キンキンは自由と笑いを愛し、二枚目じゃないけれどカッコいい、やんちゃだけれども愛される兄貴だった。(油井雅和/毎日新聞)
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