ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
ディズニー/ピクサーの長編アニメーション「インサイド・ヘッド」が18日に公開された。11歳の少女ライリーの頭の中に存在する「ヨロコビ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」そして「カナシミ」という五つの感情たちが、ライリーを幸せにするために悪戦苦闘する様子を描いている。今作は「モンスターズ・インク」(2001年)、「カールじいさんの空飛ぶ家」(09年)のピート・ドクター監督と、今作が長編監督デビュー作となるロニー・デル・カルメン監督が共同で手掛けた。作品のPRのために来日した監督2人に、製作にまつわる裏話を聞いた。
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企画の発端は、ドクター監督の娘が思春期に差し掛かり、親離れしていくことに一抹の寂しさを覚えたことにある。「成長過程で頭の中がどうなっているのか」、そこから物語を作り上げていった。しかしその道は平坦ではなかった。
当初は、ヨロコビとビビリのペアを主人公にするつもりだったという。ビビリを選んだのは、ドクター監督が、「僕自身が中学で体験した感情だったし、映画的にも面白いと思った」からだ。しかし「どうもうまくいかなかった」。考えあぐねて、「仕事をやめ、引っ越しすら考えた」という。そのとき頭をよぎったのが、「引っ越すとなると友人たちとも別れなければならない。彼らとは、楽しい思い出はもとより、怒りや恐怖も共有してきた。それは悲しい」という思い。そのとき、感情同士の深いつながりに気付いたという。「そこから振り出しに戻り、ヨロコビとカナシミをペアにすることにした」と振り返る。
キャラクターの造形にも苦労した。「ファインディング・ニモ」(2003年)なら魚、「カーズ」(06年)なら車といった具合に、これまでのピクサー作品には、少なくともベースにできる形があった。ところが今回の感情にはそれがなく、「雲をつかむようなアイデアで、それを具現化することが挑戦だった」とドクター監督は語る。
中でも難しかったのは主人公の一人、ヨロコビを作り上げることだった。ただそれは、「デザインの観点からではなく、キャラクターとして脚本を作り上げる」ことに頭をひねったからだ。「誰もが幸せでありたいから、その気持ちを望む。でも、ずっとハッピーな人というのは、逆に不誠実だと思われてしまう。周囲も引いてしまう。主役にする以上、魅力的なキャラクターにしなければならず、喜び以外のほかの感情とのバランスが必要だ。それを見極めるのにかなりの作業を要した」と明かす。
五つの感情のルックスはこの上なくユニークだが、ライリーの頭の中に広がる世界もまたユニークだ。それはまるでテーマパークのようだ。「ディズニーランドが大好き」というドクター監督らしいアイデアだが、それも最初からイメージされていたわけではない。「ちょっとずつ作られていった」と証言するのはカルメン監督。「例えば“思い出保管場所”は、ものがたくさん保管されているということから、ピートが図書館をイメージした。夢を作る場所は、文字通り、夢を生み出すから製作スタジオからイメージしていった」と話す。
「人格の島はロニーのアイデアだ」と語るのはドクター監督。「ヨロコビがライリーの親代わりなんだ。だから、彼女(ヨロコビ)の一番のリスクは何なのかを考えたときに、それは、ライリーの人格が少しずつなくなっていくことだった。それを視覚的に見せたくて生まれたものなんだ」。
考え始めた当初は、柱や、天井からつるされているなどいろんな形を考えたそうだが、、試行錯誤の末、「島というのはマジカルだし面白い。視覚的にガラガラと崩れたときに、観客は『ライリー大丈夫!?』と心配になる。そう感じてもらうことがゴールだった」(ドクター監督)ことから島のアイデアが採用された。
さらに、観念的思考という場所も出てくる。カルメン監督によると「主人公のヨロコビが成長するための冒険の一つの試練ということで組み込まれている」そうで、最初は「印象派やキュビズムを考えたが、ライリーは11歳だから美術史には詳しくない」(ドクター監督)ということで却下。結果、最終的には「点のようなものに簡素化されていく」(カルメン監督)表現方法になった。
1995年に「トイ・ストーリー」が登場してから20年。今作はピクサー作品15作目にあたる。そのいずれもが徹底的なリサーチによって生み出されてきた。今作も同様だ。ただ、今回の舞台はサンフランシスコ。ピクサーの本社はサンフランシスコ湾を隔てた向かい側のエメリービル市にある。そのためリサーチは「ちっとも大変ではなかった」とカルメン監督は笑う。それでも、“思い出ボール”がソート(並べ替え)される様子を表現するために、美術チームがオレンジ工場に赴き、サイズや形の良しあしを選別するシステムを見に行ったという。
こうした行程を経て完成した今作を、「見てもらうことで、自分の感情というものを以前よりも意識してもらえるのではないかと思う」(ドクター監督)、「いろんな感情があるのには理由があり、私たちがいかにそれらに助けられているか。また、人と人をつなぐのも感情たちであることを、映画を見た人と共有してもらえれば」(カルメン監督)と両監督はアピールする。
カルメン監督はこれまで、ドクター監督の作品をストーリーの面から支えてきた。そして今回、ドクター監督によって共同監督に指名された。カルメン監督が、「ピクサーの中で最も尊敬されている監督の一人との共同監督には特段の思いがある」と喜びをあらわにしつつ、「ピートから、監督としての仕事を学び大きく成長できたと自負している。彼と、最初に作品の方向性とストーリーを決めることができたのは本当に楽しかった」と振り返ると、ドクター監督は「ロニーは、雲をつかむようなアイデアを、視覚的、物理的なものに落とし込む才能を持っている。そして、物語を試行錯誤する中、一番伝えたいことを見失いかけたとき、そこから引き戻してくれたのも彼だった。彼がいなければこの作品はできなかった」とカルメン監督を労い、互いの功績をたたえ合っていた。映画は18日から全国で公開中。
<ピート・ドクター監督のプロフィル>
米ミネソタ州出身。カリフォルニア芸術大学でキャラクターアニメーションを学ぶ。1990年、ピクサー・アニメーション・スタジオに3人目のアニメーターとして参加。「トイ・ストーリー」(95年)、「バグズ・ライフ」(98年)などの作品に関わり、「モンスターズ・インク」(2001年)で長編監督デビュー。原案、脚本も手がけた監督2作目「カールじいさんの空飛ぶ家」(09年)は、米アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた。
<ロニー・デル・カルメン監督のプロフィル>
フィリピン生まれ。フィリピンのサント・トマス大学で広告美術を学ぶ。広告業界のアートディレクターを経て、映画製作を目指し渡米。2000年、ストーリースーパーバイザーとしてピクサー・アニメーション・スタジオに入社。その後、「レミーのおいしいレストラン」(07年)や「カールじいさんの空飛ぶ家」(09年)、「メリダとおそろしの森」(12年)、「モンスターズ・ユニバーシティ」(13年)などに関わり、今作で長編映画監督デビューを果たした。
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