大島優子さんがアイドルグループ「AKB48」を卒業後、初主演した映画「ロマンス」(2015年8月公開)のDVD&ブルーレイディスク(BD)が10日にリリースされた。永作博美さん主演の「四十九日のレシピ」(13年)で知られるタナダユキ監督が、大島さんをイメージして脚本を書いたオリジナル作で、主人公の女性が偶然知り合った男性とともに箱根で母親を探す旅路を描いた。大島さんが小田急電鉄の特急ロマンスカーのアテンダントに扮(ふん)し、“不細工ギリギリ”のさまざまな表情で演じている。タナダ監督に撮影の裏話や作品について聞いた。
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――昨年の公開後、どんな感想が寄せられましたか。
直接聞いた感想ではありませんが、母親との関係に悩んでいた女性の「気持ちが楽になった」という言葉がうれしかったです。ロマンスカーで車内販売するコーヒーのコースターやアイスとコラボレートしたのですが、とても好評で、よく売れたと聞きました。あと、大島さんに車内放送をしていただいて、皆さんに喜ばれました。
――映画は大島さんを想定して作られたそうですが、そのいきさつを教えてください。
アイドル時代の大島さんを見ていて、彼女の中にドラマを感じていました。トップアイドルのセンターを務めて、いつも全力で笑顔。陰で努力もしていると思うのに、画面からはみじんも見せない。プロフェッショナルな魅力を感じていたので、制服を着てキリッとしたところを見せたいと思い、アテンダントという役柄になりました。映画の企画は、AKB48卒業後の1作目としてスタートしました。私自身は重いテーマの作品が続いていたので、肩の力を抜いて楽しめて、心に何か残る話にしたいなあと思いました。
――大島さんが演じるヒロインの鉢子がテキパキと車内販売の仕事をこなす様子が出てきますが、大島さんは時間のない中、どれくらいアテンダントの練習をしたのでしょうか?
ドラマ撮影の合間を縫って、小田急電鉄さんの事務所で1~2日だけ練習しました。カートは60キロぐらいあって、とても重いんです。列車の中ではG(重力)がかかるので、さらに難しい。でも、大島さんは体幹がしっかりしているので、コツを早くつかんでいました。見えない部分でも努力していたと思いましたね。
――列車の中での撮影はスムーズでしたか。
往復の決められた時間内で撮らなければならず、撮影は時間に追われていました。スタッフも慌ててピリピリしていましたが、大島さんがリラックスして元気で朗らかに撮影に臨んでくれたので、私の方も落ち着くことができました。
――母親との確執があった鉢子でしたが、思い出の地・箱根を他人と巡ることで、いい思い出も取り戻していきますね。このあたりの見どころは?
社会に出て数年がたって、母親に近い年齢になっている鉢子の母親への葛藤を見てほしいです。若い頃ならただ突っぱねてしまうのに、許せるほど心が広いわけではないけれど憎み切れない。思い出の地を巡ることで、いい思い出を思い出すとともに、そのときの寂しさも心によみがえってきたりします。
――そんな鉢子のさまざまな表情が見どころとなっていますが、「大丈夫かな」と大島さんご本人が思うほどの表情を引き出しています。表情の演出は、監督から細かく指示をされたのでしょうか。
私から表情を指示することはなかったです。脚本を飲み込んでくれた結果だと思います。
――相手役・桜庭を演じた大倉孝二さんもとても素晴らしく、2人の配役は相性抜群でしたね。
予想以上によかったです。大倉さんの舞台を見ていて、独特の色気が気に入り、いつかご一緒に仕事を、と思っていました。役の年齢設定よりも若かったのですが、謎めいた映画プロデューサーを巧みに演じてくれました。鉢子との掛け合いは、私も見ていて面白かったです。若い男性の観客の方が「大倉孝二、ハンパねえ、おもしれ~!」って言っていたという話を聞き、とてもうれしかったです。
――大涌谷や芦ノ湖や仙石原、たまご茶屋など、箱根のさまざまな観光地を一緒に巡っている気分になれるのも楽しいですね。監督のお気に入りの箱根はどこですか?
駅前が好きですね。おいしい梅干し屋さんやソフトクリーム、さつまあげなどの店があって、散歩しているだけで楽しいです。映画の舞台の中では、箱根駅伝にも出てくる芦ノ湖が好きです。
――繰り返し見てほしいシーンは?
どこを繰り返してもらってもうれしいですが、富士山のカットに注目してほしいです。晴れていて雲がかかっていない富士山を撮りたかったのですが、撮影中、まったく晴れなくて困りました。午前2時にラブホテルでの撮影が終わって、4時に起きて出発したクランクアップの日に、やっと晴れました。鉢子と桜庭、2人の心は晴れている、という作りにしたかったんです。曇りバージョンも撮っておいたので、両方使うことにしました。
――映像特典での見どころは?
予告編が3本、見られることです。昔は、助監督が予告編を作っていたそうですが、今は専門の会社が製作しています。この映画ではコンペをやったんです。映画の編集部の助手の人たちに3タイプ作ってもらって、そのうち1本を劇場で使いました。DVDで違うタイプの予告編を見ることができるのは面白い試みです。
――次回作「お父さんと伊藤さん」について教えてください。
中澤日菜子さんの小説を原作にした、上野樹里さんの主演作です。上野さんが演じる女性が20歳年上の男性と同棲(どうせい)しているのですが、そこに彼女のお父さんが転がり込んできて、奇妙な共同生活が始まります。ジワジワくるような作品になればと思っています。
――前作「四十九日のレシピ」と今回の作品、次回作と、家族の不協和音が共通のテーマに見られますが、監督のテーマなのでしょうか。
偶然そうなりました。でも自分に縁のないものは来ないと思っています。誰もが抱えている日常の葛藤を描きたいと思っています。
――最後に「ロマンス」をご覧になる方々にメッセージをお願いします。
自宅で気軽に飲み食いしながら楽しんでいただければと思います。ニューヨークで上映したとき、現地の日本人のおばあさんが「箱根が見られてよかった」と言ってくださいました。現在、修復中の小田原城も出てきます。箱根に行くことのできない人に、箱根気分を楽しんでいただけたらいいですね。
*出演は、大島さん、大倉さん、野嵜好美さん、窪田正孝さん、西牟田恵さんほか。10日にBD&DVDリリース。メーキング映像、初日舞台あいさつ、ロマンスカーイベントの模様なども収録。
<プロフィル>
1975年生まれ、福岡県出身。初監督作「モル」(2001年)でPFFアワードグランプリとブリリアント賞を受賞。監督作に「タカダワタル的」(04年)、「赤い文化住宅の初子」(07年)、「百万円と苦虫女」(08年)、「俺たちに明日はないッス」(08年)、「ふがいない僕は空を見た」(12年)がある。「四十九日のレシピ」(13年)で中国金鶏百花映画祭国際映画部門監督賞を受賞。大島優子さんが出演する「ミノン全身シャンプー」(第一三共ヘルスケア)のCMの演出も手掛けた。
(インタビュー・文・撮影:キョーコ)
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