キンプリ:“奇跡”の劇場版アニメ 大逆転の裏側

「KING OF PRISM by PrettyRhythm」のビジュアル(C)T-ARTS/syn Sophia/キングオブプリズム製作委員会
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「KING OF PRISM by PrettyRhythm」のビジュアル(C)T-ARTS/syn Sophia/キングオブプリズム製作委員会

 女児向けテレビアニメ「プリティーリズム・レインボーライブ」のスピンオフの劇場版アニメ「KING OF PRISM by PrettyRhythm(キンプリ)」(菱田正和監督)が“異例”のヒットを記録している。1月9日に公開され、わずか14館の公開という小規模でのスタートで公開2週目には9館に減少。興行成績は振るわず、3000万円程度に落ち着くという見方もあり、関係者は「お通夜状態だった」というが、4週目あたりから動員数が右肩上がりに増え、延べ上演館数は60館以上にまで拡大。公開から約2カ月の15日には興行収入が3億円を突破し、関係者は「奇跡」と驚いている。3000万円から3億円の“10倍返し”が起きた大逆転劇の裏側を探った。

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 ◇元々は女児向けアニメ ファンの期待に応えて製作したが…

 「プリティーリズム・レインボーライブ」は、現在放送中の「プリパラ」の前身でもある女児向けアニメで、2013年4月~14年3月に放送。アイススケートショーをモチーフとした“プリズムショー”というライブパフォーマンスがテーマ。「キンプリ」の主人公「Over The Rainbow」は、神浜コウジ、速水ヒロ、仁科カヅキの3人によるユニットで、元々はサブキャラクターだった。サブキャラクターを主人公にしたスピンオフが製作されるのは、アニメ業界では珍しいことではなく、スピンオフがオリジナルと変わらないほど人気になることもある。

 「キンプリ」のキャラクターは、昨年3月に公開された「プリパラ」の劇場版アニメ「劇場版プリパラ みーんなあつまれ!プリズム☆ツアーズ」にも登場。「プリズム☆ツアーズ」は上映日によって異なる4種類のストーリーが用意され、その一つのルート4でコウジらの活躍が描かれた。同作を手がけたエイベックス・ピクチャーズの西浩子プロデューサーは「キンプリ」の製作に踏み切った経緯を「ルート4に可能性を感じた。続編を作ってほしいという声が多く、コアなファンの方々がキャラの誕生日に(アニメを制作した)タツノコプロにフラワースタンドを贈っていた。期待に応えたかった」と説明する。

 ◇公開2週目は“お通夜”状態 逆転のきっかけは応援上映

 劇場版アニメは、前売り券にさまざまな特典を付けて販売するのが一般的になっている。コアなファンは特典目当てで複数枚の前売り券を購入する。「キンプリ」も公開前に特典付き前売り券を販売したが、想定を大きく下回る売り上げで、公開前から雲行きが怪しかったという。1月9日に14館で公開されたものの、公開2週目には9館に減少し、スタートにもつまずいた。

 劇場版アニメは、公開週ごとに異なる特典を用意して、コアなファンに何度も来場してもらうというビジネスモデルをとることもあるが、「キンプリ」は3週目までしか特典を用意していなかった。リピーターも期待できないことから、西プロデューサーは「興行収入は想定を大きく下回り、3000万円くらいに落ち着きそう……とお通夜状態でした」と振り返る。

 重苦しい空気を変えたきっかけになったのが、1月23日に新宿バルト9(東京都新宿区)で開催されたオールナイトイベントだ。コスプレ姿での入場や上演中に声援を送ったり、サイリウムを振ったりしながら楽しめる“応援上映”が行われ、コアなファンが集まった。イベントは当初、1スクリーンのみで開催予定だったが、チケットが完売したため、急きょ2スクリーンで開催。コアなファンが現地の熱気をツイッターでつぶやき、トレンド入りするなど一部で話題になった。

 1月24日に菱田監督がツイッターで「今週金曜日で泣いても笑っても劇場公開は原則終了になります」とつぶやいたことも起爆剤となった。オールナイトイベントが話題になったものの、公開が終了してしまう。需要と供給のバランスが崩れ、劇場にファンが殺到。劇場への問い合わせも急増し、公開館数が増えた。4週目に突入し、週替わりの来場者特典がなくなったにもかかわらず、動員数が右肩上がりとなった。応援上映だけが人気なわけではなく、通常上映も動員が増えていったという。

 ◇ライブ会場やニコニコ動画のような応援上映

 応援上映が行われるのは初めてではなく、14年3月公開の「劇場版 プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン」から実施され、「プリパラ」の劇場版でも人気を集めている。西プロデューサーによると「ライブを見るようにアニメを楽しんでもらいたい」という思いからスタートした企画だという。

 「キンプリ」の応援上映を見てみると、20~30代女性が8割程度で、本来、静かにしなければいけない映画館で、観客が大きな声で叫んでいる。ダンスシーンなのに、キャラクターが剣を振り回して戦ったり、裸になったりといった過剰な演出には、劇場に激しいコールが響き渡る。観客の突っ込みに笑いが起こることもある。

 応援上映はライブ会場のようでもあり、ニコニコ動画でコメントと映像を見ているようでもある。一人でアニメを見ているのではなく、ファンと一緒に“参加”しているような感覚になる。西プロデューサーによると、製作者側が“応援方法”を提示したり、仕切っているいるわけではなく、ファンが自主的にコールを考えているようだ。一度、参加するとクセになるのか、リピーターが多いほか、「プリティーリズム」を見ていなかった新規ファンも応援上映をきっかけに増えたという。

 ◇「キンプリはいいぞ」 ファンのつぶやきも後押し

 ツイッターによる口コミもヒットを支えた。アニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」のファンが作品を称賛する際に使う「ガルパンはいいぞ」という言葉が人気になっていることから、「キンプリ」ファンもツイッターで「キンプリはいいぞ」とつぶやき、話題になった。劇場のスタッフにもファンが多く、劇場にメッセージボードを設置するなど自主的に宣伝活動をしているといい、宣伝プロデューサーを務めるエイベックス・ピクチャーズの柴田理紗さんは「熱いファンの皆さまが宣伝隊長になっていただけた。感謝しかありません」と話す。

 15日には興行収入が3億円を突破。“お通夜状態”だったのはウソのようで、熱心なファンに支えられ、大逆転劇が起きた。西プロデューサーは「奇跡。信じられない。いまだに何が起きているのかよく分からない」と喜ぶ。劇中では、最後に“謎の予告編”があるが、西プロデューサーは「続編については何も決まっていません!」と語っているが、続編製作の大逆転劇も期待される。

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