古典落語と歌舞伎は扱う時代が重なっているなど遠くて近い間柄。あの落語が歌舞伎になったら面白いだろうな、と思うことも多い。今月、笑福亭鶴瓶さんが演じている落語が歌舞伎になり、現在、東京・歌舞伎座で上演中だ。歌舞伎を見たことのない人も、きっと楽しめることだろう。「廓噺(さとのうわさ)山名屋浦里」の作者、くまざわあかねさんと、脚本の小佐田定雄さん、落語作家の2人に聞いた。
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廓噺(くるわばなし)とは昔の吉原を舞台とした話で浦里は花魁(おいらん)の名前。 宗十郎(中村勘九郎さん)は堅物の若い武士で、江戸留守居役の身。ある日、寄り合いに江戸の妻、つまり吉原のなじみの遊女を連れて競おうということになる。宗十郎にそんな相手はいない。困った宗十郎は、ふとしたことで知った、飛ぶ鳥を落とす勢いの花魁、山名屋の浦里(中村七之助さん)の元へ向かうが……という物語。山名屋の主人に中村扇雀さん。坂東彌十郎さんと片岡亀蔵さんも、いじめる役を見事に演じている。
「山名屋浦里」は、「ブラタモリ」(NHK総合)で現在の吉原(東京都台東区千束)を訪れたタモリさんが地元で聞いた話を、鶴瓶さんに話し、「落語にしたら」と勧められたのが誕生のきっかけ。落語作家のくまざわさんが台本を書いた。
新作落語が歌舞伎の舞台に、よくぞここまで、さぞ紆余(うよ)曲折があったのではと思うが、「実は、鶴の一声ならぬ鶴瓶さんの一声なんです」と小佐田さん。鶴瓶さんと中村勘三郎さんは昔からの親友で、息子の勘九郎さんと鶴瓶さんの長男、俳優の駿河太郎さんも友人の間柄。昨年1月、鶴瓶さんの高座を勘九郎さんが見て、「歌舞伎にしたい」とすぐに思ったという。「当時は、歌舞伎化、いつかはね、という話だったのが、トントン拍子に進んで」とくまざわさんは語る。
「落語の高座と舞台は全く違いますね。演出家さんがおられて、我々は稽古(けいこ)を見ているだけだった」と2人は語るが、稽古中には、鶴瓶さんが超多忙なスケジュールの中、稽古場に駆けつけ、出演者を前に「山名屋浦里」を披露。出演者のテンションを上げた。
くまざわさん、そして小佐田さんに「えらいこっちゃ。すごいことやで」と鶴瓶さんは激励したという。初日の後には、鶴瓶さんは海外滞在中にかかわらず、出演者にメールや電話でコンタクトを取るなど、きめ細かいフォローも忘れなかったという。
宗十郎の潔癖さ、浦里の心の美しさもさることながら、「(出演の片岡)亀蔵さんに聞いたら、うちの芝居はそんなにかかってませんよと言われました(笑い)」(小佐田さん)とは思えない、豪華な舞台装置にも注目を。
「おそらく歌舞伎座は最初で最後」と言いながら、堂々とした駿河さんの演技も楽しい。歌舞伎俳優以外の歌舞伎公演への出演は異例だからだ。鶴瓶さんも「太郎はたぶん歌舞伎座の値打ちを分かってないんじゃないか。だから出られるんじゃないか」と話しているほど、堂々とした演技をしている。
「中村扇雀さんは、実に面白く演じていただいてます(笑い)」と小佐田さん。くまざわさんも「ネタバレになるので言えないんですが、ちょっといい役で、落語ではできない趣向の役になってます」と語る。「最後、ドーンと笑い取りますよ」と小佐田さん。
なかなか硬いと思われがちな歌舞伎だが、中村勘三郎さんや坂東三津五郎さんは、演技力を背景に、時には奇抜に、そして面白くと、努力を重ねてきた。歌舞伎界にとって大事な存在だった2人が早逝した今、後を継ぐ勘九郎さん、七之助さんの兄弟をはじめ、若い歌舞伎俳優たちの新たな試みに注目したい。
公演は28日まで。チケットは売り切れだが、見たい芝居だけを格安で見られる当日発売の自由席「幕見席」がおすすめだ。「廓噺山名屋浦里」の幕見席は、午後6時15分発売予定。上映開始は同7時48分を予定している。1500円。詳しくはホームページ(http://www.kabuki-bito.jp/news/3465)で確認を。(油井雅和/毎日新聞)